表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/48

(2)

 いやしかし、ビビアーヌ、めちゃ可愛いな。縦ロールなんて何の冗談かと思うデザインのキャラもあるけど、ビビアーヌのそれはばっちり似合っていてしかも普通に可愛い。かといってズバズバ言ったり、アデルいじめをするようなキャラでもない。フィリップがアデルを選ぶようなときはホロリホロリと美しい涙を流すようなタイプだ。


 本当に謙虚だったら、ライバルにすらならないだろうから、それなりに戦略家だなあ、と社会で揉まれて穢れた心の私なんかは思ってしまうわけだが……。 

 そう考えるのは私だけではないわけでビビアーヌの好き嫌いは『ラ・ギルランド』のファンの間でもめちゃくちゃ二分されていた。


 そしてライバルキャラの取り巻きというキャラなんだけど、どちらかというと嫌われていないかったキャラクターが、横に座っているクラリスだ。

 長身で細身、ドレスというよりもロングのワイドパンツ姿のクラリス。髪も短めだ。彼女はビビアーヌの親友というキャラ設定で、アデルに嫌味を言ってきたりするのは彼女の方が多い。しかし、さばけた口調で素敵なお姉さまタイプの見た目もあり、あまり嫌われていない。

 強気なお姉さまキャラは、敵であっても人気が出る。


 最終的にフィリップがアデルとくっついた場合は、クラリスがビビアーヌをめっちゃ励ますイベントが見られる。

 ちなみに男性×男性のカップリングで二次創作している人々の間では、ビビアーヌが夢女子、クラリスが腐女子になっている確率が高い。


 それはともかくだ。


 いろいろな人に会ってきたが、ずばりアデルの失踪の理由として考えられる中で最も可能性が高いのはビビアーヌかもしれない。彼女だけが原作の中で明確にアデルの恋敵として張り合っているからだ。

 とはいえ、「アデルの行方、ご存知です?」なんて唐突に聞くわけにもいかないし。


 私が何かを言いあぐねているこの空間に奇妙な沈黙が落ちている。ん?私が何も言えないのはともかく、ほぼ拉致同然で呼びつけたこの三人が黙っているのは変じゃないか。

「わたくしに、何かご用事がおありかと存じますが」

 私は三人を見回した。お互いに視線を交えたのはビビアーヌとフィリップだ。


「……ご多忙とは存じます。実は、お願いがあり、お呼びいたしました」

 ビビアーヌが言う。無理矢理連行気味だったけど、物事は言い方だな。

 そして一体誰に用事なんだ。私に?それとも原作で接点が無かったマルグリットに?


「マルグリット様が大変な剣の使い手だということを、本日耳にしまして」

「あ…………ああ~それ~」

 何回も何回もリピートしていて、ちょっと作業感が出てしまったので、忘れていたが、私は修道女にしてはあり得ない剣豪なのであった。律義にエルキュールとの対面を行っているので、今朝の話が今になってこの面々にも伝わっているということか。


「実は今、諸事情にて護衛を探しております。ぜひともそれをマルグリット様にお願いいたしたく」

「はあ。……はあ?」

 もっと適任な人がごろごろ転がっているはずのこの王宮で?どんだけ私、強いと思われているのだ?話が伝達していく中でバグっちゃった?


「いや、でもフィリップ殿下と公爵家御令嬢のビビアーヌ様なら、もともと腕利きの護衛がおりますでしょうに」

「それはそうですが、当家にしがらみのないものを探しております」


 言いたいことは分かるが理解はできないという模範みたいな回答だな。あと何かしら関わったまずいことがあるという匂いしかしない。そもそも私はアデル探しで超多忙なのだから関係なさそうな案件に首を突っ込んでいる場合ではない。


 関係ある可能性もわずかに存在しているのだから一応話を聞くが、聞いて関係なさそうだったらととっとと撤収しよう。そう、すべての人から好かれようと思ってはいけないって、あらゆる自己啓発本が言ってるからな。


「あなたが、すでに貴族社会と決別したという存在であることを前提としての頼みである」

 フィリップがそこそこな尊大さを消しもせずに言う。頼み事ならもうちょっとへりくだれや。あ?


「とある人物を馬車に乗せて、都の外れまで送って欲しい。もしかしたらなんらかの妨害が入る可能性があるため、腕利きの人物を探していた」

「面白いことをおっしゃいます。修道女に用心棒をさせようと?」


「修道女だからこそ好都合。あなたは経緯など何も知らない。だって今日、王宮に来たばかりなんだからね。最近の情報には疎いという言い訳が成り立つだろう。あなたはたまたま知り合った者たちと一緒に、たまたま馬車に乗って町はずれに行くだけだ」


 聞けば聞くほどヤバい案件だな。仕事だったら、いかなる手段を使おうとも、ぼんやりしている誰かにキラーパスしたいところだ。

 それを隠して私は微笑んだ。

「わたくしには荷が重すぎます」


「もちろん相応のお礼はする。君も修道院で暮らしていて、今は先王の年金でそれは不自由ないようだが、王が変われば待遇が変わることもある。父が母と祖母の言うことに負けて、年金額を減らさないという保証はないだろう」


「まあ、それはあまりにも剣呑なお言葉ですこと。脅していらっしゃるの?」

「いいや、その逆だ。父が私の言うことを聞き、年金額を上げる可能性もある。契約書があっても金額は融通が利くからね」


 ……うーん。

 この王宮でループをしている間は、年金額がどうなろうが知ったことではないのだが、永遠にこの場に留まれるという保証はない。とすると終わった後のことを考えていた方がいいような気もする。

 引退した愛妾は王宮になんて関わらず、修道院でスローライフをしたいのだ、とかいうタイトルのラノベありそうだな。


「実はアデル嬢に頼んでいたのだが、急に彼女の行方が分からなくなってしまってね」

 はい?

 ん?アデルも関係しているということなのか?


「一体どんなご用件なのです?」

「それは引き受けると言っていただかないと話せない」

 うーん、うーん。面倒な案件ぽいが、アデルが絡んでいるのならループを終らせるためにもこの件を探ってみたい気持ちもある。引き受けないと詳細はわからないとするのなら。


「……承知しました。もちろん結果的に『できない』という可能性はありますが、善処いたします」

 私はため息交じりに答えた。

 三人が顔を見合わせえる。ほっとした雰囲気が伝わった。


「それでどうして都の外れまで行かれるのですか」

「……実は駆け落ちだ。我々にとって重要な問題だ」


 駆け落ち!?我々!?


 悲鳴を上げるのだけは避けた私はリスク管理がしっかりしているのではと自画自賛したくなる。壁に耳ありだからな。障子はあるのかなこの世界。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