幸せな日々
ソウマが死にました。
悲しいですが、コウヤの試練はまだ終わらない。
すべてが終わり、森は静けさを取り戻していた。
逃げた生徒達は既に森の外にいなかった。その日の悪夢を心に刻みアグラクト王国に急ぎ逃げ帰っていた。
夜が明け始めるとコウヤの周りは死者と血の匂いで溢れていた。頭が可笑しくなりそうな程の血の匂いの中をコウヤはソウマを抱き抱えたまま歩いていた。
その眼には生気はなく、ただただ淀んでいた。ミーナ達が駆け付けた時、コウヤは既に歩くのも必死だったのだろう。ミーナの胸にもたれ掛かるようにして意識を失った。
直ぐにパンプキンはコウヤを抱えると王宮へ運んだ。コウヤは過剰な魔力の入れ替えと精神的ストレスからの高熱をだしていた。
直ぐにミーナが看病を開始した。その際に“エレ”に生えている薬草をアルカ達に頼み採取してきてもらった。
本来ならば直ぐにダルメリアに連れて行きたかったが、コウヤを無理に動かすのは危険だとパンプキンに言われ、已む無くエレで休息を余儀無く過ごすことになった。
「パンプキン、聞きたいことがあるの」
「改まってどうされました。ミーナさん、何でも聞いてください」
「あの時、魔法で無理矢理、あの男にあんな事を喋らせたの…… 教えて」
ミーナはパンプキンが校長に魔法を掛けていたのを見抜いていた。そして、コウヤも其れに気づいていた筈だと。
「私は本心でコウヤさんと話すように言ったのです。そして、偽りを口に出来ないようにしたまでです」
「そのせいで…… コウヤが傷つくと考えなかったの!」
ミーナは怒りに任せて大声をあげパンプキンに掴みかかると無抵抗のパンプキンを壁に叩きつけた。
「ならば、コウヤさんの気持ちをミーナさんはどうしてあげる、おつもりでしたか? 大切な人を人間に殺され、師匠であるソウマさんまで喪ったコウヤさんになんと言葉をかけるおつもりだったのです!」
「其れでも、其れでも……他に遣り方があったんじゃないの! なんで、コウヤに決めさせたのよ…… あの子はまだ子供なのよ。精一杯背伸びしても、子供なのよ! わかる? 10歳の少年に貴方は人を殺すかどうかを決めさせたのよ……」
「だからこそです…… コウヤさんは既に引き返せないのです。コウヤさんが生きる道は2つ、誰にも見つからないようにひっそりと隠れて怯えながら生きていくか、自分の居場所を造るために戦い生きるかです」
ミーナは唇を噛み締めた。パンプキンは口を閉じ目を瞑った。そんな二人を見るラシャもまた、煮え切らない感情に苛まれていた。
本来ならば人間の為に悩んだりはしないラシャであったが、コウヤの喪ったソウマがコウヤの師であり、義理の父である事実、そんなコウヤを自身と重ね合わせてしまっていたのだ。
その日の晩は皆、感情が整理できないまま、眠りに着いたのであった。
コウヤの看病の為にミーナとパンプキンが交代で睡眠をとることになっていた。口には出さないがミーナの精神も既にいっぱいいっぱいだったのだ。
パンプキンと交代してコウヤの眠るベットの横にある椅子に腰掛けるミーナはスヤスヤと眠るコウヤの寝顔をただ眺めていた。
「何でだろうね? ただ…… お母さんに会いに来ただけだったのにね…… 色んな町で辛いことばかりでさ、揚げ句のはてがこんな結末じゃ…… 辛すぎるよね。いっぱい泣きたいよねコウヤ、泣き虫だもんね」
そう言いミーナはコウヤの眠るベットを見ながら泣いていた。其れからミーナはパンプキンとの交代時間になったが交代を断った。パンプキンも其れを理解し、頷いた。
窓から部屋の中に太陽の光が射し込み眠るコウヤの顔を照した。
そして、コウヤは目を覚ました。しかしミーナは目覚めたコウヤを見て言葉を失った。
