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 130回。

 ついに、新曲を手に入れたわけである!これで世界をひれ伏させてやる。YouTubeでもSpotifyでもバリバリ再生回数稼いでやるぜ~。

 この足でクラウディオのところに押しかけたろと思っていたけど、今までのルーティンで進んで、いつもの場所で悪魔憑きと鉢合わせてしまった。しまった。

 油断していたのでさっくりやられる。バカ。

 ぼんやり移動するの禁止。



 131回目ですよ。

 私の乗る馬車はマルセルをスルーして王宮に向かった。校歌より良く聞いたマルセルの歌とリュートの音色が後ろに遠ざかっていく。

 今までありがとう……! 


 まずイザボー皇太后に会い、ミッションを聞く。エルキュールとの遭遇は省略していいような気もするけど、彼と仲良くなっておくと王宮内を一緒に送ってくれるので、安全に歩ける可能性が高くなる。アデルの部屋の前で別れると私はリュートを手にした。そして開け放しの扉から、廊下を人が通ったタイミングで出て、王宮内を進む。


 クラウディオのいる場所は分かっている。でも人だかりの部屋は避けて、私は庭園に進んだ。

 私は庭園に出ると、彼のいる部屋の窓の下に立った。そしてマルセルと完成させ、自分の身に着けた音楽を奏で始める。ついでに小さく歌も歌った。


 これで彼が興味を持ってくれないと展開はなかなか厳しい。全然知らない方法で、デシデリアと会う段取りを考えなければいけないのだ。まったく同じではないけれど、『ラ・ギルランド』の世界である以上、知っているルートを試した方が多分効率がいい。


 私が曲を弾き終わった時、頭上から拍手がこぼれてきた。

「やあ!」

 見上げればクラウディオが窓からこちらを見下ろしていた。

「リュートがひけて、歌を歌える修道女様なんて始めてお会いしました」

 私は見上げて微笑んだ。


「練習していたんですの。お恥ずかしい」

「いやいや、今修道院ではそんな曲が流行っているのですか?今まで私が……そう、僕が全く聞いたことのない種類の音楽です。ちょっとそこに居ていただけますか。今そちらに参ります」

 彼は窓から顔を引っ込める前に付け足した。

「少々お待ちを。麗しき修道女様」

 やったー、とりあえずはクラウディオの好奇心ゲットだぜ!



「あなたがこの曲をお考えになられたのですか?」

「ええ」

 嘘です、考えたのは私の推しアイドルです。デコうちわを持ってライブに行っていた頃が懐かしい。


 私はクラウディオと一緒に庭園を歩いていた。侍女と一緒に居ても、勝てるとなれば襲ってくる悪魔憑きだが、クラウディオと一緒(彼もまたエルキュールほどではないがそれなりに剣術の練習はしている設定だ)な上、庭園にも人が多く、悪魔憑きが近寄って来る雰囲気はなかった。

 ようやくこの庭園が美しいことが目に入る。いままでずーっと殺害事件の現場、KEEPOUTの存在でしかなかったから……。


「素敵な曲です。今まで聞いたことのない旋律です」

「そう言って頂けて光栄です」

「あなたは……もしかしてマルグリット様?」

「わたくしをご存知で?」


 いいぞ。マルグリットの名前が出るより先にクラウディオは私に興味を持った。ということは音楽の壁は多分突破している。彼の興味をひいているから好感度は高いはず。


「本当に、あの曲は素晴らしい」

 クラウディオは自分を納得させるように頷く。

「僕は思いあがっていました」

「それは?」


「マドリウ国内はもちろん、正直、クラロ国においても僕より巧みな音楽家とは出会ったことがありませんでした。何も僕を刺激するものが無かった。しかしそれは僕の無知と世界の狭さからくるものだと思い至りました。僕にはまだまだできることがあり、成すべきこと知るべきことは限りない」


 言う割にクラウディオはめちゃくちゃ楽しそうだった。

 私の曲が何かの刺激になったということだろう。正確には私の推しアイドルの曲であること重ねて申し上げる……。


 それはスランプってものだと思うよ。受験生ですらそれに突き当たるんだから二十歳そこそこの君なら、これからじゃろ。きっと若いからたった一曲が彼の世界の味方を変えることもあるんだろうな。

 そうか~、なんかもうゲームキャラって見れなくなってきちゃうよね。私以上にこのゲームを好きだった人たちにとっては、キャラというよりもそれぞれ自分の知り合いくらいな愛情を持ってくれていたのかな。


 そう言う人達は深く理解したいと望むから、いろんな解釈をしていただろうし。こんな風に ちょっとした諦観が、彼をチャラく見せていたのかもしれない、とか考えていた人たちもいるのかも。


「わたくしのリュートが何かのお役に立ちましたのなら光栄です」

「僕にとっては芸術の女神です」

 いやチャラいのは素か?


「女神と言えば、お美しい方がご一緒ですよね」

 私はデシデリアのことを話題にした。


「デシデリア様に、お会いすることは可能でしょうか。マドリウ国の方とお知り合いになりたくて」

 なんでや?という疑問の答えを察していただけるような口ぶりで私は言った。つまり、元愛妾なんで、この国に居づらくなったら引っ越したいんだけど、そのために要人と顔を繋ぎとめておきたいんです!という深読みをしていただきたい。

 それくらいしか私がデシデリアに会う理由をこじつけられなかった。


「ええ」

 一周、間があってからクラウディオは頷く。

「あなたが合いたいとおっしゃるのなら、ご紹介いたしましょう。デシデリア様も音楽が好きですからお話が合うでしょうし」

 苦労したかいがあった~。

 クラウディオの二つ返事に私はガッツポーズを決めそうになる。

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