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よろずの運び屋ディルモット  作者: ハマグリ士郎
chapter1 魔臓器奪還編
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第十話 【小悪党の魔法】



 誰もいない骨董屋の奥まで踏み入れたディルモットは、辺りを見回して眉間にしわを寄せた。


 見張りも居らず、監視の類いである魔法や動物など居るわけでもなく、あからさまに怪しい扉は誘っているとまで見てとれるのだ。


 扉を蹴破れば、中から突然の反撃を食らうかも知れない。


 だが、ここで暴れれば間違いなく外から野次馬が乱入してくるだろう。



「選択肢は二つに一つってやつか……ねえ!」



 ディルモットは躊躇うことなく、怪しい扉を勢いよく蹴破った。


 凄まじい音が骨董屋に響き渡り、扉が壁にぶつかると共に埃を舞い上がらせていく。



「な、何だ!? 誰だテメェ!」



 悪役のお決まりな台詞を吐いたのは、割りと狭い部屋の右端にいたモヒカン頭の男だ。


 荷物とテーブルを囲むように、他の下っ端共が三人。ディルモットの登場に驚きつつも、睨みを効かせ身構え始める。


 部屋の中には藁や布が多く、戦闘をしても大丈夫だろうと確信した。



「やあこんにちは。小悪党の皆様」



 軋む床板を踏み鳴らし、わざと煽るように言い放ちながら、ディルモットは小悪党の前に歩み寄っていく。


 ターバン男、優男、ハゲ男。


 警戒する三人の下っ端共だが、先に吠えたモヒカン男は、勢いよくディルモットに殴り掛かった。


 その拳を、ディルモットはほんの少し後ろに下がり避けると、モヒカン男の足を掛ける。



「ぬおぉっ!?」



 お手本のようにディルモットの足に引っ掛けられたモヒカン男は、よたよたと前へ進むと、体制を崩し藁の中に頭から突っ込んでいった。



「おいおい、止めてくれないかな。まだ挨拶しただけじゃないか」



 呆れるディルモットに対して、モヒカン男は素早く藁から顔を出し、無策で再び殴りに掛かろうとした。


 それを、太い何かが制止させた。



「おい、止めろ」



 制止させたのは、髭面で大柄な男だ。


 身長は二メートルはあるだろうか。

 エプロン姿がミスマッチで、大部分は筋肉で出来ているであろう大男は、凄まじい形相でモヒカンを睨み付ける。


 モヒカン男は小さく悲鳴を上げ、情けない姿を晒しながらも下っ端共の後ろに下がっていった。



「よぉ、ここは骨董屋だ。暴れてぇなら場違いだぜぇ」


「生憎、わざわざ暴れたくて来た訳じゃなくてねぇ。ちょっくらこの店の前で落とし物をしたのさ。なあに、見つかれば帰らせてもらうよ」



 大男は腕を組み、ディルモットの前で笑った。


 その気迫や威圧は相当なものだが、ディルモットは飄々とした態度で言葉を返す。




「はぁん、落とし物たぁ……そりゃあなんだ」



 大男の問いに、ディルモットは沈黙した。


 下っ端共が気味の悪い笑みを浮かべ、大男は鼻を鳴らしディルモットを見下す。


 状況は最悪だ。

 数は多いがそれほど問題ではない。


 だが、この大男の存在は厄介だ。

 他は雑魚でも、この大男だけは只の小悪党ではないらしい。



「話してくれねぇなら仕方ねぇ。だが、簡単に帰す訳にはいかねぇ」


「アタシも、簡単に取り返せる落とし物とは思ってないさ……っ!」



 どちらが早かっただろうか。


 ディルモットの言葉が終わると同時に、大男の拳が彼女に襲い掛かった。


 それを、間一髪で躱したディルモットは、後ろに飛び退きダガーを構える。


 

