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151.団体戦-F to S


 負けた。

 『ユグドラシル』側の控室へと転送されたリコリスは敗北を実感していた。

 

「……ごめんなさい。負けてしまった」


 唇を噛んで俯くと、ユスティアとライラックが駆け寄ってくる。

 二人の心配げな眼差しに後悔の念が加速する。

 いつものようにライラックを睨み付け、


「そんな目で――――」


 見るな、という声が喉で詰まる。

 カーマに言われたことが頭の中をぐるぐる巡っていた。

 

 また怒られるのか、とびくびくしていたライラックだったが黙り込んでしまった姉の姿に違和感を覚えた。


「リコリスさん。戦ってくれてありがとう」


「ユスティア…………」


「私のために戦ってくれたんですよね」


 ……そうだ。自分が戦っていたのはユスティアの正義を証明するため。他のメンバーはそれぞれ選ばれたからこの場にいて――それ以外にも理由はあるようだが、明確にリーダーのためにこの試合に臨んだのはリコリス一人だ。


 しかし、戦いを経てわからなくなってしまった。

 カーマのような人間が、不正を働くような者のために戦えるだろうか。

 

「……はい。でも勝てなかった」 


「強かったですね」


「ええ、カーマは本当に――――」


「あなたも、ですよ」


 思わず目を見開く。

 そうだ。この人はそういう人だった。

 悲嘆にくれる私を受け入れてくれた唯一の人。そんな彼女だからついていこうと思ったのだ。


「精進します」


 こんなところでくすぶっている場合ではない。

 とりあえず外の空気を吸って気分を改めようと控室の出口(ワープゾーン)へと歩いていく。


「……お、お姉ちゃん……!」


 その背中に、か細く、しかし力強い声が投げかけられた。

 思わず足を止め、振り返るとライラックが両手を強く握りしめ、リコリスを見つめていた。


「ら、ライラ、勝つから! きっと……だから、見てて……」


 数秒の沈黙。

 自分の口が開いていることに気づく。

 いつものように無視して出て行こうとしたはずなのに、この時に限っては何かを言おうとしていた。


 リコリスは迷った末――何も口にせず、向き直って歩いていく。

 まだ向き合うには心の整理が必要だった。


「なんか言ってあげればいいのに~」


 ここまで沈黙を保っていたピオネがおどけて茶化す。

 黙れ、の一言くらいぶつけてやろうと思ったが、気分ではなかったのでため息だけを返して退出した。


「勝つから……だから、そうしたらきっと……」


 ぶつぶつ呟くライラックの瞳には、色濃い焦燥の光が宿っていた。




 一方、ミサキ側の控室。

 カーマは少しだけリコリスに言ったことを後悔していた。


(……ちょっと言い過ぎたかしら。でもやっぱり……姉妹なんだから、あのままにはしておけなかった)


 最終的に関係が終わってしまったとしても、向き合うべきだと思った。

 語り合う相手が、リコリスにはちゃんといるのだから。カーマは、失ってしまったものだから。


「……なんて。エゴよね、こんなの」


「お疲れカーマ! ……どしたの? なんかアンニュイじゃん」


「あーはいはい、気にしない気にしない」


 顔を覗き込んできたミサキを手でしっしっと払う。

 虫じゃないんだから……と不満そうにしているが、顔は笑っている。


「鎌、使ったね」


「そうね。それだけの相手だったから」


 最初は簡単に勝てる相手だと思っていた。

 しかし、それは見立てが甘かった。リコリスは間違いなく強敵で――カーマが大鎌を持ち出さざるを得ないほどの。

 負けてもおかしくない戦いだったのは間違いない。


「あのさ。もしかしてなんだけど……鎌だから、カーマ……とか」


「は? ……、……!? ば、バカ! あんたほんとバカ! ぶっ殺すわよ!?」


 ぽこぽこ、ではなくドゴォ! という効果音が似合いそうな本気の殴打がミサキを襲う。

 本人としては名前の由来はカーマインを縮めてカーマだったのだが、本当に意識していなかった。


 大鎌という武器は、カーマ自身使いたくない武器だった。理由は単純、使いづらいから。

 普通のゲームではまだしも、このVRMMOという現実に即した戦いを繰り広げるゲームにおいては大鎌の形状は取り回しが悪すぎる。

 ただ単純な話、使いづらさを加味しても大鎌を使うのがカーマは一番強い。


「まあまあそのあたりで。とりあえず一勝を喜びましょう」


「ええ。全勝が目標とは言え、カーマが勝ってくれて気が楽になったわ」


 あと三戦。

 残り全員リコリスと同程度の強さだとすると、苦戦を強いられるかもしれない。

 だが、ミサキとしては負けるつもりも、負ける気もしない。このメンバーこそが最強だと信じているから。


「さて、次は翡翠だけど……相手のライラって子、強いよ」


「大丈夫です。絶対に勝ちます」


 翡翠は静かに戦場へ繋がるワープゾーンへと歩いていく。

 その手前で一度立ち止まり、静かにこぼす。


「……実は私、怒ってるんですよ」


「え?」


「大事な大事なミサキさんにふざけた言いがかりをつけて……絶対に許しません」


 その背中から、真っ黒なオーラが立ち上っているさまを幻視する。

 ミサキは思い出す。一番怖いのはこの子だ、ということを。


「戦う機会をくれたラブリカちゃんには今度お礼をしないといけませんね」


 迫力のある笑顔のまま言われると、お礼というよりお礼参りのように聞こえてしまうがそんなことはないはずだ。







 鳴りやまぬ歓声の中、次の戦いが始まろうとしていた。

 先鋒戦の熱気によってアリーナのボルテージは早くも最高潮に達している。


「さて……ライラックさん。あなた個人に恨みはありませんが――容赦はしませんよ」


「ら、ライラも……負けられない理由、ある、から……!」


 ライラックは身の丈ほどもある棺桶デストルディアを取り出す。

 対する翡翠の両手には新たなる双銃フラクタルネイバーが握られた。メカニカルな質感に、銃身には電子回路のように明滅する緑色のラインが走り、カーマの武器と意匠が共通している。両方とも以前戦った鏡の世界のボス『ファントム・ファタル』がドロップした素材で調合された武器。


「ミサキ連合次鋒、翡翠。愛する人の障害は、私がすべて撃ち落とす」


「……『ユグドラシル』次鋒、ライラック……! お姉ちゃんのためならきっと……」


 それぞれの想いを抱き、次鋒戦が始まった。


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