第二十一話
「・・・」
私は今、馬車に揺られている。
二頭引きの馬車は良く揺れて、容赦なく私のお尻の皮を削って来る。
「・・・」
馬車の中には私以外に三人のダークエルフが乗っている。
テオは外で御者をしていて、残りの三人とは一切言葉を交わしていない。
女性が一人と男性が二人の三人は、やはりテオと似たような格好をしていて、布に包まれた長い物が馬車の奥に置かれていって、その近くには小柄な男性が座っている。
私は馬車の中では中程の位置の左側に座らされて、その直ぐ側に女性が控え、入り口の所に一番体格の良い男性が居た。
完全に逃げられる状況では無い。
「っ!」
急に馬車が速度を落とし始めた。
町外れの森の中に入り込んで、奥へと入っていく。
「何処に向かっているんですか?」
「・・・」
女性のダークエルフに尋ねてみるが返答は無い。
他の二人に声を掛けても何も応えないであろう事はありありと想像できる。
私は再び口を噤んで身を任せるしか無かった。
「到着5分前だ!」
御者席のテオが叫んだ。
そうすると二人の男が動き出して、布に包まれていた物を取り出す。
女性にもその内の一つを手渡して、三人は手慣れた手付きで準備する。
「銃・・・」
戦争映画に出てくるような長くて古臭い見た目のそれは、私の知る限りでは容易く人の命を刈り取る事が出来る。
「サント、何か見えるか?」
女性が声を発した。
その声に応じた大柄な男が外の様子を頻りに眺めて答える。
「左に三騎、右に三騎、手筈通りだ」
そう言うと、三人は黙った。
「・・・」
私は段々と怖くなってきて、自然と身が縮こまってしまって、無意識の内に自分の腕を抱いた
「ヤアッ!!」
蹄の音と共に、脇の林から馬が飛び出した。
馬は馬車の直ぐ後について同じ速度で着いてくる。
緑色のジャケットに同じく緑色の鍔の広い帽子を被った兵士の様な男が乗っているのが見えた。
「見えたぞ!」
再びテオの声が響く。
その少し後に古い教会に着いた。
「降りて下さい」
女性が私に言った。
私は言われた通りに馬車から降りる。
降りる時に馬車の外から体格の良い男が手を取って身体を支えてくれた。
とても確りとした体付きで、ゴツゴツとした手は、何処か温かみがある。
「キャッ」
降りるときに一瞬気が抜けて、バランスを崩して落ちてしまう。
だが、それを男が確りと受け止めてくれた。
「ありがとう御座います」
「いえ」
随分とぶっきら棒な感じだが、しかし誠実そうな感じがする。
「一体・・・」
ここまで来ればただ私を逃がそうとしている訳では無いと分かる。
周りを見渡しても林しか見えない。
「久し振りだな」
声を掛けられた。
「貴方は・・・」
少し痩せた様な気がするが充分に超えた身体、ボサボサの黒髪、獣の様な鋭い目付き、ボロボロの緑色の大きなジャケットを着ている。
「カイル・メディシア」
「ハンスじゃなくて残念か?」
そう言った瞬間、ゾロゾロと緑色の服を着た兵士達が林から出てきた。
皆が馬に乗って銃を背負っている。
「大佐」
カイルの背後から大柄な黒人の兵士が近づいてきた。
「周囲に我々以外の兵力は存在しません」
「分かった。小隊に戻れモケイネス」
男は敬礼を返して兵士達の中に入る。
「さて」
カイルが前置きをして私を睨む。
「如何する?この国を救うか?それとも、安全な所に行くか?」
憎たらしく挑むような物言いに、私は口を開いた。
「・・・」




