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よろずの運び屋ディルモット  作者: ハマグリ士郎
chapter2 奴隷オークション編
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第四十八話 【生かすも殺すも】



 ベアウルブの力強い振り下ろしは、ミリアではなく背中の壁へと向けられた。



「うわっ!?」



 糸も容易く壊れた壁は、大きな音を立てて崩れながら穴を開けたのだ。


 その穴が広がるごとに、男二人の慌てた姿がよく見えた。



「グゥゥゥッ……!」



 血反吐をこぼしながら、ミリアの槍をゆっくりと腹から抜き押し返すと、ベアウルブは満面の笑みで振り返る。


 何が起きたのかと理解出来ないミリアは、微かに自分の身体が震えていることに気付いた。


 ベアウルブが歩み、二人の白衣姿の男が狭い部屋の中で椅子やコップを投げつけながら逃げようともがく。



「く、来るな! て、テメェはオレらの飼い犬だろうが!」



 若い男が顔を引きつらせながらも、わざわざ挑発するような言葉選びをする。


 突然、ベアウルブは止まらない。



「そ、そこの人! 君は騎士だろう!? 助けてくれ! 魔物が暴走を──っ!」



 白羽の矢が立ったのはミリアであった。


 先程までベアウルブと対峙していたのだ。助けを乞うてくるのも無理はない。


 だが、ミリアが対峙していたのはあくまでも少年を助けるためであって、男二人はどうでも良い関係だ。



「お、おい! 助けろ! 騎士は弱きを助けるんだろ!!」



 若い男が都合の良いことを叫ぶ。


 今から起きる惨劇は安易に予想出来る。

 魔物の脅威に怯える一般市民を守ることは、騎士として──警備隊隊長としての義務であり、正義である。


 だが、今の状況はどうだろうか?

 一般市民が邪魔だという理由で魔物を操り、罪の無い子供を殺そうとしていた。


 男二人に牙を向けるベアウルブも、少なからず被害者側になる。



「……私は、誰を助けなければいけないのでしょう」



 命の価値を定めてはならない。

 命は平等であり、命を脅かす存在から守ることが騎士の本分である。


 自問自答をするミリアは、血だらけの槍と自らの手を見据えて声を震わせた。


 たった一つ。明確な答えはある。



「お、おいっ!!?」



 男二人に背を向けたミリアに対して、若い男は絶望した様子で迫り来るベアウルブを見上げた。



「ルガアァァアッ!!」


「ひぃあっ……がっ!」



 目の前の光景から逃げ、ミリアは涙を流しながら少年の下まで駆け寄った。



「もう大丈夫ですから! 貴方を安全な場所まで必ず送り届けます!」



 椅子から縄を外し、少年から猿ぐつわを外して強く抱きしめた。



「うう、げほっ……」


「走れますか?」


「う、うん……!?」



 真剣に問い掛けるミリアに、黒髪の少年は弱々しく頷こうとして、彼女を突き飛ばした。


 同時に、黒い影がぬっとミリアたちを覆い、リズムよく床に水が落ちる音が響き渡る。



「……この子だけは……っ」



 なんとしてでも、とミリアは黒髪の少年を引き寄せ抱き締める。


 振り返りもせず黙ってベアウルブに背中を向けるミリアは、やはり震えていた。


 そんな背中に、ベアウルブは優しく血塗れた手を当てたのだ。



「ア……ガ……」



 鳴き声ではない。

 何かを伝えようとした短い言葉に、ミリアは驚きゆっくりと顔を上げた。


 そこには、微かに微笑んでいるように見えるベアウルブがいた。



「……貴方も、生きて下さい」



 意志疎通が出来ているのかは分からないが、ミリアは真っ直ぐ見据えて訴えかけた。


 それが伝わったのか、ベアウルブは静かにうなだれると踵を返し、足を引き摺るようにして階段の方へと姿を消していった。


 もう、長くはないだろう。

 それでも生きてほしい。



「お姉さん……泣いてるの?」


「──ううん、大丈夫。さあ、行きましょう!」



 ミリアは立ち上がると、黒髪の少年と手を繋ぎ、暗い階段の方へと歩いていく。


 上を見ると、ベアウルブの姿はどこにもなかった。少しだけ安堵して、二人は階段を上がり細い通路へと進んでいく。



「明かりが!」



 遠目に見えた淡い光に胸を撫で下ろし、ミリアは指差して早足で向かう。


 だが、淡い光は唐突に消えた。

 否。人影に塞がれたのだ。



「アベル!!」



 人影は聞き覚えのある声であった。



「おじいさま!」



 アベルと呼ばれた黒髪の少年は、おじいさま──ベルガルの方へと駆け出した。


 光に包まれたベルガルにアベルが抱き付くと、細い通路は小さな明かりに灯された。



「ベルさん! 良かった、来てくれていたんですね」


「ああ本当に……って、君……血塗れではないか! 何があったんだい」



 城内ホールに戻ったミリアは、ベルガルの問いに対して首を左右に振り、表玄関の方へ指差した。



「それよりも早く逃げましょう!」


「そ、そうだった。アベル、全力で走りなさい」



 城内ホールの表玄関では、ベルガルの部下たちがいるようで、全力で走るアベルの腕を掴んで引っ張ると、大歓声を上げていた。


 続いてミリアも駆け出そうとした時、ベルガルが首を左右に振った。



「ディルモットさんはどちらに? 王子は?」


「それが、厄介な方に見つかってしまって──」



 出口に向かいながら、ミリアは事の経緯について詳しく話し始めた。




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