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ガールズ・ゲームVR ーアストラル・アリーナー  作者: 草鳥
最終章 わたしたちは
315/325

315.限りなく漆黒に近いゴールド


 胸の内で燃え盛る殺意に反し、ミサキの頭はだんだんと冷えていた。

 感情に任せて戦っていては間違いなく目的を果たすことはできない。

 だからあの憎きAIの思惑をひっくり返すために思考を回し続ける。

 

「弱え奴ほど良く吠える!」


 ウロボロスの元に出現していた棺桶が消え去り、代わりに白い曲刀(カトラス)が手の内に現れる。

 その武器は知っている。何度も何度も対峙した。

 心の隙を突かれて悪意に堕ちたライバル――この塔を訪れる前にミサキが打倒したエルダの武器だ。

 

「お前こいつをぶっ殺して来たんだったよな? カスを完膚なきまでに叩きのめした気分はどうだ!」

 

「…………最悪だったよ」


「あいつは悪くないサンプルだったぜ。死ぬほど滑稽で笑えたしな!」


 嘲笑と共にウロボロスがその身体を回転させ周囲を曲刀で薙ぎ払うと、全方位に津波のごとき斬撃が広がる。

 【スプラッシュ・サークル】。エルダが好んで使っていた大技だ。

 しかしその威力は本人のそれとは比べ物にならない。

 ミサキは奥歯を力いっぱい噛みしめて感情を抑え、右手を前に突き出す。


「連なれ、わたしの影!」


 その声に呼応して足元の影が動く。

 形成したのは先ほどまでの平坦な壁ではなく、弾頭のような流線形のバリア。

 守る範囲は前のものより小さくなっている。


「ンなもんで防げるかよ!」


「ぐっ!」


 渾身の力で津波に立ち向かう。

 飛沫の斬撃と影がぶつかると、あたりに衝撃波が撒き散らされた。

 

 影は破られない。

 飛沫は表面を流れ、後ろへと流れていく。

 ただ受け止めるのではなく、流線形の表面で受け流したのだ。

 影のバリアは津波を貫き、ミサキは開いた風穴から一気にウロボロスへと距離を詰める。


「なんだと……!」

 

 バリアを解除し、影を右腕に収束させる。

 渾身の力をただぶつけるために。


「はああああああっ!」

 

 振り抜いた黒拳がウロボロスの顔面に突き刺さる。

 鈍い音がして、とてつもない威力で吹き飛ばす。


「がああっ!」


 目を白黒させるウロボロスに、ミサキはさらなる追撃を――仕掛けない。

 ぐっと膝を曲げると、一気に跳躍する。

 その先は真上、天井。

 フランが拘束されている白い繭だ。


「フラン!!」


 ミサキの拳が繭を砕く。

 拘束が破られたことでふわりと一瞬の滞空の後落下を始めたフランを抱きかかえると、空中をトントンと一定のリズムで軽く跳ね、床に降りる。

 

「ミサキ……!」


「……ぐっ! はあ、はあ……」


 纏った外套がほどけるように霧散する。

 連続使用に限界が来たのか、ミサキのマリシャスコートが解除したのだ。

 床に手をついて喘ぐ様子は見るからに疲労困憊この上ないが、そこには笑顔があった。

 

 拘束されているフランを助け出すこと。これだけは譲れなかった。

 それだけはなにを置いても成し遂げなければならなかった。


「大丈夫、ミサキ……?」


「そういうフランだってぐったりじゃん」


 ミサキの言葉の通り、フランの身体は弛緩していた。

 もう気力も体力も尽きかけている。

 それだけ激しい戦いだった。そしてウロボロスの解析が心身を削ったのだろう。

 

 だが、まだ。

 ウロボロスはまだ倒せていない。

 ダメージは与えたはずだが、この程度で倒れるとも思えない。

 その戦意をフランも感じ取ったのだろう。


「ミサキ、これを使って」


「これってフランのマリシャスコート……」


 フランが差し出したのは黒い宝石の嵌まった指輪だった。

 銘は《イミテーション・リンカー》。フランが模造したマリスの力を宿したものだ。


「あたしは……ちょっと戦えそうにないわ。だからあなたに任せたい。できる?」


 今まで何度も頼みごとをされてきた。

 便利に使われていると思ったこともあるし、それはおそらく事実だ。

 フランは目的のためならそれくらいはするし、ミサキもそれでいいと思う。だからこその相棒だし友達だ。

 むしろ見返りは数えきれないほどにあった。フランはずっと真摯に向き合ってくれていた。

 

 フランの依頼は確かな信頼に因るものだ。

 ミサキを信じているからこそ任せる。

 

