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 250回目です。ごきげんよう。

 え、いきなり回数が飛んだ?そうね、そのとおりっすね。


 神聖ペトラフィタ語に対する憎しみが止まらない。


 複数の冠詞があってそれが名詞だと女性名詞男性名詞中性名詞複数名詞に別れて、同じことが動詞、形容詞でもあって、ついでにそっちも活用があって、ゲロしそう。あと現在過去未来でも様々に活用が変わってくる。そして特殊活用も多い。


 今まで数限りないループ、それでもキツイ。


 これペラペラだったっていうアデル嬢、王女の侍女なんてやってる場合じゃないと思う。もっと輝ける場所があるはずですよね。


 ルイーズ王女はまだあまり得意ではないらしい。彼女に教える教師の声を盗み聞ぎして何とかレベルアップしている。彼女たちの勉強は二時間ほどで終わってしまうから、あとは自学自習。夜遅くまで図書室にいると、いつの間にか悪魔憑きのあいつがやってきて殺されている。

 ほぼ寝落ち、みたいな感じでぶっ殺されている。神聖ペトラフィタ語がハードすぎ。



 260回目。

ちょっとマシになって来た。ルイーズ王女の講義が終わったとの教師を呼び止めることに成功した。神聖ペトラフィタ語が喋れる修道女が珍しかったらしく、教師は私に好奇心を抱いたらしい。なんと好意で午後の数時間を教えてもらえることになった。



 280回目。

 全精力をペ(略)語に打ち込んでいる。攻略キャラにも会っていない。エルキュール君、元気かしら……。あの頃はまだマシだった。

 なんでこんなに頑張っているかって、頑張れば覚えるからです。覚えればこのループから抜け出せる可能性が高いから。そうすればこのペ語ともおさらばできるということです。なんか悪魔憑きよりも、この言語の方にムカつきが強い。



 290回目。

 そろそろ、アルマンのあの言葉を聞き取れるのではないかと思い、チャレンジすることにした。

 おそらくあれば宗教的な言語である。ペ語はすでに古語であり、宗教的な側面が強い。だから日常の話ではないと思われる。


 つまり神聖ペトラフィタ語には『天におわす神は、我らを見守り、国王の善なる統治の行方をお導きになる』ということは表現できても『あの居酒屋のイケメン常連客とマジでデートした~い』ということを指し示すことは困難なのだ。


 しかしあまりにもぺ語に関わる時間が長かったために、今までこなしてきたルートを忘れており、凡ミスにより、三回ほどロスしてしまった。



 294回目。

 そして私は久しぶりに森の中でアルマンと対峙した。

去り際に彼が言う。こちらを振り返りもしないで。


『彼女の預言どおり、悪魔憑きであったか。国の中枢にまでこのような悪が蔓延るとは』


 おっけー!ヒアリングできた!

『いいえ、わたくしは悪魔憑きではございません!』

 私は腹式発声最大出力で神聖ペトラフィタ語を叫んだ。


 一瞬の間を置いてアルマンが私を振り返った。

「待て!」

 アルマンが斧を振り上げた大男を止めた。ぎょっとした顔で私を見ている。


「貴殿、神聖ペトラフィタ語を?」

「なんための修道女とお思いですか?」

 まあこの言語を神聖ペトラフィタ領の神聖職以外でぺラつける人は少ないと思うけどね。


「……悪魔憑きはこの言語を口にはできないはず……」

 ……ほう、そういう設定だったんだ(知らなんだ)。

 アルマンが大男と私を拘束している連中に視線をくれた。それだけで私は自由になり、立ち上がる。その私の前にアルマンは進んできた。おっ、なんか文句あんのか?やるか!


「大変な無礼を」

 すっと彼は私の前に膝をついたのだった。

「お許しください」


 勝った……。

 思わず走馬灯的に、神聖ファッキンペトラフィタ語との日々がよぎっていく。私が世界を牛耳る闇の存在だったら、ぺ語のすべてを焼き払い、無に帰すであろう……あっ、自分が闇落ちした。

 いや、ぺ語がなくなったら今まで覚えた努力がパーだからやらんけど。


「お互いに、行き違いがあったのでしょう。枢機卿にも何かしらのご事情があるかと存じます。どうぞお気になさいませんよう」

 私は内心のゲスイ感情を隠しきり、優雅に微笑みを落とす。いやまあ、ここまでの苦労についてはぜってー許さないけどね。しかし、うなだれているアルマンを見て大分溜飲が下がったことも確か。

 ざまあ……。

 ざまあ…………!

 アーハッハッハ!!

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