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 デシデリアはマドリウ国の今回の訪問に、王代理としてきている。マドリウ国のベルナルド王子の伯母にあたる女性だ。つまりは現在のマドリウ国王の妹である。これがまた少々複雑で、マドリウ国王とは異母兄妹だ。現王の母が亡くなられた後の後妻が産んでいる。


 そして。

 ゲームではベルナルド王子とルイーズ王女の結婚を邪魔しようとしてくる。これこそ悪役令嬢か?令嬢というには年齢も階級も上過ぎるけど……でもある程度権力がないとそんな大それたことできないから、設定的には妥当だと思う。


 年齢は40歳くらいなんだけど、鋭くとがった衰えぬ美貌の持ち主だ。いわゆる悪女顔。眩い金髪を結上げていて、いつもゴージャスな衣装を身に着けている。


 マルグリットが悪魔関連のラスボスだとすれば、デシデリアは陰謀関係の中ボスだ。確か現在の王は異母兄妹とはいえデシデリアに甘くて、彼女は割と好き勝手している。そして彼女の甥である第一王子と仲が悪い。ベルナルド第二王子と次期国王である兄王子が、クラロ国の姫を娶ることで権力を増すのが困るからとかそういう理由だったと思う。


 彼女は確か結婚していないんだよな。適齢期の頃に、階級が合う結婚相手がいなかったから。それはそれで王宮内で嫁がず後家みたいに悪し様に言う連中がいたため、デシデリアはちょっとこじれた性格をしてしまっているし、権力に関する執着がすごい。


 公式ファンブック情報によると、デシデリアは若い頃に恋に落ちた相手がいたそうだ。けれど身分差が甚だしく、とても周囲の理解を得られることなどなかったのだ。しかも、その相手はデシデリアの父親によって密かに暗殺されたらしい。という悲運の方ではあるのだが。


 認められて幸福な結婚をするというルイーズ王女とベルナルド王子については、権力闘争以外にも忸怩だる思いがあるようで、それが暴走に繋がる。

 アデルはデシデリアの妨害を止めるべくゲーム内で活躍をする。


 ちなみにデシデリアはゲームだと大体死ぬ。

 まあそりゃそうだ。ルイーズ王女が嫁ぐのにマドリウ王宮にやべえ小姑みたいなのが存命では、プレイヤーもすっきり終われない。


 デシデリアは自分の手先に殺されたり、ここまでと思って自殺したり、追いつめられた時に塔から落ちて死んだり、死に方はいろいろ。ただしアデルや攻略キャラが直接手を下すことは無い。一応相手も国家の要人であることと、マルグリットは悪魔化するのでモンスターだけど、デシデリアは人間だから、ヒロインや攻略キャラが手を下すのはちと問題があると考えられたのだろう。


 アデルと因縁があるキャラなので、デシデリアと会うべきじゃないか?と気が付いた。マドリウ国にはもう一人、デシデリアと近しい階級のラウルという攻略キャラがいるけど、ラウルがデシデリアとどこまで仲がいいのか思い出せない。 


 そう、大抵の女性キャラと良好な関係を築いているクラウディオは、デシデリアとも良好な関係を築いているのである!

 マルグリットが突然デシデリアと会いたいと言って会えるものでは無なさそうだが、彼を窓口にすれば可能かもしれない。

 デシデリアに会って、彼女の動向を探るのは必要だろう。


「ただ、人の美しさというものは、個人の主観が大きいため、一口には説明できませんね」

 クラウディオはデシデリアの容姿についての言及を避けた。確かに一般的には目の前に女子絵がいるのに他の女性を褒めることを言うのは野暮だ。クラウディオはできる子だなあ~。


「残念なことに、まだデシデリア様にお会いしていないのです。お見かけもしていなくて。せっかくですからお会いしてみたいと思っています。わたくし、滅多に王宮には足を踏み入れませんから。今回はたまたまなんです。大変教養豊かな方だと伺っていますし、マドリウ国の話を聞いてみたものです」


「おやそれは残念至極」

 クラウディオは肩をすくめた。

「ご存知ないかもしれませんが、私もマドリウ国の人間なのでその国については詳しいですよ。よろしければお話しできます。私から、でいかがですか?」

 そう言ってウインクまでしてくる。くぅー、少しくらい年上でも修道女でも口説いてくるその仕草がマジでクラウディオ。最高だ。


 ただこれが、私のデシデリアとの面会リクエストへの湾曲なお断りであることは理解できた。クラウディオもデシデリアには問題があることは分かっているが(だからゲームシナリオで彼女が一線を越えた時にはヒロイン側に立つ)、一応同国人であるがゆえに、下手なことはしでかさない。


 そこを説得して何とかデシデリアへの道筋をつけないと。

 クラウディオにかまけている暇はない。しかし彼の機嫌を損ねるとデシデリアに会えない。デシデリアは要人だ。引退した先王愛妾ごときが『会いたいな~』で会える彼ピみたいな相手ではない。


「ところでマルグリット様。楽器は何か得意でいらっしゃいます?」

 クラウディオは伸ばした指先で鍵盤の一つを叩く。透き通る鮮明な一音が部屋に舞った。

「わたくしは」

 言いかけて私はその続きが出てこないことに気が付いた。


 ……おい……まさか……まさか……。

 マルグリット、お前、楽器弾けないのか!?


 この世界の分からないこととか、マルグリットの持つ情報については彼女の記憶や経験値を共有しているから、記憶を探れば出てくる。愛妾なんだから、楽器くらい嗜んでいると思いきや。思いきや!

 聞く専なのか……そういえばこの一年もマルグリットの部屋に楽器はなかったな。


 マジすか。

 マルグリット、嘘だろ。顔に胡坐をかいて、音楽やっていなかったのか。いや、さすがヘイトを集めるべくして設定されたキャラというべきか。


 クラウディオは微笑んだままだが、明らかに私に対しての興味を失ったようだった。そうだった。アデルとクラウディオの出会いも、クラウディオのピアノにアデルが自分の得意な楽器を合わせるところからだった。音楽バカだ、こいつ。


「よろしければ、また今度ぜひ。そろそろ私はデシデリア様のところに行かないといけませんので」

 クラウディオは立ち上がった。深くお辞儀をして立ち去る。すらりとした後ろ姿とその足音までまるで音楽のように麗しい。


 まじかよ~。またかよ~。


 私もまた椅子から立ち上がった。そういえば、アデルの部屋にあれがあった、と思い出し、速足で、部屋に戻る。キャビネットの上に置かれていたのは。

 そう、リュート。


 ということで、まっしぐらに私に向かったのは、あえて避けてみたあの階段である。そこで悪魔憑きと行き合わせた。ありがとう悪魔憑き!その律義な仕事っぷり、なんかもう一周回って好きになって来たわ。まだまだずっと私を狙っているということか。プロフェッショナルやで!マジリスペクト!

 ということで今回は抵抗せずさくっと死亡。

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