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 はい!ケアレスミスでしたね、前回は!185回目だね。


 そうね、人は人と争ってはいけないのだ(清らなかな眼差しで)。うっかり剣を抜いてしまったことで逆襲されて殺されちゃったよテへ。

 ということで、紳士淑女で行きましょう。またエルキュールからクラウディオ、ラウル、と通り越してここまで来ると、私へ衛兵にそれなりに丁寧な言葉で問う。


「なんでしょう、急に!あまりに無礼ではございませんか」

 よくわからないがこれでこの一角から追い出されたら困るな、と思ったら、衛兵たちは出口とは逆の方向に歩き始めた。


「こちらへ」

 腕の力こそ容赦ないが、一応丁寧な口調だ。なんだなんだと思いながら私も引きずられていく。

 引っ張られながら私は周囲の装飾がどんどん豪華になっているのを感じていた。これはもしや……。

 やがてあまり人通りもなく、静かになった場所の扉を、私を引きずってきた衛兵が叩く。


「マルグリット殿をお連れしたか」

 中から呼びかけてくる声に私は確信した。

 衛兵は私を部屋に放り込むと扉を閉めた。

 つんのめりながら(それでも何とかこけずに)部屋に入る。そこは大きな部屋だった。立派な絵画や調度品も気になるが、まずは彼の正体を説明しなければなるまい。


 わたしを誘拐同然にこの部屋に連れて来た相手。

 それは目の前のソフィアに悠然と座っている。クラロ国第二王子、フィリップが。



 攻略キャラその4。クラロ国第二王子フィリップ。

 私が王宮に居た頃は、大体同じような年ごろの貴族の子弟連中、五、六人とつるんでいて、夕方ごろは彼らと晩餐の間で食事をしていることが多かった。ちなみに本当は王と王妃と共に正餐の間で王族らしく食事をとるように言われているのだが、あまり言うことを聞かないのはそうそう変化しないのだろう。


 私の身なりは修道女服のままだ。だから一瞬誰かわからなかったのだろう。第二王子フィリップはまじまじと私を見ていた。それからようやく納得したように立ち上がる。さっきまであっていたマドリウ国のベルナルド王子のところへは、最初は私が押し掛けたが最終的には歓待していただけた。お前、私をここまで連れて来させたくせにこの愛想の無さよ。


 しかしそれもやむを得まい。

 先王の愛妾マルグリットとフィリップはとても仲が悪かったからな。


 王族の血の良いところだけを受け次いだような、淡麗な顔だち。涼し気な目元の睫毛の影が落ちる瞳は藍色。鮮やかな金髪は緩くうねり肩まで落ちている。絵にかいたような美しい王子様だ。


 そしてマルグリットのことはめっちゃ嫌ってる(草)。


 まあ仕方ない、彼はおばあちゃん子……イザボー皇太后の大事なお孫ちゃんなのだ。そのおばあちゃんの夫が愛妾を作っている、しかも自分とさほど年も変わらないような女性でおばあちゃんがどんな思いをしているかとか考えたら、マルグリットが好かれるわけがない。我ながら止む無し、理解します!

 でも恨むならお前のジジイである先代王にもきちんと文句は言って欲しいけどね!


「……来ていただいたことには礼を言う」

 フィリップはあまり愛想もなく、しぶしぶという様子で言い放った。いや、私が知る攻略対象フィリップとはやはり違うね。


 アデルの攻略キャラとしてのフィリップは、王位継承第一であり優秀な第一王子へのコンプレックスで陰気だけど、実はちゃんと優秀で国の行方を真摯に考えているキャラなのだ。


 アデルは彼に「王にならなくてもあなたの価値が損なわれるわけではない。兄王を支えて国を盛り立てていくことに何故劣等感を感じるのか。自分の名前は兄王と違い、歴史に残らないのを不満に思うのなら、己の名声と国の安寧のどちらが大切なのか」と叱咤する。


 好感度が一定まで溜まっていれば、フィリップとの恋愛フラグが立ってくるのだ。それは私には十分関係ない。

 関係ないけど、まあ攻略キャラを辿ってきているので、いずれ会わなければなるまいとは思っていた。まさか呼びつけられるとは思っていなかったけど。


「こんにちは、殿下」

 私は片手で胸に手を当てて、軽く膝を曲げた。


 何度もご説明してはなはだ僭越ではございますが、修道服を着ていても、過去、美貌の愛妾として、人々の侮蔑と怒り、そしてなによりも羨望を浴びていた過去は伊達じゃないんですのよ。


 私はまっすぐにフィリップを見る。私とフィリップの年はそれほど変わらない。でも、彼が王と王妃に守られていた間も、マルグリットは愛妾として魑魅魍魎の王宮で戦っていたんだぜ。それは私自身ではなかったけれど、自身の中にある経験値は私にもちゃんと使いこなすことができるのだ。


「……久しく。マルグリット殿」

「おひさしゅうございます。フィリップ殿下」

 私は優雅に見えるように微笑んだ。そしてちらりと彼が付いているテーブルのメンバーを見る。


 そこに同席していたのは、二人の女性だ。

 腰まである滑らかな栗色の髪が美しい。きれいに縦ロールになっていてキャラ造詣的には、かなり力が入っていると思われる、ビビアーヌ。


 そう、フィリップだけだが、彼を攻略する場合にはアデルにはライバルキャラが生じるのだ。フィリップの婚約者候補として、幼少期からずっと一緒にいた貴族の娘だ。基本的には王族は他国から妻を娶ることが多い。もし国内から誰かを選ぶのならばそれは平民ではありえない。だから貴族になるのだけど、そうなればその出身の家の権力が増大し、国内の安寧を脅かす火種となりかねない。


 ただし、フィリップに関しては次男のため割とゆるく見られている。長子であり次期王の第一王子はすでに別の王国の王女を娶り、子供も生まれているからだ。彼が王になる可能性は低くなっている。だからアデルの攻略対象になりえ……そして別の貴族の女性がライバルキャラとして成り立つ。


 それがビビアーヌだ。

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