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死神猫のファウストと愛すべきおバカたち  作者: 白夜いくと
クラシックカメラと【カエデ】
19/32

真理恵の部屋は視線がいーっぱいにゃ!

 さて、死神猫たちは一戸建てのそこそこ立派な家に辿り着く。駅近だったから、変な人に絡まれるということはなかった。近くのスーパーにも明かりがともっていて、時たま車が通りすぎる音がする。

 ファウストは、真理恵(まりえ)が玄関の扉を開ける前に姿を消して彼女と一緒に家の中へ入った。


真理恵(まりえ)。お帰りなさい、楽しかった?」


 真理恵(まりえ)の母親が、白いタオルで両手を拭きながら、うさぎのようにぴょんぴょんやってくる。死神猫は気配を消している最中。ドキドキ。奥の部屋からは、何か分からないが良い食べ物の香りがする。

 靴を脱ぎながら、「ご飯は要らないって言ったのに~」とフランクに語り掛ける真理恵(まりえ)。家の中ではよく喋る性格なのだろうか。


 様子を伺ってみよう。


 リビングにはソファに座る髭の濃い父親が居た。体格はよく、ガチムチの髭ダンディー。彼は真理恵(まりえ)を見つけると、「変な男には絡まれなかったか? もし何かあったらすぐに言いなさい。俺がボコボコにしてやるからな!」と膝をつきながら、いきなり彼女に抱きついた。

 これには死神猫もビックリ。


「もー、お父さんってば心配しすぎ。タカシさんやチカさんたちと楽しくやってたよ。それに、私のどこに色気があるのよ。いい加減子離れしてよね」


「いや、世の中にはお前みたいな物静かな娘を狙う変態でクズ野郎も居る。父さんは男だからわかるんだ。何事も気を付けるんだぞ。あぁ無事でよかった」


「もー」


 その端では、彼らの様子を見てニコニコと微笑みながら、お茶を汲んでいる母親が居た。ファウストは、その光景が何処か羨ましかった。もともと死神猫には家族は居ない。誰かから心配されるということもない。


(にゃんだろう、この気持ち)


 チクチクと細かい針で刺されるかのような胸の痛み。もともとのんびりと冥界で暮らしてきたファウストには、この心を理解するのは難しすぎた。気配を消しつつ真理恵(まりえ)の肩をポンポンと叩く死神猫。


「あ、はい猫様……」


「猫様?」


「あーえっと。私もう寝るね!」


 母親が、「お風呂は?」と聞いてきたが、真理恵(まりえ)は、「明日ー!」とだけ答えて、父親を押し剥がした後、2階にある自室へと足を運んだ。ついて行くファウスト。チラッと見えた食べ物の正体は、枝豆の入った豆ごはん。ほんのりしょっぱくて甘そうな良い香りがしていた。


 やっと入った部屋の中は真っ黒で、少し異様だった。目のいいファウストにはその違和感はハッキリと捉えられる。棚に広がる、キャラクターもののマスコットや沢山の本。極めつけは、甘いフェイスのイケメンのポスターが壁一面に貼ってある。


 扉が閉まると同時に部屋のライトが付く。


真理恵(まりえ)。これ……」


 姿を現して彼女から距離を置くファウスト。しかしどこに行っても視線を感じる不快な部屋である。最終的にはベッドの隅に隠れてしまう死神猫。


「猫様はきっと擬人化するとこのキャラクターだと思います」


 指さされた方を見てみると、黒髪に顎の尖った狐目の生意気そうな執事のポスターがあった。もちろん死神猫は冥界の遣い猫である。本来癒しに来てやった人間に擬態する理由が何処に在ろうか。またファウストは、自分が狐目であることを少し嫌がっている。


「寝言はいいのにゃ、カズの似顔絵を出すのにゃ」


「はい猫様」


 スケッチブックが床に置かれる。カズの若干美化された絵。その上に体を丸めてすやすや眠るような態度を取るファウスト。

 人間から見たら踏み絵のようで心地の良いものではないだろうが、死神猫は物の上で集中すると対象者に直接語り掛けることが出来るのだ。似顔絵を描いてもらったのは、より相手のことをイメージできるからである。


「その能力で何をしようとしているのですか?」


 真理恵(まりえ)の問いに死神猫はこう説明した。


 まずカズに昔の記憶を思い出してもらって、その記憶から【カエデ】の所在を探る。次に、生きていれば彼女の居る場所へ行き、思い出のフィルムを確認してくる。あとは、カズに全部話して彼自身が動くのを待つといった作戦である。

 要は、生きがいを持たせれば良いのであろう。ならば、カズの昔の姿を知る【カエデ】の存在があると知れば、自ずとその情報が欲しくなるはず。どんなもんだい、猫様のひらめき。


「今から決行するのにゃ。真理恵(まりえ)は好きにするといいにゃよ」


 あらまぁなんという言いよう。

 一応姿は消しておこうと思ったファウスト。スケッチブックの周囲に多少の違和感があるが、電気を消してしまえばわかるまい。


「無理はなさらないように。お休みなさい、猫様」


「お休みだにゃ~」


 真理恵(まりえ)は人形だらけのベッドを整えると、丸眼鏡をはずしてお気に入りと思われる人形にかけた。掛布団までキャラクターグッズ。彼女の二次元にかける情熱は本物だ。四方八方に感じる視線を無視しながら、死神猫は頭のてっぺんに神経を集中させた。


(にゃむあみにゃむつにゃむあみにゃむつ……)


 集中するなら、呪文は何でもよかった。どうせなら日本の閻魔が使いそうな言葉を使おう。ファウストはそう思ったのだ。尚、意味は分かっていない模様。


 真理恵(まりえ)が夢をみる頃、死神猫はカズの精神世界の中に入り込むことに成功していた。遠くに見える彼にめがけて、駆けていくファウスト。

 これまた長い、カズの話が聞けそうだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 娘に抱きつく父、なかなかのインパクトですね(笑) 家族愛、そうかそれはチクチクするかもしれませんね…… ポスターだらけの部屋は落ち着かないかも(笑) 続きも楽しみです!
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