 ――――あなたならきっとできるはず。


 ミサキは、そんな肩に乗った期待が嬉しかった。

 だから。


「任せて」


 その一言で応える。

 二人の間にはそれだけで充分だった。


「舐めてんじゃねえぞ……!」


 怨嗟のごとき声を上げ、ウロボロスが立ち上がった。

 その眼には怒りが満ちているものの、口元だけは邪悪に歪められていた。

 しかし今の二人の目にはお互いしか映っていない。


「大丈夫よ。あなたには、この天才錬金術士がついてるんだから」


 太陽のような笑顔に、以前の記憶が蘇る。

 

 ――――ねえミサキ。あなた強くなりたいって言ってたわよね。この世界の頂点に立ちたいって。


 出会ってすぐ喧嘩別れしそうになって仲直りした時のことを思い出す。

 あの時、ミサキとフランは約束をした。

 二人で最強になろうと。この世界の頂点に立とうと。


 フランはずっと、『このあたしがついている』と背中を押してくれていた。


 彼女が自身を天才と称するのはそれだけの自負を持っているからだが、それ以外の意図も含まれている。

 声に出し、宣言することで自分を奮い立たせるという側面も持っているのだ。

 ならばそれに倣おう。ウロボロスに――ラスボスに思い知らせてやろう。

 フランが支え続けてくれた、最強の名を。


「ウロボロス。わたしはお前なんかには負けない。――――最強のミサキ(わたし)を見せてあげるよ」


 右手で首元のマフラー、《ミッシング・フレーム》を掴み。

 左の中指に通した指輪、《イミテーション・リンカー》をかざす。


 息を合わせる必要は無かった。

 この瞬間、二人は心はひとつで――当然のように声は完全に重なる。


「「界到(かいとう)」」 


 灰色のマフラーが渦を巻き、指輪の宝石が弾けて空中に雫となって散らばった。

 ミサキを取り巻く渦へと雫が集まり、その力を変異させる。

 底なしの悪意より生まれた力が今、根源を打倒するため重なった。

 

 現れた姿は白。

 金の装飾があしらわれた純白のコートがはためく。

 

「なん、だ……その姿は……! ありえない、俺の力からそんなものが生まれるなど……!」


「ありえなくても、ここにある。あるものはあるものとして扱う――お前が言ったことだよ、ウロボロス」


「…………ッ」


 その力は完全に異質だった。

 これまでの禍々しいマリスの力とは正反対の、清浄な空気が一帯に広がっている。

 まるでマイナスとマイナスを掛け合わせた結果プラスに転じたかのような様相だった。


「マリシャスコート深度(レベル)X・『ジョーカーズ・テスタメント』」


 傍らのフランを手振りで下がらせたミサキの手に、何もないところから一振りの長剣が現れる。

 それは《錬金剣ファントムラピス》。フランの使う、錬金術の粋を集めた武器。

 携えた姿は剣士そのもの――いや、錬金剣士とでも呼べるものだった。


「のぼせ上がるなよ下等生物!」


 激昂したウロボロスは床に手を叩きつける。

 すると先ほどの部屋を埋め尽くさんばかりの大量の大蛇が出現し、ミサキを食らおうと我先に襲い掛かる。

 

「――――――――」


 だが、その標的――ミサキは短く息を吸うと長剣を振るい、空中に数えきれないほどの流銀を生み出す。

 それらは細く鋭く形を変え、爆発的な速度で射出された。

 放たれた無数の銀弾は大蛇の群れを執拗に貫き、穴だらけの骸へと変える。


「な…………」

 

 目を見開き、驚愕に打ち震えるウロボロス。

 だから気づかなかった。驚異的なスピードでミサキが懐に飛び込んできていることに。

 

 ミサキの影が溢れ出し、銀色に塗り替わると形を変える。それはいくつもの剣の輪郭を取った。 


「わたしたちの痛みを受け取れ、ウロボロス!」


 銀の剣が踊る。

 幾重にも連なる斬撃でウロボロスの身体を切り刻んでいく。


「がああああああっ!! 俺の身体、俺のアバタァァァァァ!」


 異質なものと言えどマリスの力であることには変わりない。

 今のミサキの攻撃には地獄のような苦痛が伴っていることだろう。


「お前のじゃない。それは白瀬さんのものだ」


 ズタズタのウロボロスへ静かに呟き。

 音も無く振り抜いた錬金術の剣は輝く軌跡を描き出す。


「【アマルガム・エスカトス】」


 銀の斬撃が悪意を両断する。

 この世のものとは思えない断末魔が響き渡り、そして途切れた。


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