表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死神猫のファウストと愛すべきおバカたち  作者: 白夜いくと
海を越えて【イギリス編】
24/32

理屈っぽい日本の閻魔様だにゃ!

 冥界にはひんやりした空気と、青白い炎に真っ赤な炎が沢山。多くの死人の彷徨える声が聴こえる。ファウストは、彼らを上から見渡して、閻魔の座っている椅子の所まで近づいた。もうじきその顔が見れそうだというところで、


「遊びに来たのなら許さぬぞ。死神猫」


 お付きの青鬼が鎌をファウストへと向けて、「しっし!」と追いやるような仕草をした。死神猫は普通の猫ではない。しかし、階級というモノはある。

 厄介だ。閻魔の付き人の青鬼と赤鬼は、死神猫よりも偉い存在なのである。しかも、ファウストは海外から派遣された者。立場が弱すぎる。このままでは会ってすらくれないかもしれない。


「下がりなさい。青鬼」


「しかし、閻魔様」


「2度も命令させるつもりですか」


 聴こえた声は思っているよりも若々しく、女性的な声であった。閻魔様と呼ばれた彼女は、(あま)さんのような恰好をしている。どうして髪が無いのだろう。袈裟には何が書いてあるのだろう。イクラは美味しい……そんな無粋なことを考えていると、


「思考に纏まりが無いのは、話す人を不快にさせます。気を付けましょう」


 早速閻魔からお叱りを受けてしまった。思考が読まれてしまう。どうやらグイーリンダイもそれに似た能力を持っていたのであろう。【ジュゲムの集い】の真のボスはシューリンガンではなく、グイーリンダイだったのかと気づくファウストだった。


「閻魔様。私を天国へと導いてください! 私は何も悪いことをしておりません!」


 横から割って入った女が、自分の話を始めた。壮絶ないじめを乗り越え大人となり、好きな人と出会って平凡な主婦として立派に子育てをして、幸せに暮らせると思った矢先に交通事故。言い分だけを聞くと不幸な人生ともとれる。


「語られていない真実があります。あなたは、1度いじめには遭いますが、大人になった時。陰口や嘘をついて親切にしてもらったママ友達を陥れましたね。自分だけが幸せになろうと、育児も夫にまかせっきり。その体たらく、罪に値します」


「でも、私は交通事故という悲劇に遭って……」


「また真実を隠しましたね。あなたは、交通ルールを守らず、赤信号の時に自転車で道路を渡った。因果応報です」


 ファウストは裁判の様子をじっと見ていた。容赦なく相手側にとって都合の悪い情報を言い当てる閻魔に、とうとう女は泣き出してしまった。


「しかし、地獄逝きにはあまりにも平凡な(ごう)すぎる。飽食もせず、更生の余地あり。心改めるのであれば、天国逝きを認めよう」


「改心いたします!」


 閻魔の尺が女の額に触れると、女はその場から、スッと消えて行ってしまった。穏やかな顔であった。なるほど。日本の閻魔の判断では、改心をする余地があれば罪を犯しても天国へ逝けるのか。ちょろいな、と思ったファウストであった。


(シズコにはそう教えておいてやろうにゃ)


 にゃにゃにゃと含み笑いをするファウスト。


「来なさい死神猫」 


 多くの死人がファウストの方を見る。赤鬼と青鬼は石像のように動かずに立っている。用件を伝えるために口を動かそうとしたが、うまく発音できない。なにかしらの力が働いているのであろうか。


「……事情は分かりました。ではファウスト、あなたに質問です。あなたがそれを成し得たいと思ったのはどうしてですか。私の前で嘘やはったりは通用しませんよ。好奇心という悪戯な心ならば許しはしません」


「にゃぅ……」


 困った。

 ファウストは、カズに【カエデ】の居場所を教えることによって、何がしたいのであろうか。改めて考えた。心に希望をあげたい? 死んで欲しくない……?


(むぅ~。頭がこんがらがるにゃー)


 きっともう答えは、閻魔には見えているはずだろうが、あえて口出しをせずに死神猫自身に考えさせているようだ。その間も、死人の数は増えていた。早く答えなければ追い出されてしまう。ファウストは咄嗟にタカシのある言葉を思い出した。


 独りで食べるご飯は、まるで時間が止まっているように感じる。といった言葉。とても寂しげだった。タカシとカズは、どこか似ていると感じる。恋人が出来るまで、ずっと孤独で灰色の人生を送ってきた人。


「えっと……幸せ。例えば恋人を手に入れた人。タカシのようにゃ人は、他の人の幸せも大切にできるにゃん。ファウストのことも快く受け入れてくれたにゃ。だから、カズにもそんにゃ幸せな人生を送って欲しいのにゃん!」


 思っていることと、言っていることが一致しているのを確認した閻魔は、狐目のファウストの額に、ピタッと尺を当てる。ファウストが目を開けると、なじみ深い、海外の冥界に繋がる道が現れた。時空の歪。今からファウストはイギリスの冥界へと逝っていいこととなった。


 閻魔の中で正解なのなら、きっと死神猫の言うことは、間違いないのであろう。むしろ正解を問うために訊いたのではなく、決心をさせるために尋ねたのであろう。


「決して己の真実と、相手の真実を天秤にかけてはなりませんよ」


 押し寄せる死人たちを青鬼と赤鬼たちが払いのけていた。ファウストには閻魔の放った言葉の意味が分からなかったが、どこか認められたような気がして、有頂天になっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