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何回か同ルートにチャレンジしたが、悪魔憑きアデルには全く勝てなかった。ゲームバランスを崩す勢いで強いわ。
マルグリットもラスボスになれるくらいの悪魔祓いの力を有している。前回は油断していたのと出だしが遅かったので、と思い、最初から私も全力を出した。マルグリットはアルマンを越える力があることは間違いない。今回は聖騎士達もいるからアデルの捕縛はできている。
ところがどっこい、アデルの悪魔は私の聖句をものともしないで跳ね除けてしまうのだ。うそだろ!?って言いながら五回くらい死んだ。
アルマンと組んだマルグリットが勝てないとか、もう物語中最強じゃん。
修道院にこもって自分の悪魔憑きのスキルを高めるべく努力してみる方向に切り替えた。ただ問題は悪魔祓いのスキルを身に着け、それを次のループに持っていくことはできる。今までのパターンだと、剣技や神聖ペトラフィタ語と同様だ。
でも悪魔祓いに必要な聖なるエネルギーを蓄えてもそれを次のループに持っていくことはできない。剣の訓練では技術を記憶することはできても、筋力を持ち越すことが出来なかった事と似ている。
悪魔祓いのスキルだけで、あの悪魔憑きアデルを倒せるように自分を高めることはかなり困難だと気が付いた。かといってアルマンを含めた神聖ペトラフィタ領国の面々を集めても勝てなかったのだ。ちょっとやそっと腕利きを集めたところで勝てないだろう。
あの時、アルマンが言いかけた「聖女」。それを問い詰めたこともあった。しかし、馬車の中でアルマンとその話をし始めると、悪魔憑きがアデルとのエンカウントタイムになってしまい、さあきに勧めることが出来ない。
じゃあ、冒頭で会いに行ってみようかと思っても会えないのだ。アルマン抜きで単身訪問しても聖ペトラ教会の奥深くにいる聖女には合わせてもらえない。
詰んだ。
ここにきて、詰んだ。
困った。
私は次にするべき行動が分からず、立ちすくんでいた。
だから毎回起きたら、適当にラウル辺りまでこなして、その後王宮の茶会に出る。美味しいケーキと薫り高いお茶。今でもマルグリットを覚えていてそれなりに丁重に扱ってくれる人々もいないわけではない。
夜になったらパーティにでて美味しいワインだのスパークリングワインだのを飲んで、べろんべろんになって寝ると、いつも私を襲ってくる悪魔憑きがやってきて、気が付くと殺されてまた朝が来ている。割とこのパターンは苦痛が少ないこと気が付いた。
だから、たらたら楽しく何日も過ごしていた。仲良くなる方法は間違えなくなったので、エルキュール一緒に剣の鍛錬をしたり、身に着けたリュートでクラウディオと合奏したり。ラウルとデシデリア様 とは数えきれないくらいお茶をしていた。
フィリップ王子、ビビアーヌ、クラリスとは、なんかもうマブダチみたいな気分だ。
結構長い間過ごしていたと思う。
多分、360回目くらい?
私は順番を変えて遊んでいた。一番最初に、第二王子フィリップと顔を合わせるのだ。当然エルキュールとも会っていないので、私が剣豪という噂は届いておらずフィリップは先王の愛妾であった私を嫌いなままだ。イエーイ。
フィリップとは廊下ですれ違うことが出来た。バチバチに警戒している。
「マルグリット殿」
眉根を寄せて彼は苦々しく吐き捨てた。
「ごきげんよう、フィリップ殿下」
私はゆったりと微笑む。
「お久しぶりでございます」
マルグリットとしても私としても、確かにそうなので嘘は言ってないな。
「何ゆえ王宮に?」
「所用にてイザボー皇太后様に呼ばれました」
私はちょっと嫌味っぽく笑った。
「現王様の愛妾になるとかそんなつもりではございませんので、どうぞご安心を」
フィリップはむっつりと黙り込む。あっ、マジでそのことを心配していたのか。
「まったく」
フィリップは苦々しく言った。
「同じペトラフィタ教の聖職だというのに、聖女様とはまるで違うな」
「あら、フィリップ殿下は聖女にお会いになったことが?」
私は気楽な調子で聞いた。多分、何日か前にアルマンと一緒に来た時にでもあったのだろう。
「今朝方、早朝に王宮にお付きになられた。迎えた時にお声がけ頂いたのだ」
……なに?
「……聖女様は、今朝方お付きで?」
「ああ、夜明け直後だ。前泊の町に流行り病の患者が出たため、宿泊を野営に切り替えたそうだ。早く準備が出来てしまったため、出発も前倒しとなり予定よりずいぶん早いお付きであった」
「今朝!」
私は叫んだ。
それならば、彼女に会えるチャンスがある。
「ごめんあそばせ」
私は一歩踏み込んでフィリップの腰の剣を奪い取った。
「何を!?」
あっけにとられるフィリップの前で私はその剣を自分の喉にぶっ刺した。フィリップがぎゃーとか叫んでいる。
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