人間を辞める……
遅くなりました。すみません。
帰りが遅かったので本当にすみません。
コウヤが駆け付けるも人間の進行は思っていた以上に早く、直ぐに挽回出来るような状況ではなかった。しかし、コウヤにはある秘策があった。
「ラシャ、パンドラを使おう。今ならまだ間に合うよ」
ラシャは躊躇った。本来ならばそうするが、コウヤがいる状況でパンドラを使えばコウヤにもパンドラの効果がいく可能性があったからだ。
「本気か……今のコウヤが人間でないとは言いきれないんだぞ!」
「ボクが人間なのかも分かるわけだよね? 正直、今の僕は人間で在りたくないんだ」
「コウヤ…… わかった。ならば直ぐにパンドラを開こうではないか!」
ラシャがパンドラを取り出すとコウヤが一旦待ったを掛けた。ラシャはコウヤがやはり、不安になったのだと思った。しかし、それは違った。
「出来れば、ラシャ一人に全てを背負わせたくないから、少しだけ待って」
そう言うとコウヤは大声で叫び声をあげた。
「聞けぇぇぇぇ! 禁忌の森に踏み込みし人間よぉぉぉ! 今から人間に対しその罪を天秤に掛ける。有罪ならば禁忌の森にいる全ての人間が死を持って償いの供物になる! それを恐れるならば! 今すぐ禁忌の森より立ち去れ! 逃げる時間を与える! 今すぐに森から出ていけぇぇぇ!」
コウヤの声は獣人の放つ叫び声よりも遥かに大きく禁忌の森に声がこだました。しかし、人間達は逃げる事は無かったのだ。
「アイツが頭か?」
一人の騎士がそう言うとコウヤに向かって馬を走らせた。そのまま一直線にコウヤ目掛け腰から剣を抜くと斬り掛かる。
咄嗟にコウヤは片腕で剣を庇ってしまったのだ。
騎士は不適な笑みを浮かべるも、その顔は直ぐに真剣な表情へと戻る。
剣を受けたコウヤの腕は切り落とされる処か、皮膚はまるで“メセルイブリーフ ”の如く硬く剣で斬りつけた騎士の方が手首を痛めてしまいそうになっていた。
そんな一瞬の隙にコウヤは剣を作り出すと騎士に反撃を開始する。
「なんだ、剣が使えるのかと思えば素人か! 武器が扱えないなら獣人ではないな、魔族か? それとも竜人の亜種か? さあ答えろ!」
「僕も自分が何なのかわからないよ! 少なくとも、さっきまでは人間だった」
会話をしながらも騎士はその剣を止めることは無かった。しかし、コウヤも何とか剣を受け流しながら隙を伺っていた。剣を知らないコウヤが騎士の剣を受け流すことが出来たのは、その凄まじい動体視力と反応速度にあった。
以前にも増して強化された今のコウヤからすれば、騎士の剣は確かに速いが見えない速度ではなかったのだ。
「正直、驚いている。何故、私の剣がこんな子供に通じないのか不思議でならない。お前名前は?」
騎士はそう言うと一旦距離をとった。
「僕は、コウヤ=トーラス、次はそっちが名乗る番だ!」
「トーラス…… 父親の名を教えて貰えるか?」
「父さんはグラン=トーラス其れが父さんの名前だ」
コウヤの名前を聞き父の名を聞いた騎士は被っていたヘルムを外した。
「私は、デトラ=サマラム お前の父親の部隊に配属されていた者だ」
そう言うと再度、デトラは剣を構えるとコウヤに斬りかかった。
「しかし、運命だな、お前の父親のせいで! どれ程、私が苦渋を嘗めさせられてきたか、知るがいい! トーラス」
デトラ=サマラムが初めて配属された部隊こそが、コウヤの父親グラン=トーラスの部隊であり、身分違いの上司の下に配属された屈辱と嫉妬。
しかし、何よりも赦せなかったのはデトラは囮部隊に配属された事であった。
本来ならば騎士として華々しい初陣を飾るはずが将軍キリシマは正規軍ではなく。民間人を使い隊長をその中から選び、その下にデトラ達を配属し囮部隊として戦場を走らせた。
民間人が生き残る中で家の名を汚さぬ為にあえて残った騎士達が次々に死んでいく現状、そして、戦闘後は民間人が対等に喋りかけてくる屈辱。
デトラに転機が訪れた。其こそ、ディノス将軍の帰還であった。
しかし、ディノスは「民間人に使われていた騎士など要らぬ!」そう言い放つとデトラ達を詰り、蔑んだ。
そして、グランが死んだ後、直ぐに戦争が終わり、囮部隊の功績以外、何もあげられぬまま、デトラは家に帰ることになった。しかし、デトラを待っていたのは暖かい家族でも言葉でもなく、冷たい蔑む様な眼と悪態だった。
「民間人に使われ! 戦果すらなく、おめおめと帰ってきたか……この面汚しが」
尊敬する父からの言葉、そして膨れ上がる憎悪。
デトラは憎悪と復讐心だけで強くなり、そして、今回はその実力を示す為に“黒き剣”の討伐に参戦したのだ。
「お前の父親の死に顔はとても醜く! 生きたいと足掻いていたようだが民間人が調子にのるから悪いんだよ! 死んで当然だ、むしろディノスが始末しなければ俺が引導をくれてやれたのになぁぁぁ!」
デトラの剣は更に勢いを増してコウヤに振り掛かる。
「少し黙れ…… 勝手なことばかり言うな、父さんがお前に何をした。何もしてないじゃないか」
「何もしなかったから! 俺は出世も出来なかった、家族に見捨てられ身分の低い連中に扱き使われる屈辱がお前にわかるか、分かるわけない!」
次の瞬間、コウヤは剣を投げ棄てた。デトラの剣を両手で掴むと力付くでへし折ったのだ。
その勢いでデトラは馬から落馬し、地面に倒れ込んだ。
「僕が間違ってた…… お前が騎士だと勘違いして、剣なんかを使っちゃった……お前は騎士なんかじゃないし、強くもない」
その豹変ぶりにデトラは腰を抜かし身動きが取れなくなっていた。コウヤの眼は冷たく、デトラはその眼から目線を放せなくなっていた。
「そ、その眼で私を見るな! バケモノが」
そう言うとデトラは折れた剣をコウヤに向ける。その剣を握る手は振るえ、まともに剣を扱える状態ではなかった。
「バケモノか…… もし人間が皆……お前のようなら、僕は人間を辞める!」
「くたばれ、バケモノ!」
デトラが折れた剣をコウヤに投げ付けた瞬間、コウヤの鋭く伸びた爪はデトラを切り裂いた。その瞬間、コウヤは人間を辞めたのだ。
いよいよ、コウヤが本気で人間を辞め始めました。
皆さんは読んでみて?人間でいたいと思いましたか?
作者は…… 内緒です。
読んでいただきありがとうございます。
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