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 100回目。

 なんか記念すべき回数な気もするが、まだマルセルに教わってます。多分次もそう……。


 王宮に向かう馬車の中で、王宮に到着することなく、途中で馬車を止める。マルセルを指輪で買収してリュートの基本を習う。昼を回った頃にはマルセルは別の用事があると言っていなくなってしまうため、練習は強制終了だ。止む無く王宮に向かって人通りの少ない通りまで行くと、悪魔憑きが出てきて襲ってくるというルーチンが確立しつつある。私も悪魔憑きも律義である。悪魔憑きから逃げられるくらいの剣技はエルキュールから教わっているけど、効率が悪いのでもさくっと死亡して、リピートしている。


 やっと音階が間違いなくなってきてなんとなく音がちゃんと腰を据えてきたな、という感じだ。

「あんた、リュートをやっていたのか?」

 ここ数回ではマルセルが尋ねてくる。

「いいえ」

「音階が間違なく、音がちゃんと腰を据えているから、素人とは思えない。そうじゃなきゃ随分才能があるぜ」



103回。

「基本はできるようだな。じゃあ曲を教えてやるか」

 マルセルさんの教え方がいいからですよ~。最初なんて、全然指が動かなかったですからね。

 いよいよ曲に取り掛かるが、まず楽譜が読めなくてそこで手こずる。



107回。

「なんだ、この曲は知っているのか。上手いもんだ。じゃあ別の曲を教えるか」

 努力は実る者なんだな……。ちょっと感動してきたぞ。あれだほら、文化祭でみんなで一生懸命やった何かが実った感じ……!



120回。

「あんたうまいな。この曲だけだったら俺のライバルになれるぞ」

「マルセルさん」

 私は彼に提案する。


「実は、教わったのは、わたくしの頭にある曲を形にしたかったためなのです。断片的でとてもわたくし一人の知識ではどうにもならなくて……」

「へえ?」

 私は覚えている部分を歌う。私がマルグリットになる前に生きていた時代のヒットチャート一位の歌だ。この世界ではさぞや珍しかろう。


 そう、この曲をパクッてなんとかしたかったのだ。


 クラウディオは音楽がめちゃくちゃ上手い。はっきり言って付け焼刃で彼に興味をもらえるような演奏家に自分がなれるわけがない。ほんの少し上手なくらいだったら、クラウディオは器用に丁重に褒めて去って行くだろう。そうはさせないパンチ力のある曲……そうなるとこの時代とは全然別物の何かをぶちかますしかない。


 ちなみにアデルがクラウディオと仲が良くなったのは、アデルはリュートを小さい頃から嗜んでいてその音楽の素朴さと清純さに、クラウディオが惹きつけられたからだ。オッケー主人公補正。私には無理!

 だからずるいことやります。


「……これは……」

 私の歌を聞き終わって、マルセルは感心したような、困惑したようなどうともつかない表情だった。

「……いかがでしょう?」

「いや……あんた……すごいな」


 本当は北欧系デスメタルとかが破壊力あっていいかもしれないんだけど、そこまで行くと理解が及ばないかもしれない。あのクラウディオにヘドバンさせたいわけではない。

 私が差し出したスローテンポなバラードをマルセルは聞いただけで、リュートで少しずつ曲に変換していった。マジか、この人こそめちゃくちゃすごくない?


「これは多分、一人より何人かのリュート引きがいた方がいい。少しずつ音階の違うメロディラインを……」

「とりあえず、わたくしは主旋律だけで構いませんわ。マルセルさんはあとで気がすむ形でこの曲を編曲なさって」

「俺にくれるっているのか、この曲を」

「ええ。一応基本はわたくしが考えた、ということだけ後でも宣言してくだされば」


 前世の曲をパクるのはバレないからいけるけど、マルセルさんからパクったってなると後々にちょっとまずいことになるかもしれないからね。

 私は最後にマルセルに深く頭を下げた。

「本当にお世話になりました」


 それから少し考える。

「……マルセルさん。これは余計なお世話かもしれませんが、お耳に入れておきたいことが」

「なんだ?」


「ルイーズ王女とマドリウ国のベルナルド王子の婚礼が行われることはご存知ですよね。その期間中、警護のため都の治安監視が厳しくなるかもしれません。しばらくの間は、夜になったらあまり遅く帰らずに、早めに家に戻られた方がよろしいかと存じます」

 私の言葉にマルセルは少し考え込んだ。


 彼の死はシナリオで発生する場合としない場合がある。ただ悪魔憑きに襲われるのは夜の路上だったはずだ。少しぐらい、入れ知恵をしてもいいだろう。

「行き違いで、牢獄に放り込まれるのは一晩だって気持ちの良いものじゃないでしょうから」

 私の言葉に彼は頷いた。


「まあ気をつけるさ」

 どこまで気に留めてくれるかはわからないけど、一応できることはしたかな。関わった相手が死んでしまうのは、あまり気分の良いものでもない。


 リュカと同じように。


 どうかな、本当は公式通り死なせるべきなのかもしれない。でも今、私の目の前にあるこの場所では物語は始まっていない。だから、少しぐらい死にゆくはずの運命を手助けしたいような気がするのだ。

 偽善かな。でも気になるんだよね。

 さて。

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