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第三十四話

 春に成って、私は用意された制服に袖を通して、それから歩いて学園へ向かう。

 当初、ルイーズを初めとした周りの人は、制服は必要ないと言い、また、馬車で通うようにと言いました。

 だけど、私は制服で歩いて通います。

 何故ならば、私は制服が好きだから。

 学園の制服は、仕立ての良い生地を使った立派な物で、丈の長い青のチェックのスカートと白いブラウス、その上に袖なしの脇の広く開いたチュニックで構成されている。

 この制服は十年前に制定された物で、制定したのは今の学園長で有るリリアナ様だとルイーズが言っていた。

 しかし、制服が定められてはいるが、現在の校則では、制服を必ずしも着用する必要は無く。

 貴族の生徒は私服で登校しているらしい。

 つまり、この制服は、貴族の着ている服と比べても見劣りしない為に作られた物で、当然、お金のある私は、私服で登校しても問題が無いのである。

 しかし、私はこの制服で登校する。

 何故ならば、この制服が格好いいからだ。

 それに尽きる。

 それに、一々、毎日何を着るのか迷わなくても済むという利点もある。

 ここまでは、ルイーズも納得してくれた。

 だが、歩いて通うと言った時は、随分と難色を示し、説得するのに一ヶ月もかかった。

 最も、ルイーズ自身は未だに納得はしていないようで、ギリギリまで考え直すように私に言ってきた。


「ふう」


 新春の暖かな風を浴びながら、私はゆっくりと通学路を進む。

 石畳の敷かれた道は、正直なところを言うと多少歩きづらさは感じるが、それは私がアスファルトになれてしまっているからだろう。

 意外な所でギャップを感じつつ、私は一歩一歩学園と近づいて行き、タップリ一時間程を掛けて、私は学園の正面門の前に立つ。


「ふう・・・疲れた」


 既に心拍数が上がり、息を弾ませている体たらくだが、しかし、体力を付けるにはこの位の事はしなければいけないだろう。


「?」


 私が息を整えて立ち止まっていると、直ぐ側に大きな馬車が止まった。

 豪華な装飾の着いた四頭挽きの大きな馬車は、恐らくは家を示す為の紋章が大きく描かれている。


「・・・」


 私がその馬車を眺めていると、御者の男性が恭しく馬車の扉を開けて頭を下げる。


「ご苦労様」


 馬車からは一人の女性が出て来た。

 馬車と同じく、豪勢な赤いドレスの様な服を身に纏った女性は、ボリュームのある金色の髪を輝かせてステップを降りてくる。


「御機嫌よう」


 女性は私に気が付くと、そう言って挨拶をしてくる。


「おはようございます」


 私が昔そうしていたように会釈をして挨拶を返すと、女性は私に近付いてきて声を掛けた。


「貴女・・・新入生?」


「はい」


 女性は私を頭から爪先まで視線を這わせると、軽く鼻で息を吐いて言った。


「良いですこと?生徒にも序列と言う物が御座います。貴女もこの学園の生徒になるのなら、良く肝に銘じることです」


「?・・・はい」


 何を言っているのか、良く分からないが取り敢えず返事をすると、女性は鋭い目付きで私を睨んで去らに言う。


「この学園では貴女のような生徒は、目上の存在には御機嫌ようと言うのが礼儀ですわ」


 そう言われて、漸く言わんとする事を理解する。

 私は、先程の挨拶を訂正する意味も込めて、改めて頭を下げた。


「申し訳ありません。・・・御機嫌よう」


「それで良いですわ」


 女性は私の態度に満足したように笑みを浮かべる。


「良い機会ですから、一応、自己紹介もしておきましょう」


 そう前振りをして、女性は名乗る。


「わたくしは、エルベルティエ・ステュアードですわ。リュールネス領ステュアード侯爵家の娘ですの」


 侯爵の娘とは行き成り大物が出て来た。

 一応、ルイーズからはこの国の主立った貴族の名前は聞かされていて、シュアード侯爵の事も聞いた気がする。

 だが、如何せん、付け焼き刃では何処の辺りの家なのかは分からないし、どの位凄いのかも今一理解しがたい。


「私はヨーティアです。よろしくお願いします」


 何となく、私はメディシアと名乗るのが嫌だった。

 基本、私はメディシアとは名乗らずに名前だけで自己紹介をする。

 もしかしたら、あの伯父に対する細やかな仕返しの様な物なのかも知れない。


「よろしくするかは分かりませんわね」


 等と、エルベルティエさんは言った。

 何となく彼女は悪い人では無い気がする。

 彼女は、何だかんだと言いながらも、私に礼儀を教えてくれたり、私を平民だと思いながらも、確りと自己紹介をしてくれるのだがら、根が真面目なのでは無いかと思う。

 これが私が一番最初に会ったこの学園の生徒で、この後、私は、エルベルティエさんに教わった事を実践しつつ、そつなく入学式をこなして一日を終えた。

 それから一ヶ月が経った頃、私は、自分の現状に危機感を抱く事に成る。

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