「……狭いな」



 だが、ディルモットの背中は既に壁と密着しており、前から奮われる大きな拳を避けることで精一杯だった。



「舐めんなよ糞アマがぁっ!」



 大男の攻撃を避けたところで、狭い部屋の中では次々と下っ端共の追撃に襲われるばかりだ。


 一人一人に時間を掛けていては、すぐさまねじ伏せられてしまう。



 ならばと、ディルモットはモヒカン男に目を付けた。



「おらおら! 死ねぇっ!!」



 下っ端共の中でも最下層であろうモヒカン男は、味方の攻撃やサポートなど無視して、ディルモットに向けて湾刀を振り回す。


 おかげで周りの下っ端は手を出せずに、怒鳴りはしても観戦するだけ。


 これはチャンスと、湾刀が縦に奮われた瞬間、ディルモットはモヒカン男の手首を強く引き、鳩尾に蹴りを入れる。



「ごはっ……!」



 モヒカン男は勢いよくテーブルや椅子を押し倒し、味方の群れへと倒れ込んだ。



「まず一人」



 驚き怒る下っ端共が、再び襲い始める中で、ディルモットは扉付近にいたターバン男の首筋にダガーを一閃させる。


 噴水のように涌き出る血飛沫が壁を汚し、ターバン男は死を認識する前に首元を押さえ崩れ落ちた。



「こいつ!」



 大男と共に拳を奮ってきたハゲ男。


 ディルモットは大男の拳を躱すと、その背中を支えにハゲ男へと向かっていく。


 遠心力を利用し、大男の視界をロングコートで覆い隠すと、勢いよくハゲ男の後ろ首に蹴りを叩き入れる。


 

「二人」



 ハゲ男は眼を白目に変え、唾液を撒き散らしながら倒れると共に、ディルモットも床に着地しようとした。


 だが、その着地を狩ろうと棍棒片手に奮ってきたのは、優男だ。



「ウラァッ!!」



 獣のような叫びを上げ、ディルモットの頭上に振り下ろした棍棒。


 それを辛うじて右腕の腕輪で防いだディルモットは、反撃には転じず大男との距離を取る。



「こいつ、運び屋かよっ!」



 動かないモヒカン男。

 床に血溜まりを作り上げたターバン男。

 首を蹴られいつの間にか倒れていたハゲ男。


 無惨にも倒れる仲間たちを一瞥し、優男はディルモットの腕輪を目視して驚愕していた。


 

「こいつぁ、まさかの展開だぜ」



 眉間にしわを寄せる優男だが、その隣で大男は手を叩いて笑っていた。


 仲間を殺され、一刻一刻死が近付いているなど、微塵も頭にはないのか。単に頭がおかしい奴なのか……。


 どちらにしても、優男はディルモットと大男を交互に見つめ息を飲んだ。


 ディルモットは再び蹴破った扉付近に戻り、ダガーの付着した血を振り払う。



「笑ってる場合じゃねぇよ! この女、普通の運び屋じゃねぇぞ」



 焦る優男に対して、大男は余裕の表情でディルモットを真っ直ぐ見据え、溜め息と共に肩を竦めた。



「家出した王子に、まさかこんないい女が護衛してるたぁなぁ。予想外だぜ」


「……その王子がいる場所が、ここだと聞いてね」


「なるほど。とんだ“落とし物”な訳だぁ」



 ディルモットの言葉に、大男はひとしきり笑って腰に差した武器に手を伸ばした。


 手頃な鉄の斧が二本。

 その一本を右手に構え、大男は優男に離れるよう指示を出す。



「王子はこの奥だぁ。だがなぁ、これは返してやれねぇ。俺が拾ったもんだからなぁ」


「……魔臓器」



 大男が腰の布袋から取り出したのは、紛れもなくアールスタインが持っていたはずの魔臓器だった。


 四角の透明な箱に入れられた魔臓器は、微かに脈打ち、大男と共鳴するように震えている。



「あの馬鹿……」



 悪態をつくディルモットだが、大男は豪快に笑い魔臓器と見つめ合う。



「誰もが失った魔法を使うことが出来る魔法使いの心臓……俺はこいつさえありぁ、あの王子なんてどうでもいい」


「どうでもいいって……ティーチの旦那! そりゃあ契約違反──」


「黙れ」



 ティーチと呼ばれた大男は、優男の頭を鉄斧の柄で殴ると、ディルモットに向かって笑みを漏らした。


 優男は額から血を流しながらも、ティーチを睨み付け棍棒を強く握り締める。



「悪ぃが、俺はここで退場だぁ。予定が詰まってるんでね」


「それを持ったまま、ここを通すとでも?」


「あぁ、そうだったなぁ。だがなぁ、俺の“魔法”は……強いぜぇ」



 扉の出入り口を塞ぐディルモットに対して、ティーチは魔臓器を上へとかざし始めた。


 魔臓器の脈が早くなると、ティーチの手、腕を伝い、身体の奥底へと魔力を注いでいく。


 ディルモットはすかさずティーチの側面に回り込み、ダガーを奮おうとしたが、遅かった。


 ティーチの鉄斧がダガーより先に奮われ、金属がかち合う音と共にダガーは宙へと飛んだ。



「止まれ!」



 最後の賭けと、ディルモットは拳銃を引き抜きティーチの後頭部に銃口を当てた。


 銃声が鳴り響けば、いくら賑わいを見せる砦でも観光客は気付くだろう。


 それで魔法の発動が止まり、魔臓器が手元に返って来るならば、いっそそれでも構わない。



 だが、ディルモットの考えは、それすらも手遅れに終わってしまった。






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