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「あの、わたくしは今朝、いつもなら寝ているような早朝に、あなたのお祖母様であるイザボー皇太后に呼び出されてやってきた者ですよ?ビビアーヌ様とクラリス様だったら誘拐すれば双方のおうちからいい身代金が取れますでしょうね?そんな悪辣なことをしなくても、二人の行方をお話しするだけでも報奨金くらいいただけますでしょうし。正直わたくしを信じるというのが理解できません」


 お前ら、頭、フラワーアレンジメントか?


 私の言葉に彼ら三人は顔を見あわせた。それからビビアーヌは半笑いで言う。

「悪人でしたら今のようにご自分の計画はお話にならないでしょうね」

 なめられている!


「それに」

 フィリップが私の目をしっかりと見た。

「エルキュールが君を褒めていたからね。ああ見えて信頼する人間は厳選する性格だ」

 私は目を見開いた。


「エルキュールもこの計画を知っていると?」

 あーそうか~。エルキュールとは今回も関わっているからな……!


「大本はアデルだ。アデルの推薦に寄り腕が立つエルキュールを連れてきて、二人を町はずれまで送り届ける役だった。付添人である彼女が不在な以上、事情を知って送り届けることができるのは私しかいないが、第二王子の外出ともなれば目立ちすぎる」


 アデルが立案者の一人だと?

 どういうことだ?

 私は頭の中で目まぐるしく考える。

 今現在、私の物語はもうすでにループ184日だが、公式ゲームシナリオではスタートすらしていない。スタートは明日だ。

 ……確かにアデルはルイーズ王女の侍女。フィリップと面識があってもおかしくはない。でもすでに信頼関係を構築している?


「君の腕が立つと聞いて、計画を変更することにした。君がいればエルキュールと一緒に行動しなくても済みそうだ。エルキュールも騎士団長として目立つ存在であるし、この計画を知る者は少ない方がいい」

 私と御者、ビビアーヌとクラリスという最小限で済むなら、それならそれで構わないと考え直したのか。決断が早い。


「アデル嬢の行方が分からないことは心配だ。だが予定通りの決行が望ましい。そんな時君が現れた」

「アデル嬢はわたくしのことをご存知なのでしょうか」

 おそらくビビアーヌとクラリスはあまり親しくないのだろう。フィリップ一人が会話を思い出しているようだ。


「いや、知らないだろう。彼女から君のことを聞いてはいない」

 ……ということはアデルはこのループになってからのことは知らない可能性がやはり高い。それにしても、フィリップとアデルが、ビビアーヌとクラリスのために駆け落ちに手を貸そうとしているとか、本編と違いすぎてきているな……。


 このループにはまり込んでから、時々感じている現実のゲームとの齟齬。ついにアデル嬢が痕跡を残し始めている。

 しかしこれは進めるしかない。ゲームと違うということが、このループを終らせる鍵かもしれないのだ。


 しかしビビアーヌがねえ。

 口約束の婚約だって、フィリップとビビアーヌの意見が入っているわけでもなかろう。どうせ幼少期からの親同士の約束だ。

 知らね~よ、とビビアーヌを応援してしまうフィリップのことは割と好感を持つ。


 クラリスの結婚が、親の決めた政略結婚なら、そんなもの既読無視して、惚れた相手と駆け落ちしちゃった方がよっぽど人生楽しいよね、って私は思うよ。そして性別を問わず、相手の性的志向も頓着せず、友人を友人として友情に従って、信頼し合えるフィリップとビビアーヌは相当勇敢だと思うのだ。


「あの」

 私は思ったことをつい口にしてしまう。

「三人はとても仲がよろしいんですね」

 それならフィリップはアデルではなくビビアーヌを選ぶことだってできるのに。


「私とビビアーヌが結婚すればいい、とでも言いたげだな」

 フィリップはどうも馬鹿ではないようである。読まれた。

「私がビビアーヌと結婚して、ビビアーヌはクラリスと過ごせばいいというやり方もあるし、そちらの方が確かに体裁として楽だ。ビビアーヌも私が愛妾を持っても何も言わないだろうし」


 ビビアーヌは頷く。

「でもそれでは祖父と同じだからな。祖父は悪い人間ではなかったが、とにかく女性の扱いについてだけはまったく尊敬できない。あれと同じことはしたくない」

 フィリップはまっすぐに私を見た。

「今は、愛妾であった君の生き方、やり方を非難しているわけではない。私の人生観の問題だ」


 この王子……。

 めちゃくちゃしっかりしている……!


「兄上とは意見の相違もあるが、良い国にしたいという気持ちは同じだ。そういう希望の私が私生活に偽りがあることは適切とは思えない」

 公式では、兄の第一王子へのコンプレックスのイベントだけが頭に残っているけど、わりとしっかりしていたんだな君、ごめん。


「……ではわたくしは、馬車で都の外れまで彼女らを送り届け、修道院長の使いと落ち合えばよろしいのですね?」

 私が了承の言葉を述べると、彼らは安堵したようだった。


 正直、そんなことをやっている場合かというところはある。何せ殺されるか一日が終わるかしてしまえばまたループは始まる。今の時点で、すでに夕方近い。順調に行っても戻ってくれば日は暮れているだろう。


 ただ、アデルのつじつまの合わない時間軸や、早朝のエルキュールとの訓練がここにきて物語を変えてきていることが分かって来た。

 私は何かを進めてはいるのだ、そんな気はしている。

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