■んか■ま確かに■かい瞳■見え
霧島さんが溢れさせた冷気は、魔法陣を通してそのまま小部屋内に吹き荒れた。一瞬で視界が白に染まり、急速に何もかもが凍りついていく。魔力を知覚してから見えるようになった…と言うよりもスキルとして取得していた「魔力観察」を持ってみると、莫大な魔力が氷魔法と風魔術に変換され、その名前のとおり「ブリザード」として吹き荒れている。
一見無秩序に吹き荒れる霧島さんの『ブリザードコフィン』だが、完全に制御されているようで魔力の線が見えるし、霧島さんより後ろにはまったく影響はない。いや、冷気の影響はあるか。転がっているキラー・ビーの死体も、たまたま紛れ込んでいたスライムも、山田も、高橋も、クイーン・ビーでさえ、なにもかもがブリザードに飲み込まれて、もはやどうなっているかわからない。…よくよく見ると、ブリザードによる結界のようになっているように見える。あぁなるほど、それでコフィンなのか。
物理法則を無視して発生し、吹き荒れたブリザードは、やはり物理法則を無視して、とたんにピタリと消滅した。後に残ったものは、何もかもが凍りついた世界だった。
「寒ぃ。」
「やりすぎです。霧島さん。」
「殺してないよなー?」
まず目についたのは、巨大な蜂の氷像である。クイーン・ビーがそのまま氷の中に閉じ込められ、バキバキに凍りついてしまっている。次に、ボロボロになったキラー・ビーの死体だ。凍りついて、ブリザードでかき回されたそれらは、互いにぶつかってはその衝撃でバキバキに割れてしまったのだろう。もはや原型をとどめていないものもある。あと、時たまおそらくは偶然巻き込まれたアシッドスライムが、そのまま凍りついている。…これには触らない方がいいな。
で、最後に高橋と山田であるが、やはりと言うかなんと言うか、巨大な氷柱と化していた。
「霧島、これ生きてる?」
「たぶんー。」
「キ・リ・シ・マ?」
「…大丈夫よ佐藤。ちゃんと加減してある。中身は生きてるわ。」
「…まぁいいか、この状態で連行すれば。」
…ちっ生きてたか。まぁ、これでとりあえず、高橋と山田は無力化されたし。次はさっさとクイーン・ビーを討伐しようか。と言っても、そのクイーン・ビーは氷像になってるし、もしかするともう討伐終わったかもしれない?
「霧島さん、クイーン・ビーってこれ、どうなってます?」
「ガチガチに凍らせたけどー、まだ生きてるー。なんでクイーン・ビーを狙ってたのか分からないからー、念の為ー。あと、なんかそれ普通のクイーン・ビーじゃないかもー。」
…これで生きてるんだ。というか、えっクイーン・ビーじゃないの?…駄目だ、そもそも私はクイーン・ビーを見たことがないから、何が変なのか、まったくもって分からない。金田さんや加藤さんはどうかな?佐藤さんなら分かるかも?
「どういうことですか霧島さん。」
「見た目は普通のクイーン・ビーじゃねぇか?」
「確かに少し大きいかな?とは思うけど、何が違うんだ霧島?」
佐藤さんですら、分からないらしい。
「正確には、クイーン・ビーもー、キラー・ビーもー、普通の種とは違うかなー。そもそもがー、ここの個体ってー、よく知られるキラー・ビーと違うっぽー。ほら、これー。ブリザードコフィンで砕けなかった、キラービーの個体ー。羽の下の背中の模様がー、普通のキラー・ビーと違うんだよねー。クイーン・ビーも一緒ー。でー、このキラー・ビーの足ー。花粉ー。」
「…は?キラー・ビーは肉食だろ?なんで花粉が?」
「よくよく考えたらおかしいんだよー。この3階層ってキラー・ビーの他ってー、スライムしかいないー。キラー・ビーはスライムを食べないー。」
「…ダンジョンだからそんなもんじゃないのか?って思ってたけど、そういえば変だよな?何食べてるんだこいつら?」
「だからー、足に花粉ついてるー。」
「まさか、蜜蜂だと!?」
「そう言ってるー。」
そこで私は、巣穴に入ったときのことを思い出す。
<<アシッドスライムが移動した後の岩が溶けて泥のようになってぬるぬるどろどろとしている。そこに、外から入ってきたスライム達が、ジャングルの泥を持ち込んで、それが混ざって足元はひどい状態だ。匂いも土と泥とちょっぴりの酸の匂いが混じった、なんとも言えない匂いがただよっている。…うん?そこに混じってなんか甘い匂いがするような気もする?気のせいかな?>>
「…あっ、そういえば、確かに巣に入る時に甘い匂いが…今もしてる…。」
「黒川さんは嗅覚が良いのねー。」
「私ですら全く気がつかなかったが…確かに言われてみれば…甘い匂いがする。泥の匂いと、酸の匂い、それから洞窟に含まれてる金属成分と酸が反応した時に出るひどい匂いに混じって、…あの穴の奥からなんとも言えない、甘い匂いが。」
「…つまり何か?他のダンジョンで確認されてる普通のヤツとは違うってことは、特殊個体!?ユニークか!?」
「あぁ、金田さん!きっとそうですよ!」
「最初から変だと思ってたのよねー。だって、なんでわざわざFPなのー?未発見で出入り仕放題のダンジョンなんてー、他にもあるー。クイーン・ビーが出てくるダンジョンも、普通にあるはずー。なのに、わざわざFPの3階層をこんな大騒動にしてまで選んだー。つまり、このクイーン・ビーの個体ー、つまり『ユニーク』に用があったと仮定すれば辻褄が合うー。」
「そうよねー…。黒幕さん?アイシクル・パレード。」
床から生える氷柱の道が、まっすぐに部屋の壁に向かって走っていき、『バキン』と音を立てて、何かにぶつかる。ぶつかった氷柱は砕けて、あたりに破片が撒き散る。霧島さんの発言と同時に、金田さんが前に、加藤さんが霧島さんと金田さんの間に、佐藤さんが私の後ろに素早く移動している。加藤さんは風魔法を展開し始め、金田さんは長剣を引き抜き氷柱が砕けた空間を、一刀に切り裂く。
空間が割れた。
そして、そのひび割れた空間の先に私は確かに見た。赤い無数の目が、私を見ているのを。心の奥から凍りつくような、不気味で赤■、無数の瞳が。舐め■ように私を見て■る■を。そして確■に聞いた。
「ミツケタ」
意識■、暗闇に落ちて■く―
高橋山田「出番は?」
霧島「ねぇよクソガキ。眠ってろ。」
新作あり〼
触手 in クーラーボックス(仮)
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