父達の戦場
今回かなり長いです。
切ない話です。
ソウマはそう言うと眼を瞑り、静かに息を吸った。
「ディノスは、グランを許せなかったんだ…… そして、自らグランと俺の育った町に警備隊として、姿を現したんだ、グランの死後、ディノスはしばらくは大人しくしていたんだ、あの日までは……」
ディノスは静かに小さな村の警備隊隊長として過ごしていた。それはいつか来るチャンスを逃さないためであった。
そのチャンスとはグランの妻であるミカの存在であった。些細なことでよかった。ミカを罪人に仕立てあげる事でディノスはグランへの復讐とする事を考えたのだ。そして、最初のチャンスが訪れた。
それこそがミカにグランの死を告げにきた青年であった。皮肉なことに、グランの死んだ後、戦争は直ぐに終戦を迎えた。グランにより生き残る事が出来た若者達が戦争反対を訴え、戦闘放棄をしたのだ。
そして、青年達はアグラクトとシャパルの国歌を唄いながら国境に止まったのだ。シャパル王国には既に正規軍を倒せる程の戦力は無く、シャパルは降伏を余儀無くされたのだ。
しかし、アグラクトからの使者はシャパル王国に対して予想外の提案をしてきたのだ。
「互いの国境に戦い死んでいった者の為に癒しの証を目的とした建造物を作ることが終戦の条件だ。勿論、此方も作るがシャパル王国はこの条件を飲めますか?」
平和の為に戦った男の為にとは、口にしなかったがその条件を出した男こそ、アグラクトの将軍であり、ソウマの父である“トオル=キリシマ”であった。
アグラクト初の島人の将軍であり、ダルメリアで起きた獣人狩りの事件やその他の種族との揉め事等を解決しながら功績をあげていった男であった。
将軍になったのもシャパルとの戦争が始まった最中の事であり、他の者は皆、棄て駒の将軍として見ていたがそうはならなかった。
トオル=キリシマの名をアグラクト王国とシャパル王国に刻み付ける戦闘があったからに他ならない。
シャパル王国の勢いにのる正規軍15000人を前に、将軍となったばかりのトオル=キリシマの部隊2500人が向かうことになったのだ。
アグラクトの正規軍がダルメリアから帰るまでの15日間でアグラクト王国に残存していた少数の部隊で応戦していたが結果は敗北を重ねる物となっていた。
トオルに与えられた部隊も殆んどの者が負傷しておりとても15000人のシャパル軍を相手に戦える者ではなかった。まして、将軍になったばかりのトオルに付いていこうと言う考えの者は皆無だった。そんな中、出陣するトオルに声を掛けたのがグランであった。
本来グラン達、魔法部隊は城を護るために軍に招集されていたが、トオルは直ぐにグランとグランに着いていきたいと考えるものを集めると自分の部隊とグランの部隊を入れ換えたのだ。
勿論、無理強いはしなかった。グランはソウマの父であるトオルに自分を連れていって欲しいと願い出た事から始まった話であり、トオルも量より質を選んだ結果に過ぎない。
グランと共にトオル=キリシマの部隊に移動した者は僅か870人、少数部隊になってしまっていたのであった。しかし、その殆んどが近隣の村の者達であり、トオルとグランを知るもの達であった。
そして、トオルは簡単に作戦を伝えると各々が各自、 持ち場で待機した。駆け抜けてくるシャパルの正規軍に対してトオルとグランの考えた作戦はシンプルなモノであった。
シャパルの兵を谷まで残像で作り出した兵士を使い誘導する。勿論、はじめから残像だけでは、敵にすぐバレてしまう可能性を視野にいれ、戦闘の際に前方200人はトオル達自身で戦闘を行う事とし、反射魔法と残像を作り出す光魔法を、残りの隊員が発動する事で後方から徐々に逃げていくように見せる事により、敵を罠に誘い込む作戦を考えたのだ。
最初は無茶だと誰もが口にしたが、トオルの作戦に賛成した者がいた。それこそがグランであった。グランはトオルと共に200人の中に自ら志願したのだ。
「グラン、いいのか、俺と心中になるかも知れないぞ?」
