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第九話

何方と存じませんが、多くの誤字報告の数々、誠にありがとうございました。

多いだろうとは思っていましたが、自分でも想像以上の誤字の多さに、驚愕しております。

以後、出来る限りの努力をしていきたいと思っている所存であります。

宜しければ、これからも応援を頂ければ幸いに存じます。

 出港から四日目の夕暮れ時、いい加減に髪が潮で傷みきった頃、目的のフィオルに着いた。

 石造りの大きな港には、既に数隻の大きな帆船が泊まっている。


「帆を畳め!速力落とせ!接岸準備!!」


 船はレッドさんの指示と共に速度を落としながら埠頭に近づいていく。

 前に聞いていたレッドさんやハンスさんの説明によると、このフィオル港はアンゲイル公国で最大の軍港だそうで、国内で二箇所しか無い石造りの大型埠頭を持った港湾施設だそうだ。

 陸地から櫛形に伸びた石造りの船着き場はかなり珍しいらしく。

 他の港では木造の桟橋メインで、フィオルに関しては突堤が四本伸びている。

 また、フィオルの港は二箇所に分かれており、西側にもう一つ港湾施設が存在しており、そちらの方は突堤二つの他にドッグが三つの海軍専用の施設になっている。

 海兵隊の駐屯地も海軍港の近くに有るらしい。


「・・・」


 かなり凄い港なのだと聞いていたのだが、一度行った事の有る横須賀港と比べてしまって、何だか見窄らしいと言うか、ショボく見える。


「着いたなぁ・・・」


 レッドさんが溜息交じりに呟いた。

 何だか、少し寂しそうな、それでいて嬉しそうな、不思議な表情のレッドさんは、ずっと港の方を真っ直ぐに見続けている。


「・・・」


 ふと、港の埠頭の、コレから船の着きそうな場所を眺めると、そこに一つの人影が見えた。

 近づいていくと、それが手を振っている女性だと言う事が分かる。


「・・・!」


 レッドさんが突然走り出した。

 まるで、何かから逃げ出す様に船尾の方に走って行った。

 その様子を見た船員の人達は、一斉に大笑いしだした。

 一体何だろうと思っていると、その内に船が着岸して、ロープで繋がれた。


「レッド!!!」


 同時に、一人の女性が船の中に乗り込んできた。

 亜麻色の髪を大きな一つの三つ編みに編んだ髪型で、何とも言えない色気を漂わせた美しい女性だ。

 だが、その女性は、その美しい面相に似合わない大きく深い皺を眉間に作っていて、手にはフライパンをもって大股で歩いてきた。

 そして、ハンスさんに声を掛ける。


「ウチの人は!!」


「・・・」


 剣幕の女性に対しては、ハンスさんは無言で仰け反るよ様にして身を躱して、指で船尾の方を指す。


「どうも!!」


 女性は怒気も露わにして、ハンスさんに礼を言って奥へと歩いて行く。


「・・・アレは」


 その直後、船尾から悲鳴が響いてきた。


『リ、リシェ!!頼む!!話を聞いてくれ!!』


『何が話を聞いてくれですか!!勝手に出て行って何をしているんですか!!アナタ!!』


「・・・」


 奥の喧騒は更に大きくなって聞こえてくる。


『許してくれ!なっ?ほら・・・綺麗な顔が台無しに・・・』


『アナタがそれを言いますか!!アナタがもっと確りしてくれれば私だって怒りません!!』


『許してくれ・・・』


『許しません!!今日と言う今日は許しません!!徹底的に分からせてあげます!!』


 その後、一際大きなレッドさんの叫び声と、数回の金属音が鳴り、それから、大きな水音が聞こえた。


「アレがこの街の名物さ」


 横に来た一人の海兵隊員、酒場で絡んできた人が言った。


「名物?」


「ああ、海軍の無敵提督と、それを尻に敷くフィオルの肝っ玉母ちゃんさ」


「ああ、無敵の提督も、母ちゃんの前じゃ形無しよ」


「この前なんて、夫婦喧嘩に負けてマストに吊し上げられてたぜ?」


「ありゃ?そんな事があったのか?」


