これがチカのモテる理由にゃん?
【タカチカ】と真理恵3人が、フローリングに座って会議中。どうやったら真理恵に彼氏が出来るのか。真っ先に口を開いたのはチカだった。
「まずは、その丸眼鏡。せっかく可愛い目をしてるんだからコンタクトにしなさい。次に、自分の趣味を相手に押し付けない。そして髪にオイルを塗ること。巻いてみても良いかもね」
話を聞いていた真理恵は、側に居たファウストを人形のように抱きしめて恥ずかしそうにしていた。彼女にとって、美容に手を出すことに、若干の抵抗があるようだ。
「それじゃあ……あなたの理想の彼氏像って何?」
チカの質問を聞いて、真理恵は、オタク特有の早口で長々と話し始めた。
「それはですね。とにかく私と趣味が合って、高身長で、高学歴の犬系男子であれば誰でも。あ、でも料理が上手くて、何だかんだ言って美少年であれば文句ないですよ。イメージで言えば、チワワ系男子。あぁでも、俺様系男子も捨てがたいです……!」
ファウストは感じる。真理恵は今、とってもファンタジーで、メルヘンな妄想をしていることが。見上げてみると、チラリと覗いた彼女の目は輝いている。
(死にたい度……0.1%)
夢を語っているとき人は活き活きしている物なのか。そう思うファウスト。真理恵の心拍数も上がっているように感じられた。そんな彼女に厳しい言葉をチカは浴びせる。
「漫画みたいな完璧な男性なんて一生現れないわよ。現実を観なさい」
ぷっくり頬を膨らます真理恵。
「まぁまぁ、ここは甘いものでも食べて落ち着こう。な?」
タカシが立ち上がって冷蔵庫から職場で余った【飴イチゴちゃん】を取り出す。同時にファウストの皿も洗い、イチゴを角切りにして盛り付け、フローリングに置いた。議論を一旦中止。話題は、ファウストの今後のことについてになった。
「ファウスト。お前はこれからどこに行くんだ?」
タカシの問いかけに、【飴イチゴちゃん】をシャクシャクと食べながら、今日あったことを話すファウスト。
内容は、浦和シズコの家の軒下に、【ジュゲムの集い】という死神猫たちの情報交換のための組織があること。そこへ行ってみたいと考えていること。この2つだ。
「浦和シズコさんって、有名大学の教授だった人?」
「知ってるのにゃ?」
チカに続いて、真理恵も話に加わる。
「国文学科に彼女の名前在りってくらい有名ですよ。北斎や歌川国芳、暁斎等の江戸の戯画を研究していたので有名ですね。有名といえば、金魚をはじめ、様々な動物を擬人化したり、ユーモアのある猫の絵を多く描かれていたりする作品が多いから、猫様は戯画が好きかもしれませんね」
「にゃるほど。猫は昔から人間にとって特別な存在だったのにゃ~」
真理恵に詳しく説明されて、そのように解釈するファウスト。戯画という物がどんなものなのか、少し観てみたい気もしてきた。ファウストは自分専用の皿を見つめて、描かれている金魚を見つめる。これが擬人化されるとはどういった発想なのだろう。人間というものはよく分からない。
「死神猫のアジトがそんなに有名な人の所だなんて。良かったな、ファウスト」
食べ終わったら、皿の片づけ。タカシは全員の皿を洗いながら言った。タカシが時計を見ると、夜の10時になっていた。暗い夜道の中、女性陣を帰すことはできない。彼は洗い物が終わると、近くのコンビニで歯磨きセットなどの生活必需品を買ってきて、真理恵に渡した。
そんな時、彼女のスマホが鳴った。
「あ、もしもしお父さん。連絡しなくてごめん。私今、タカシさんっていう人の所に泊ってるから心配しないで」
その言葉を聞いた、真理恵の父親は、大きな声で、「やっと彼氏が出来たのか真理恵ぇえ‼」と盛大に勘違いをしていた。スマホ越しだが母親と思われる女性も、すすり泣いている。
「えーと……」
チラッと【タカチカ】の方を、気まずそうに見る真理恵。チカは、腕をゴリゴリ鳴らしながら、小さく「わかってるわよね……?」と呟いていた。
(人間の場合は何を掴まれるのかにゃ……)
ファウストは尻尾を掴まれた。人間には尻尾はない。似ているものと言えば髪の毛? そんなことを考えながら、必死に誤解を解いている真理恵とタカシを傍目で見ていたファウスト。
こんな生活も今日までか。短かったが、美味しい食べ物の味を知れた。泥棒の心も癒せたし、何だかんだ言って任務を順調にこなしているのではないだろうか。
あとは、食う寝るところに住むところ。
「はぁー、やっとわかってくれたぁ~」
深くため息をつく真理恵とタカシ。どうやら、話はついたようだ。今日は来客が居るということで、また宅配を使うという。今日は寿司ではなく、安くて速くて美味い中華。普通の猫なら食べられないであろうが、死神猫はどんな物でも食べられるのだ。
今日のメニュー。
チカは天津飯に餃子3人前。加えてかに玉ラーメン。デザートに杏仁豆腐とタピオカ。タカシはチャーハンミニラーメンセットS。真理恵は、小籠包とエビシュウマイセット。
ファウストは何が良いか分からなかったから、全員から具材を少しずつ分けてもらっていた。
(グリンピース、なると、メンマ、エビ。それぞれ食感が違って面白いにゃあ)
特に食感で言えば、エビシュウマイのエビが気に入ったようだ。ファウストはたった2日で寿司と中華の味を覚えてしまった。爺さんの撒いていたカリカリが不味く感じたのはそのせいだろう。浦和シズコは何をくれるのだろうか。ちょっとだけ期待している。
「はぁ、食った食った!」
「お腹いっぱーい♪」
「ごちそうさまです」
腹をさするタカシに、ぽちゃぽちゃの手を顔前で組んで満面の笑みを見せるチカ。行儀よく手を合わせて挨拶をする真理恵。仕草に性格が出ていると思うファウストだった。
時計を見ると夜の11時。さすがに川の字になって寝るのはいけないと思ったのか、タカシは寝室を片付けて、フローリング上で直に寝ころんでいた。
チカと真理恵は、ファウストを挟んで少々狭いが1つのベットで寝ていた。狭いのはチカのぽっちゃりが原因なのだが……。
「……フフ」
「どうかした?」
「なんだか修学旅行を思い出して。チカさんの肌ってぷにぷにしてて面白いですね」
「まぁね。私の武器は、このボディだから」
(にゃんか言ってる……)
リビングからタカシの寝息が聴こえてくる。大きなボディのチカがそっとベッドから出て(それでも結構な音がしたが)、自分の大きな上着をタカシに掛ける。彼女はクスッと笑うとまた戻ってきた。
心なしか、タカシの寝息が笑っているように思える。
「こういうところがモテポイントですか?」
羨ましそうに聞く真理恵に対して、
「どれだけ相手の我慢に気づけるかがカギよ」
と答えていた。
フローリングで直に寝ているタカシを優しいと思って甘える女性は居るだろう。しかし、それだけではダメなのだ。ちゃんと愛情が無ければただの良い人で終わってしまう。そうならないようにこそっとフォローするのが彼女であるチカの役目なのであるという。
(タカシはこういうところに惚れたのかにゃ?)
そう思いながら眠りにつくファウスト。
明日は【ジュゲムの集い】への参加。有名な大学の元教授、浦和シズコの家で今度は何が起こるのであろうか。そんな期待を込めながら、スヤスヤと空飛ぶイクラの夢を見るファウストであった。