「死ぬつもりでダルメリアから一人で戻った訳では無いでしょう? トオルさんは無茶な人だが、私は少なくとも信用しています」
それにソウマならきっとトオルさんに悩まずついて行くとグランは確信していた。それ程にトオル=キリシマと言う男は恐ろしく頭のきれる男だったのだ。
そして、作戦は開始から三日の間に敵の主力であったシャパルの正規軍を4分割した、更に追い討ちを掛けるべく15000人の敵兵を確実に減らしていったのだ、やり過ぎだとグランがトオルに進言した。
「いくらなんでも! 三日で12000人の人が死ぬなんて、トオルさん、お願いします…… もう敵兵は僅かです」
トオルはグランが言わんとする事を理解していた。だからこそ、あえてグランにある言葉を 口にした。
「今逃がした敵は明日には俺達の首を狙いに舞い戻るんだぞ、そして次は家族にその矛先を向けるだろう、お前にその覚悟と守りきれる力があるか?」
「守りきります。敵にも家族がいます。戦争なのは理解してますがあまりに血が流れすぎているんです!」
グランの覚悟を聞き渋渋、トオルは捕獲作戦に変更したのだ。勿論、従わない場合は殺す事も条件に含まれていたがグランはそれを受け入れた。
その結果、四日で15000の正規軍の内13400人余りを殺すことになったが残りを捕虜とし、人質交換の材料としたのだ。
捕虜の中に敵の将軍も居たがあえて討ち取るのではなく、生け捕りにした事が敵の戦意と士気低下へと繋がる結果となり、将軍 トオル=キリシマと 副官 グラン=トーラスの名は1週間で敵味方双方に知らぬもの無しと言わしめる結果となったのだ。
規模は確かに小さな戦闘ではあったが問題は中身であり、アグラクト正規軍が帰還するまで持ち堪えられたのは、この戦果からの流れが大きかったからとも言える。トオルの持ってきた条件も、アグラクト王からの褒美であった。
「トオル将軍、欲しいものを申せ、其方に褒美をとらせようではないか」
戦闘がアグラクト側が優勢になり、一段落した頃に、トオルは王に呼ばれたのだ。
「ならば、シャパル王国との和平を望みます」
王は耳を疑った。勝利を目前に和平を口にする等、有り得ない行為だったからだ。
「本気で言っているのか?トオル=キリシマよ!勝てる戦いを自ら終わらせろと言うのか?」
「シャパル王国に敗北を宣言させます、その際に受け入れてほしいのです、私の願いは其れだけに御座います」
トオルはそう言うとアグラクト王に頭を再度深々と下げたのだった。アグラクト王は、もし其れが出来たならば受け入れると約束をしたのだ。そして、その約束は叶う事となった。
トオルはグランの死後、まるで別人のように敵兵を切り刻み、戦場をシャパル兵の血で赤く染め上げていった。そして、国境で歌を歌い戦争を必死に止めようとする若者の姿を目の当たりにしたのだ。
トオルはグランの言葉を思いだし、怒りがこみ上げたが、怒り以上に悲しみと切なさが溢れだしてきていた。
「グラン、お前ならきっとアイツ等みたいな、若者の為に立ち上がるんだろうな、最後に罪滅ぼしじゃないが、ケジメをつけないといけないな」
トオルは一人でシャパル王の前に姿を現すと敗北を認めるように言ったのだ。普通に通してもらえる筈もなく、シャパル王の前に来るまでの間に王宮内は鉄の生々しい薫りと血の海で溢れていた。既にシャパル王に選択肢など有りはしなかったのだ。
そして、全てが終わると戦果をあげられなかったディノスは将軍の任を解かれ、左遷された。
ディノスはトオルとグランを恨む事となるが戦争終結後、トオルは誰にも何も言わずに忽然とアグラクトから姿を消した。 密かに暗殺されたと囁かれたが、その真実を知るものは居なかった。
その結果、ディノスの矛先はグランの妻である、ミカに向けられたのだ。
そして、青年が度々、ミカの元に訪れていることを確認したディノスはミカを罪人にするだけでは満足できなくなっていたのだ。そして、あろう事かミカに殺し屋を差し向ける事を計画したが計画が実行される前にミカはコウヤを連れ村を出ていってしまったのだ。
