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死神猫のファウストと愛すべきおバカたち  作者: 白夜いくと
おさんぽ【グルメツアー】
15/32

サプライズを仕掛けるのにゃ!

 アパートへ戻ったのは良いものの、タカシはまだベッドの上でぐうすか寝ている。起こすのも悪いと思ったファウストは、あることを思いついた。


(サプライズするにゃ!)


 暇で仕方ないファウストの気まぐれである。とはいえ、タカシは何をすれば喜ぶだろう。豪華なご飯はお金が無くては買えない。このままでは戻ってきた理由がなくなる。どうにか死神猫だからできるサプライズはないものか。


(にゃ)


 中途半端に開いた寝室の押し入れ。思いついた。寝起きドッキリをしてやろう。タカシが起きたと同時に、押入れの中から飛び出して驚かしてやろうと思ったのだ。帰ってきてやったぞ、という挨拶も込めてのことである。


(にゃにゃにゃ、沢山モフモフしてやるにゃん)


 死神猫の計画を知らずに、非常口の看板のポーズのような寝相のタカシ。「ぐぉお」といういびきをかきながら、腹をかいている。ファウストは早く彼が起きないかウズウズしていた。


 いざ、押入れの中へ。


(埃が……すごいにゃ)


 くしゅん、と気品のあるくしゃみをしてしまった。


(バレたかにゃ~)


 こそっと隙間から様子を伺った。大きな寝息が聴こえる。おそらく寝ているだろう。どうしよう。待っている時間がどうしても、暇で暇で仕方がない。油断したファウストはだんだん眠くなってきていた。気が付けば、押入れの中のクッションの上で、そのまま横になって眠ってしまった。


 それから何時間経っただろう。

 タカシのスマホの着信音と振動音にビックリして、飛び起きる死神猫。


「あぁ、チカか……」


 大きく欠伸をしながらベッドの横にあったスマホを取り出すタカシ。様子を伺うファウスト。どうやらチカは、大学の講義が終わって、今から真理恵(まりえ)と一緒に、こちらへと向かっきているようだ。出るタイミングを失ったファウストは押入れの中で会話を聴いていた。


「大学俺も行ってみたかったなぁ。真理恵(まりえ)ちゃんは、近世(きんせい)っていうのに興味あるのか。へぇー、江戸時代を含んでる時代のことを言うんだな……え、ちょっと違う? 詳しくは分からないけど、凄いな。日本のことよく知ってて。え、ファウスト? アイツはもう行っちゃったんだぞ」


(……)


 非常に出づらい。

 ファウストはタカシからもらった皿を眺めつつ、心がチクチクするのを感じた。タカシは、もう心を切り替えてファウストのことを忘れてしまったのだろうか。下がる耳と尻尾。もう諦めてシューリンガンたちの居る、シズコの家の軒下へと行ってしまおうか。そう考えていた死神猫。


「なんか、ちょっと寂しいよな」


(!)


 頭を掻きながら、タカシがスマホ越しに言った。出てくるなら今しかない! そう思ったファウストは、押入れの中から皿をコロコロと、タカシの足元へと転がした。


「ん?」


 やっと気づいた彼は、押入れを開けた。


「帰ってきてやったにゃんよ。寂しがり屋のタカシ」


 決して、寂しくて帰ってきたのではない。求められたから帰ってきてやったのだ。ファウストの精一杯の言い訳である。これにはタカシも笑いをこらえられなかったようで、「ははは」と死神猫の尊厳を守りつつ、


「おかえり、ファウスト」


 と笑顔で迎え入れた。

 ファウストの食う寝るところに住むところは、ここにあった。


 しばらくして、話を聞いたチカと真理恵(まりえ)も合流する。みんなで話し合った結果、大きな荷物はタカシのアパートに置いておいて、ファウストと一緒に外出してみようということになった。どこにでも瞬間移動できる死神猫にとって、道などは有っても無いに等しいが、興味はある。


「沢山巡って、ファウストに日本の良さを知ってもらいましょ♪」


 チカはスマホでいろいろ検索しながらそう言うが、ファウストの金の右目は全てお見通しである。ただ単に、食べ歩きがしたいだけ。でもまぁ、それも悪くはない。死神猫は、何でも食べられるのだから。美味しいものは大歓迎だ。


 ファウストの皿は、タカシがリュックの中に入れている。


「ゴミ袋は分かるけど、どうしてラップを持ち歩くのにゃ?」


 ここで真理恵(まりえ)の長い説明が始まる。


「猫様の居る冥界には無い概念かもしれませんが、日本だけではなく、地球では衛生には特に気を付けないといけません。昔、大きな災害があって、断水が起こり、お皿を水で洗えなかった事があるのです。その際に役立ったのがラップです。お皿の上に、ラップを敷いて食べると、汚れませんよね。食べ歩きとなると、お皿を常に持ち歩くので、汚れていると不衛生です。そのためにタカシさんは、ラップを用意したのだと思います」


「まぁ、テレビで観たからそうしてるだけだけどな」


 おおよそは、理解したファウスト。

 しかし、タカシはそこまで考えていなかったようだ。恥ずかしそうに頭を掻いている。その隣で行きたいところをマイペースに検索しまくっているチカ。


「人間は賢いにゃぁ~」


「だろ」


「にゃー、調子に乗るにゃよタカシー」


 ケタケタ笑いが起こる。

 こんな日常が、ずっとずっと続いたらいいのにと思う死神猫。そもそも何のために日本へやって来たかを忘れそうになってきているファウストであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] おはようございます。 更新ありがとうございます。 心が温まります……。 いつも読ませていただきありがとうございます!
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