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死神が教える殺し方

ーー三途の川にてーー


「ざっくり説明しますと、人に寄生して生き永らえる妖怪みたいな奴がいるんです、そいつを殺してくだされば、あなたを死なせてあげます」


男は淡々と私が死ぬための条件を話す。


「あなたたちが行くのはダメなんですか?」


「行ってもいいんスけど、何せそいつは人に化けてるんすよ。」


男の後ろから若者が口を挟む。


「それでもし自分ら死神が間違えて別の人の人生終わらせちゃいましたってなれば、自分の存在なんてあっという間に消えますよ」


「というわけですので、死ぬ前に徳を積むと思って、協力して下さい」


若者の話を繋げて、男は手を差し伸べる。その手はとても青白く、触れる前から冷たく感じた。


殺せば死ねる。間違えたら存在が消える。握手しようと、手を伸ばした時だった。


「言っておきますが」


男が突然低い声で告げる。


「死ぬことと存在が消えることは全く違います。死ぬことはいわば次の生への準備期間に入ること。」


「存在が消えるということは、未来永劫終わりのない孤独を味わうことになります。そう、あなたが恐れてやまない孤独です。」


男は孤独という単語を私に強調して話す。その目はじっと私を見つめ、私の中にある何かを覗いているようだった。


「そのことを知った上でやるのならば、この手を握って下さい」


私の手は自然と震えていた。それがこの場所の冷気によるものなのか、孤独を恐れるが故のものかは分からない。


それでも私は死にたいのだ。


ゆっくりと手を伸ばし、男の手を掴んだ。

____________________________________________


「目が覚めたら、あなたの家にこれを贈ります。」


タクシーの窓越しに男が見せたのは、一見すると刃が持ち手に収まる手品用のナイフのように見える。すると男は、急に私の指にナイフを滑らせた。


「キャッ....!」


不思議と血は流れず、代わりに何か目に見えない、自分を形成する何かが失われるような喪失感、そして奇妙な悪寒が私を襲う。


「これは人の身体を傷つけることはありません。魂のみを傷つけます」


男は指で傷口をなぞりながら喋る。傷口はなぞられると元通りになっていた。


「普通の人にヤっちゃうと、一生廃人になるんで気をつけて下さいね」


若者はニヤニヤしながら注意事項を述べる。


「言うべきことは言ったと思いますが、何か質問は?」


「あの....」


「なんですか?」


男がまじまじと見つめる。おそらくその気は無いのだろうが、この鋭い眼光で睨まれると鳥肌が立つ。


「もしかして、私日本全国を探し回らなきゃいけないんですか?」


いくらなんでも、手がかりのないまま探し回るのは無理がある。


「ああ、その心配はないっスよ」


「あなたは築20年の少しボロいアパートに住んでますね?」


「え、はい」


「そしてそのアパートに住んでいるのはあなた含め3人」


「多分、はい」


「残りの5部屋に入居者が来ます。運の良いことにね」


「はい!?」


「そしてその妖怪はこのアパートの中にいます。だからあなたに頼んでると言っても良い」


「は!?」


いくらなんでも急すぎる。何か裏があるのではないかと、男の顔を見るが、不敵な笑みを浮かべるだけだった。


「良いじゃないっすか、あまり動き回らなくて」


若者もそれを真似て無理やり笑みを作る。


「逆に言えば手がかりはそこまでなんです。ここからはあなたの手腕にかかっている」


「せいぜい失敗しないよう祈ってますよ」


そう言って男は帽子のつばをつまみ、会釈の仕草を見せる。


タクシーの窓が閉まり、エンジンを吹かして発進する。運転手はいない。それでもハンドルは回る。


そんな不思議なタクシーに身を委ね、外の変わり映えのない風景を眺めるうちに、私はいつのまにか瞼を閉じていた。

____________________________________________


そして今に至る。しばらくベランダでナイフをぼうっと見つめていると、ノックの音が鳴り響く。


「すいません!引っ越してきたものなのですが!」


若い女の子の声。妖怪は人間に化けている。一体誰に? 思考を巡らせながらもドアを開ける。


「こんにちは!隣に引っ越してきましたアトウミヨと言います!」


「亜種の『亜』に熱湯の『湯』で亜湯と言います!」

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