ディノスは怒りに震えた。しかし次の日、青年がミカが居なくなった事も知らずにミカの家を訪ねてきたのだ。ディノスは直ぐに青年を捕らえた。
ソウマも同じくしてグランとミカの家を訪れようとしていた矢先の出来事であった。ソウマは直ぐに身を隠すとディノスと部下達の話が耳に入った。
「何としても! ミカ=トーラスの居場所を吐かせろ! 居場所を吐いたら殺しても構わん」
そう口にするディノスの眼は既に騎士の物ではなかった。ソウマは青年をその場で助けようか迷うも、一旦夜を待つことにしたのだ。そして、夜が更けるのを待ち青年の元に急いだ。
鉄格子の中に見える青年は既に虫の息であり、とても連れ出せる状況ではなかった。
「誰か……いるのか」
青年は自分に向けられる視線に気づくと声をかけてきたのだ。
「すまない、今の君を助けてやりたいが、多分、君の体がもたないだろう……」
「あはは、いいんです、グラン先生に救われた命ですから……」
ソウマは青年からグランの名が出た事に驚かされた、それ以上にグランが救った命を見捨てることが出来なかった。
「少し激しくいく、眼を閉じとけ」
そう言うとソウマは壁を吹き飛ばし青年を直ぐに連れ出したのだ。
直ぐに追っ手が来たが何とか村の外まで抜けると青年の呼吸は更に弱いものになっていた。
「おい! 死ぬな、聞きたいことが山ほど有るんだよ」
青年は微かに繋がる意識の中でソウマに全てを伝えようとした。そして絶命するその瞬間に口にしたのはグランが殺された真実だったのだ。
「言えなかった……グラン先生は英雄だと信じてるミカさんに……言えなかったんです……ミカさんにゴメンと……」
青年は名前も名乗らないまま、ソウマに見送られ一筋の涙と共に息をするのをやめたのだ。
「おい…… そう言うのは、自分で伝えないといみないじゃねぇかよ……ちゃんと伝えてやるからな、グランに宜しく伝えてくれ」
そしてソウマは直ぐにミカの足取りを追うことになる。その中でミカとグランの子供であるコウヤの存在を知ることになる。
ソウマがやっとミカに追い付いた村こそ、“カルトネ”であった。そして森に身を隠しながらディノスの刺客が現れないか心配しながら、ミカとコウヤの生活を見守って過ごしていたのだ。
森に住む魔物達に困らされていた村からすれば強い魔力を放つソウマは森の守人として認識されていった。
そんなある日、ソウマは迷子になったコウヤと出くわしたのだった。その時、ソウマは運命と言う言葉の意味を本気で考えた。そして、素性を隠しコウヤの師匠として新たな日々を過ごすことにしたのだ。
そんな、日々の中にコウヤの悲劇が起きた。ソウマは近隣の村にディノスが警備隊の隊長として就任したと言う噂を確かめる為に村を離れている最中に起きた悲劇であった。
更なる悲劇がミカとソウマを襲う事になった。ディノスが警備隊を総括する事になったのだ。そして、学校の校長は、ディノスの部下であった。
ディノスは学校の生徒を自分達に都合のいい人間にする為に、その権力と圧力を使い人知れず、前任の校長と理事長を亡き者にしたのだ。
揺れる馬車の中で淡々と語られる真実と初めて聞く自身の父親の話にコウヤは動揺していた。
そして、校長の存在を聞いた瞬間に怒りより先に殺意が芽生えたのだ。全ては初めから仕組まれていた事実だったと。
そして、ソウマはアイリを人質にとられ、抵抗出来ない状態でディノスの部下に滅多刺しにされたのだ。そして、薄れる意識の中でミカが警備隊により殺される姿を見せ付けられたのだ。
ソウマはアイリの連れさられた行き先は知らなかったが、生きている筈だと口にしたのだ。もし、殺す気ならばその場で殺していた筈だからだった。
あえて連れて行ったのならば必ず生かして復讐の道具にするだろうと。
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