「おお、家でボコボコにされて町中走り回って逃げ隠れした挙げ句、海兵隊の駐屯地に逃げ込んだんだ」


「んで、その後に駐屯地にまで入ってきた奥さんに、俺達も手が着けられなくて・・・」


「凄かったぜぇ・・・駐屯地から出る時は提督は引き摺られてったからな」


 海兵隊員五人が続けざまに話してくれた。

 兎に角凄い女性の様だ。


「お疲れ様」


 後ろから笑顔の女性が戻ってきた。


「「「お疲れ様です!!マム!!!」」」


 海兵隊が一斉に敬礼した。

 女性は全く動じた様子無くハンスさんの許に近づいてきた。


「お久し振りですハンス大佐。先程ははしたない所をお見せしてすみません」


「お久し振りですリシェ夫人・・・提督は?」


「海が好きなので離してあげました」


 笑顔で答える女性は、それだけ言って船を降りて行った。


「どうもー」


 唖然としている私達に、後ろから声が掛けられた。


「貴女は?」


 振り返ると15歳くらいの女の子が和やかにして立っていた。

 小麦色の肌に彫りの深い顔立ちと大きな垂れ目、髪は綺麗な亜麻色の女の子で、何となく、見ただけでレッドさんと先程の女性の関係者だと分かった。

 と言うか、間違いなく二人の子供だと思う。


「お久し振りですハンスおじ様」


「ああ、久し振りだね」


 どうやらハンスさんとも面識があるらしい。


「紹介しよう。カイリー、この子はヨーティアだ」


「よろしく御願いします」


「それで、この子はカイリーと言う。レッドの娘だ」


 やはりレッドさんの娘だった。

 誰がどう見ても二人の子供にしか見えない。


「じゃあ、私んちに行こうか」


 脈絡無く、カイリーさんは私の手を取って歩き出した。

 体力の無い私は、虚を突かれた事を差し引いても、無抵抗になって従うしか無い。

 そんな私の様子を見ながら、ハンスさんとナジームさんは笑い、ジミーさんは回復したニールさんに支えられて辛うじで立っている。


「貴女、これから王都に行くんでしょ?」


 そう尋ねられると、そうなのかと思う。

 実際の所、何処に向かっているのかは余り気にしてこなかった。

 ただ、ハンスさんは立場のある人の様なので、多分、彼女の言う通りなのだろうと思う。


「ハンスおじ様も大変よね」


「え?」


「カイル・メディシアの為にあっちこっち回って歩いて、私ならやんなっちゃう」


「そうなんですか?」


「そうよ。ただでさえ、あんな狂人の側に居て、世話までして、本当、損な役回りよ」


 そうなのだろうか。

 本人は嬉々として、件のカイル・メディシアの側に居ると言う様な感じだったが、本当の所は如何なのだろう。

 もしかしたら、彼女の言う事の方が正しいのでは無いだろうか。


「あんな不潔で大酒飲みの酔っ払いの、太った不細工の毛むくじゃらに関わって・・・ハンスおじ様の方がズッと格好良いのに」


 かなりの言われようだ。

 だが、コレでカイルに付いての新たな情報が手に入った。

 どうやら、カイル・メディシアは太っていて毛が濃いらしい。

 その辺のプロフィールは、ゲームの時のテキストとも若干一致する。

 酒飲みと言うのは分からないが、どうやら、彼女の反応を見るに、相当な酒好きの様だ。


「貴女も気を付けなさいよ」


「え?」


「あの男、女関係も汚いから」


 太っていて、大酒飲みで、女好き。

 何だろう。

 途轍もなく悪い人感がする。

 何と言うか、典型的な物語の序盤辺りで制裁とかされるタイプの悪役っぽい感じがする。

 ここに来て、私はカイル・メディシアと言う人物が分からなくなってきた。

 アレなのだろうか、昔は凄い系でブイブイ言わせてて、今は完全に末期を汚している感じの人なのだろうか。

 そんな事を考えながら、私はカイリーさんに手を引かれて歩き続けた。

 本当に如何してこうなったのだろう。

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