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死神猫のファウストと愛すべきおバカたち  作者: 白夜いくと
クラシックカメラと【カエデ】
23/32

海を渡るフィルムだにゃ!

「――こえますかにゃ、聴こえますかにゃ。ファウストさん……」


 ポムッと、顔面を肉球で押された感覚で目覚めたファウスト。視界の先にはエメラルドの瞳のグイーリンダイが居た。周囲には他の死神猫たちやシズコ、真理恵(まりえ)が居ない。

 そう、ここはグイーリンダイとファウスト2匹だけの精神世界。記憶の中での会話となるのだ。ここで【カエデ】についての記憶のやり取りをする。


 早速ファウストは、要点を話した。


「カズには、【カエデ】とその母親と一緒に撮った、思い出のフィルムがあるにゃん。クラシックカメラっていうお高いカメラを持っていた貴婦人の娘で……」


「言わなくても読みいとりますにょで黙っていてください」


「……」


 意見を聞き入れてもらえず、少しムッとしたファウストは、わざとイクラが空を泳いでいる図を想像した。情報処理の邪魔をされたグイーリンダイは、綺麗なエメラルドの瞳を吊り上げる。


「怒りましたにゃん」


 短足のグイーリンダイから放たれた高速肉球パンチ10連。どしっとした痛みがあった。体重をかけているからであろうか。ぶたれた頬をさすりながらファウストは、「意外と気性の荒い死神猫にゃー」とからかった。


「そんなことはどうでも良いにょです。とにかく私は【カエデ】を探しますにゃ。日本に居てくれたらいいにょですが」


 グイーリンダイは、ファウストに余計な想像はしないように注意し、精神統一した。細まる目元。ピンと高く張る尻尾。次第にグイーリンダイの体が緑色に輝いていく。ファウストの見たカズの記憶から、あらゆる情報を引き出している最中なのだ。


 導き出された答えは……、


「……日本にはいませんにゃ」


「にゃん?」


 というものだった。

 突然のグイーリンダイの言葉に疑問符を浮かべるファウスト。


「おそらくイギリスに居りますにゃ。クラシックカメラの持ち主は【カエデ】の年齢的には珍しい世代でしたにょで。それに、猫アレルギーで死神猫を見てぶっ倒れたおば様が居るという情報もありますにゃ」


「にゃんと!」


 グイーリンダイの情報網は、海外にまであったのかと感心するファウストであった。と同時に、問題も生じる。日本以外の国へ行くことは、閻魔の命令にない。あくまでファウストは、足りなくなった死神猫たちの助っ人としてやってきたのだ。


「海外となると、一度冥界に戻り、閻魔様に許可を得にゃいといけません」


「うぅ。日本の閻魔様はまじめで頑固だからにゃ~」


 ファウストが苦言を呈すると、グイーリンダイがクスクス笑いながら、「そう伝えておきましょうかにゃ?」と言った。想像をして怯んだ顔をするファウスト。


「にゃ~、言い出しっぺはファウストにゃ。責任を持って、日本の閻魔様に相談してみるにゃ」


「それが良いでしょうにゃ」


 これを持って、脳内会議終了。

 【カエデ】は、イギリスに居る。管轄外の海外へ行くために、日本の閻魔の許可が必要となった。


 ファウストが目を醒ますと、それを覗き込むような、シューリンガンの怖い顔があった。グイーリンダイは、その横でちょこんと座っている。

 真理恵(まりえ)は、シズコと一緒に、ポンポコピーを含む死神猫たちと遊んでいた。


「どうだったにゃぁ」


 シューリンガンの言葉で、ファウストが目覚めたことに気づいたみんなは、ファウストの元に近寄って話を聞いた。改めてグイーリンダイが語る。


「どうやら、カズの遠い日の想い人である【カエデ】は、海外――イギリスにいるようですにゃ。これはファウストさんの持ち込んだ案件にゃので、一度、日本の閻魔様の所へ行ってもらいますにゃ……多分怒られると思いますけれどにゃ」


「にゅん」


 シュンとした顔で、毛づくろいをするファウスト。日本の閻魔に会うのだ。身だしなみは整えておかなくては。潔癖症な閻魔に叱られてしまう。


「猫様。連絡は私に任せてください。進展があったらまた、戻って来てくださいね」


 真理恵(まりえ)がスマホを取り出して、タカシやチカたちへとメールを打った。写メ付きで。ファウストにはスマホカメラの理屈はよく分からなかったが、映った自分の姿を見て、すごく紳士だと思った。


 さて。

 ファウストは、真理恵(まりえ)を自宅の近くまで転送して、真っ青でもくもくな空を仰ぎ見た。冥界へ戻らなければならない。叱られないようにしなければ。死神猫にとってストレスは天敵だ。毛が抜け落ちるほどの叱責を受けたくない。失礼の無いようにしなければ。


「猫様、ファイトです!」


 真理恵(まりえ)が元気づける。えーい、こうなったら仕方ない。腹を決めて、逝くか。ファウストは決意した。良いことをしてやるのだ。たとえ時間のない閻魔でも、話ぐらいは聞いてくれるはずだ。そう信じて冥界まで空を駆けていくファウスト。


 ファウストの足跡には、金色の肉球マークが小さく点々とついていた。やがてもくもくした雲の中へと入り込み、死神猫の姿は完全に見えなくなった。空を眺めながら真理恵(まりえ)は、その光景を動画で撮っていた。


「送信……っと」


 タカシとチカに送るため。


 さてさて。ファウストは日本の閻魔から、海外を渡ることが許されるのであろうか。

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