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はい、132回目です。
大変気になる展開を残して殺されてしまった私は、次は猛ダッシュで展開を同様に進めた。エルキュールに会ってからクラウディオを音楽でナンパする。デシデリア様とお話ししてそして時間の調整して同じ回廊であの男性と会った。
そしてまた悪魔憑きに襲われたが、今回は深追いをしなかった。庭園まで出たが、まだ見晴らしの良い芝生の上で私はあえて膝をついた。
まだ悪魔憑きを追いかけたいと思っていそうな男性だったが、私の様子に諦めて足を止める。よし、ここなら襲われる心配は減った。ただ男性が悔しそうに呻いた。
「この婚礼の大切な時に、あんな危険な者が王宮にいるとは!」
……まずいな。
多分この人口調からしてマドリウ国の人間だ。クラロ国は、この国家の重大イベントだっていうのに、王宮内の悪魔憑きを野放しするような危機管理ザル国家と思われてしまう。下手すれば婚約破棄の危機!
そして私は彼の顔だちに見知ったものがある。
「あなたはマドリウ国の方ですか?」
まだ息切らしながら私は彼に声をかけた。なんとかリカバリできないか?
私の声を聞いて彼はその長い足で芝生を踏み、こちらに戻ってくる。
「怪我は有りませんか」
芝生に座り込んでいる私に滑らかな声で、問いかける。命を救い、そして気遣いある言葉を投げかけてきても、とらえどころのない冷ややかさがあった。
私は差し出された手を取って、立ち上がる。視点が変わると顔がよく見え、そして私は内心で次の手を猛烈な速度で考えることになった。
彼はラウルだ。攻略対象キャラその三。
彼はベルナルド王子の親友にして、マドリウ国宰相の息子だ。この婚礼に、ベルナルドと共にやって来た。
とはいえただのお坊ちゃまではない。彼は優秀でマドリウ国に帰れば大臣などが約束されているお立ち場様である。今回は、見聞を深めるためにやってきたのであって、ベルナルド王子の友人、という立場こそ建前なのだろう。
髪は眩い銀色、肩口まで伸ばしている。淡い菫色の瞳は美しい。見た目の端麗さは一番で、そういう繊細風なキャラ好きの心にズバズバ刺さりまくってきた。
ベルナルド王子に近づくためには彼とある程度仲良くなる必要がある。ベルナルド王子とルイーズ王女似合わずしてゲームを進めるのは攻略が難しくなるので、ストーリー展開的にも彼への好感度アップは必須だ。
ただし、どこの沼にもアンチはいるので、ラウルを今一つ好きになれない間では、ラウルとの好感度を上げないまま、ストーリーを勧めてハッピーエンドかトゥルーエンドを目指すという縛りプレイが発生した。しかもそれはそれでラウル推しにもなぜが流行というわけのわからない現象が起きた。
ラウルに冷たい態度を取られている時がたまんねえ、という玄人がいるのである。
キャラ的にはラウルはクールなので、この口調になんかほっとする。いや、人の好い御近所奥様風となってしまったデシデリア様からこっち、調子が狂っているからさ……。
「お助けいただきありがとうございました」
私は微笑んだ。攻略対象キャラとは十歳近く年が上の私でも、マルグリットの持つ美貌は衰えてないので、ここは愛想の一つも売っておくがよろしかろう。タダだし。そして私はアデルではないので、彼との好感度がどうでもゲーム展開には影響しないだろう。そもそもラウルの好感度を上げるのは面倒くさい。
「たまたま通りがかりましたもので」
「……とてもクラロ語がお上手ですわ」
私の言葉にラウルは私を見つめ返してきた。
「クラロ国民ではないとお気づきか?」
「ええ。でも発音じゃありません。ラウル様のことは、話題にしている乙女が宮殿内で大変多いから。知るともなしに知ってしまいました」
「さようで」
それからラウルは頷いた。
「たしかに。私の名前をご存知であるようだ。私の名も安くなったということか」
うわー……!
知ってたけど。ラウルは好感度を上げても割と冷ややかで最後まで対応があまり変わらない。今みたいに「実在していたら微妙に殴りたい感じ」の言動だ。しかしフィクションなのでそれはそれでとても良い。皆、ツンデレもフィクションなら、それで白飯がどんぶりで食えるくらいに好物だろ?
そしてまた、ラウルのヤバいところは、唐突のデレチェンジである。好感度が高い状態で最終エピソードまで行くと唐突に、ドストレートになる。スーパー溺愛タイムである。
『私は君が居なければ夜も開けない』
『君と会って、人を好きになるということを始めて知った』
『君と共に祖国に戻りたいが、君がこの国に留まりたいなら、私も残る以外に選択肢はない』
とか、えっ、おま……いつの間に……?途中まで表情バリエーション少なすぎじゃ……?と思っていたのに、ということで、この辺の豹変も刺さる人には刺さる。
ということでラウルも大変な人気であった。まあ私は今はそれどころではないし、そもそもアデルの攻略キャラなので、どうということはないが、ただ顔がやっぱり美形なので思わずまじまじと見つめてしまう。
「あなたはもしかしてマルグリット殿か?」
「さようでございます。本日着いたばかりのわたくしですので、ラウル様にご存知頂けたということでしたら存外の喜びでございます」
微妙だな。言葉遣いをどうすべきか。私と彼はどちらが立場が上だったか……多分彼が上で良いと思うのだけど……。あまり媚びた感じも彼の場合は良くないのだ。そう対応がずっと難しい。
まあともかく、ここで会えたことは幸運だった。なぜなら彼とはベルナルド王子との対面イベントに繋がるからだ。
アデルならば主人公補正とストーリー展開もあるからベルナルド王子とはスムーズに会えるが、さて、まったく接点のない私がどうやってそこまでラウルに信頼してもらうようにするか……。