「母さんどこ? 君は誰、あれ? 包帯がない! 早く着けないと母さんに怒られちゃう!」
コウヤの口から出た言葉、其れはコウヤがミーナと会うずっと前のコウヤの姿だった。
「コ、コウヤ…… ううん、ゴメンね包帯直ぐにつけてあげるからね、お姉さん看護婦さんだから任せてね」
泣きながらミーナはコウヤの眼に包帯を巻いた。
直ぐにパンプキンに訳を話とパンプキンは言葉を失った。しかしミーナは笑った。
「此れで良かったのよ…… 今のコウヤは、ソウマを知らない、お母さんは病気で入院したって伝えたわ……」
「このまま、コウヤさんに真実を伝えずに生きていくおつもりですか!」
「わからないわ、でもね…… 久々にコウヤの焦る顔や笑う顔を見たのよ、何時もの笑顔と違って只の10歳の子供の笑顔よ、多分精神的には5歳くらいかしら、只の子供のコウヤに…… 何を伝えられるのよ」
パンプキンはそう言われ下を向いた。二人が話している間に、事情を知らないラシャは一人コウヤの元を訪れていた。
「邪魔するぞ、コウヤよ、具合はどうだ、少しは良くなったか?」
「えっと…… 誰ですか?」
コウヤの返答にラシャは少し苛立ちを感じたが、混乱しているのだろうと思い許す事にした。
「私がわからないのか! “新生王国エレ”の王女にして禁忌の森の黒い剣 ラシャ=ノラームだ! 思い出したか?」
「えっと…… すみません、人違いだと思います」
その瞬間、ラシャの怒りが爆発した。
「私がわざわざ、人間ごときを心配して遣っているのに! いい度胸じゃない」
コウヤは真っ暗な視界の中走り出した。
コウヤは不思議だった。暗闇の中なのに杖もなく走れること、見えない筈の道がわかっている事。全ては体外魔力と魔眼に依るものであった。
そして部屋から走り出したコウヤは騒ぎを聞き付けたミーナに出会うと後ろに隠れた。
「お姉ちゃん助けて! 怖い子が追ってくるの」
そう言うコウヤの後ろからラシャが現れミーナは直ぐに訳を説明した。説明されたラシャは、コウヤを見て一言口にした。
「其れはもう、コウヤではない、残念だ」
ラシャはそう言うと自室に帰っていった。皆がコウヤにとっては今のままが幸せなのかも知れないと感じていた。
其れから二週間が過ぎていた。ラシャに許可を貰いミーナとコウヤは王宮に住まわしてもらっていた。
パンプキンはコウヤの記憶を復活させる方法を知っているようであったがあえて其れをしないでいた。幸いなのは、コウヤが体外魔力と魔眼をそのまま使えたことだった。
「ミーナちゃん! ラシャちゃんがお菓子くれないんだよ」
「ほれ! コウヤ。欲しいなら下さいと言ってみなさい?」
コウヤはあれから、更に幼くなってしまっていた。
「ラシャちゃん、お菓子ちょうだい……」
「仕方ない、そんなに欲しいなら、あげてやろう」
そう言うとラシャはお菓子を空に向け持ち上げた。
「あげたぞ、コウヤ。満足か? あはは」
ラシャもそんなコウヤを弟の様に、からかいながら笑みを浮かべていた。
今では、コウヤはラシャとミーナを“お姉ちゃん”と慕い、普通の生活を送っていた。
パンプキンの事をオバケさんと呼び、パンプキンも少し照れくさそうにしていた。森に住む他の種族も少しでは、あったがコウヤとの交流が始まっていた。全てはいい方向に向いているように見えた。
そんなコウヤ達は、アグラクトが本気で禁忌の森に進軍しようとしている事をまだ知らなかった。
記憶のないコウヤの笑顔は皆を幸せにしていた。
だが、そんな幸せをアグラクトが妨害しようとする、次回
禁忌の森“エレ”で何が起きるのか……見てもらえたら幸いです。(*^^*)
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