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死神猫のファウストと愛すべきおバカたち  作者: 白夜いくと
クラシックカメラと【カエデ】
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不服のシューリンガン? だにゃ!

 チュンチュンスズメの声と共に、車の行きかう音がする。閉まっているカーテンの隙間からは、ファウストの黒い毛を金色に輝かせるような、まばゆい光が射しこんできた。


(朝だにゃ)


 真理恵(まりえ)はその光を心地よさそうに受けて未だ夢の中。誰かが階段を上って来る音がする。死神猫は姿を隠して様子を伺った。まぁ、彼女の親であることは間違いないだろう。


真理恵(まりえ)。良い朝だ、紅茶でも飲もうじゃないか!」


 ノックもせずに勢いよく開かれるドア。そこにはムキムキ髭ダンディな彼女の父親がティーカップを持って立っていた。ファウストの嗅覚が正確ならアールグレイだろうか。朝から騒がしい男である。普通なら驚くのだろうが、慣れているのか真理恵(まりえ)はむくっと起き上がり布団を整頓して眼鏡をかける。


「朝ごはんは?」


「ふわっふわのオムライスだ。父さん特製のだぞ~」


「また~?」


 仲良く手をつなぎながら1階に降りる真理恵(まりえ)たち。

 どうやら家事などは、父親が行っているらしい。慣れた手つきでオムライスにケチャップで猫の絵を描いている。母親は仕事に行く準備をしていた。死神猫は、赤く描かれた猫の絵に反応した。気配を消してオムライスを眺める。


(か、かわいいにゃん!)


 デフォルメされたそれは、ファウストにとってはドストライクだったようで、朝から大変機嫌がよくなる。しかし真理恵(まりえ)は、真ん中からスプーンで猫の絵を崩し、紅茶を飲みながら、ゆっくり朝食を楽しんでいた。


(酷いにゃ……)


 そんなことを思いつつ、死神猫は今日すべきことを頭の中で整理した。そう、【ジュゲムの集い】に再び参加して、シューリンガンたちに【カエデ】の所在を調べてもらおうというもの。さすがに死神猫でも、過去のカズの思い出の中にいる幼い姿からでは正確に探し出すのは無理だ。


 そこで、情報収集力の高いシューリンガンたちを頼ろうとしたわけだ。


「……猫様」


 朝食を終えた真理恵(まりえ)が、両親に聴こえないような小さな声で、ファウストに向けて言う。今日は午後の講義まで暇なのだと。だから、死神猫の1日に密着したいのだそうだ。


 ふむ困った。

 死神猫には人間を転送させる力もあるにはある。でも、シズコの元へ彼女が行くことによって、起こりうる弊害は無いか考えてみた。うーん。彼女には死神猫の存在が不気味がられていない。ファウストが喋っても、腰を抜かすこともなかった。


(まぁ、いいのかにゃー)


 博識ではないにしろ色々と物を知っている真理恵(まりえ)のことだ。どこかで役に立ってくれるかもしれない。死神猫は、「いいにゃよ」と、軽く返事をした。


「やったぁ!」


「あら、どうしたの、真理恵(まりえ)?」


「え、ううん何でもない。気を付けて行ってきてねお母さん。それからお父さんも。勝手に私の部屋掃除しちゃだめだからね!」


「はっはっは。わかってるさ」


 真理恵(まりえ)は、遊びの約束があると言って素早く用意をして、家の外に出た。彼女は死神猫の力によってシズコの家の軒下の縁側へと転送される。真理恵(まりえ)には見えないが、沢山の死神猫が彼女の様子を伺っていた。


 ボスのシューリンガンが、ファウストの前にやって来る。そしてパイポパイポの術でファウストにだけ語り掛けた。


「貴様。人間を連れてくるたぁ、どういうつもりだ」


「色々と聞きたいことが有ってやってきました。彼女はその……助手のようなものです」


 咄嗟に出たはったり。助手とは。

 そんな言葉で納得するシューリンガンではなかった。「帰れ新入り」と言うと、シャーと牙をむく。怯むファウストを見て、真理恵(まりえ)はしゃがみ込んで死神猫の頭を撫でる。


「随分気に入られてるじゃねぇか」


 シューリンガンが言った後でシズコが縁側から出てくる。真理恵(まりえ)の姿を見ると、「おやまぁどこから」とゆっくり近づいてきた。


「こ、こんにちは」


「おはよう。お嬢さん。かわいらしい目をしとんねぇ」


「え、目? 眼鏡してますけど……」


 死神猫の姿が見えたり、真理恵(まりえ)の表情を読み取れたりと、どうやらシズコには、不思議な力があるようだ。人間界も侮れないなと思うファウストであった。


「縁側で会話は足腰がきついから、入りゃんせ」


「あの……えっと、良いんですか」


「誘いは断ったら失礼さ」


 真理恵(まりえ)は、ファウストを抱えながら、靴を脱いで部屋の中へと入る。他の死神猫の見つめる中、閉じられる襖。シューリンガンのブスッとした顔がフェードアウトした。


 予定とは違ってしまったが、一応【カエデ】について聞いてみよう。

 曲がった腰でゆっくりとお茶をいれているシズコ。そわそわしている真理恵(まりえ)にファウストは、「家では堂々としてたにゃん」と茶化す。顔を真っ赤にする彼女を見て、シズコはにっこりとする。


「我が家だと思ってゆっくりしていってさ」


「とんでもない! 有名な教授様のお部屋にお邪魔できたのですから。興奮して……いえ、緊張するのは当たり前ですっ! その、素敵な戯画ですね」


「おやまぁ戯画、好きかい?」


「さわり程度ですが、美術館などで学生パスを使って無料で観に行ったりしています!」


 真理恵(まりえ)がそう言うと、以前ファウストに話したようなことを彼女に話すシズコ。地獄太夫(じごくだゆう)の話だ。細かな説明はファウストには解らない。ふむふむと真面目に頷く真理恵(まりえ)をよそ眼に、ファウストは大きなあくびをする。


「んで、なんで来よった」


「えっと……その、猫様」


「にゃん?」


 突然話を振られてびっくりする死神猫。

 ファウストは、【カエデ】という人物を探していることをシズコに話した。

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