なんかどこまで先も闇なんですけど
崖に空いた大穴から、クイーン・ビーの巣に入っていく。順番は金田さんが先頭、次に加藤さん、そして、私と霧島さん、最後尾が佐藤さん。前衛近接型の金田さんを先頭にして、それを加藤さんが補助。霧島さんは私の護衛。そして佐藤さんが全体をフォローする陣形だ。巣の中は所詮洞窟であり、暗い。外から入ってくる風は、ジャングルの高温多湿で暑くてじめじめしている。
洞窟の中には至るところに結露ができていて、地面は、ゴツゴツした岩とぬるぬるの泥のコラボレーション。そしてたびたび蠢いているスライムという感じ。加藤さんがライトの魔法を使って照らしているが、ずっと先は真っ暗で、どこまでも吸い込まれる本当の闇みたいだ。そして、あちらこちらから聞こえてくるヴヴヴというキラービーの羽音が反響して、非常にうるさい。正直この中を進むのかと思うと、少し気が滅入るぐらいだ。
アシッドスライムが移動した後の岩が溶けて泥のようになってぬるぬるどろどろとしている。そこに、外から入って来たスライム達が、ジャングルの泥を持ち込んで、それが混ざって足元はひどい状態だ。匂いも土と泥とちょっぴりの酸の匂いが混じった、なんとも言えない匂いがただよっている。…うん?そこに混じってなんか甘い匂いがするような気もする?気のせいかな?
「…キラー・ビー共、なんかやけにおとなしいな?」
「そうですね。普段ならもっと遭遇してもおかしくありません。」
金田さんと加藤さんが違和感を訴える。
「あぁ、だが、遭遇して無駄に戦闘になるよりはいい。MPも体力もできるだけ温存しておきたい。」
「そのとーりーねー。」
「それにー、黒川さんへ及ぶ危険が減って正直助かるー。」
「…でも確かに変かもー。」
ぬかるむ地面を、慎重に慎重に進んでいく。たまに出くわしたキラー・ビーは、金田さんが一刀に処理していく。取りこぼした個体は、加藤さんが火魔法で焼いていく。
「なんだかんだ言っても、流石だな金田。」
「そうですね。普段調子に乗りすぎですけど、近接戦闘では心強い。」
「佐藤さん!加藤も!もっと言い方があるだろ!」
「確かに、キラー・ビーとはいえ、遭遇即一刀両断できるのはそろそろCランクに上げてもいいぐらいかもしれませんね。」
「戦闘力は良いんだがなぁ…。この間の講習会すっぽかしてるしなぁ。」
「…なんで佐藤さんがそれを知ってるんです?」
「私が担当だったからな。」
「…すんませんっした!」
こんな状況下でも、探索者なら冗談を言い合う余裕がある。なんだかんだ言って、金田さんが倒し、加藤さんが補助し、佐藤さんがフォローする。私というお荷物がいても、コンビネーションも悪くない。霧島さんは、私の護衛に集中できてMPも節約できている。
だが、なぜだろう。深く続く闇を見ていると、心がこんなにもざわめくのだ。第六感がまるで「引き返せ」と言っているかのように。深く続く巣穴は、何もかもを飲み込むように、その先はまだ闇のままだ。その闇に、追いかけている二人組の足跡は、まるで飲み込まれるかのように、暗い、暗い方へと続いている。
まだ、私達は闇の中にいる。




