コウヤとミーナが里帰り。デーニ村2
ワットは速かった。風を切り裂くような力強い脚力で瞬く間に二人を乗せて駆けていく。馬とは違うスピードにコウヤは驚ろかされた。
「ミ、ミーナ! 飛ばし過ぎじゃない!」
「まだまだ! 竜馬は走る程に体が暖まって速くなるのよ!」
ミーナはそう言うと更にワットを加速させる。
「さあワット! あなたの全力をコウヤに教えてあげて。はいやぁぁぁぁッ!!」
「クオォォォォン!!」
ミーナの掛け声にワットが更に加速していく。
「コウヤ、前に来なさい!」
ミーナは後ろから前にコウヤを無理やり移動させると後ろから手綱を操りながらコウヤに向かい囁いた。
「コウヤ! 風を感じなさい。確りと集中すればちゃんと見えるから体外魔力を集中してみて」
言われるがまま、風に意識を集中するコウヤの目に走るワットの姿が見えた。更にワットに集中するとワットが見てるものが見えたのだ。
そして、ワットの先にある景色に集中する。
「コウヤ。手綱を握ってみて私もちゃんと持ってるから」
「うん、わかった!」
ミーナに手綱を渡されたコウヤは、力強く荒々しくも繊細な竜馬たるワットを全身で感じた。
それに答えるようにワットも手綱の指示に従う。初めて風になると言う言葉の意味を自身の体で体感した瞬間であった 。
「コウヤ、気を逸らさないで!竜馬は感覚が凄く鋭いの、馴れるまでは意識を集中してて」
ミーナに言われ、意識を集中しようとした時だった。
川辺に荷馬車と人を見つけたのだ。だが、違和感があった。周囲に馬の気配が全く無かったのだ。それと同時にワットが急に停止した。
「うわあぁぁぁ!?」
ミーナが上手く手綱を操りながらコウヤを庇うように手綱に引っ掻けたお陰で落下せずにすんだ。もしあのスピードで振り落とされたなら、今頃コウヤは残念なホットケーキの様にペッチャンコに成っていただろう。
コウヤの頭の中では咄嗟にフワフワではない残念なホットケーキが連想された。
「コ、ウ、ヤーッ!! さっき言ったわよね? 集中してねって言ったわよね!」
凄い勢いでミーナが睨み付けるように激怒する。
「はは、でも川原に荷馬車が見えてさ」
「荷馬車、それがどうしたのよ?」
「それが人はいるのに馬の気配がしないんだ? 少し気になってさ?」
ミーナがフルフルと震えている。
「それが原因なのね? わかったわ、ちょっと様子を見ていきましょう。ただし、盗賊の類いかもしれないから注意するのよコウヤ」
二人はゆっくりと川原に止まる荷馬車の側に近づいた。
川原には、一人のオジさんが困り果てた顔をして立っていた。取り合えず盗賊では無いようだったので声を掛ける事にしてみた。
「コウヤ、声を掛ける前にフードを被りなさい、あんまり素顔を晒すのは、不用心よ!」
そう言われ、フードを慌てて被った。
「オジさん。どうかしたの?」
「うん、誰だい君達は?」
「僕達は……」
「私達は旅の者です。それよりどうされたのですか?」
ミーナはコウヤが答えようとした際に割り込んで受け答えをしたのだ。
「へぇ、こんな所に珍しいね? 立ち入り禁止区域に為ってから人が寄り付かないから、全く獣人には迷惑しているんだょ」
ミーナが割り込んだ理由は此れであった。デーニ村と違いタライムは立ち入り禁止区域に含まれていない。
だが近くに立ち入り禁止区域である、ダルメリアが在るために人の出入りが減り、むしろ出ていく者ばかりになっていたのだ。
「あんたら?上流から来たみたいだが」
「私達は、デーニ村に用があって」ミーナがそう答えると男は頷いた。
「あんたらもクライムの湖と泉を調べに来たのかね?」
「そうなんです。私達も調べながら旅をしてまして」
「小さいのに学者に成る者も世界には要ると聞いたが? 本当に要るんだな、だが、もう殆ど人が居ないからな? 話なんて聞けないだろう。あの爺さんしかデーニには居ないからな?」
このオジさんが言っているのは、クラッカの事であった。村の入り口にあるクラッカさんの店以外は皆閉まっていた。人気が無いのは昼間だからと思っていたが真実は違っていた。
「何があったんです?」
質問に驚いた顔をして此方を振り向いたオジさん。
「あんたら知らないで来たのかい? デーニの村長が3年前に亡くなってな、それから大変だったんだ、昨日だって」
村長が亡くなってから、段々とデーニ村に化物が現れるようになり、デーニ村から逃げてきた村人が口々にこう言った。
「クライムの湖から化物が襲ってきた」
それが始まったのが三年程前。村長が不可解な死に方をしたが、その騒動のせいで調査が出来なかった。そして、その化物達は夜な夜なデーニの村を襲うようになり、一人また一人と村を出るものが現れた。
そして、デーニ村にはクラッカ夫妻だけになってしまっていた。
だが、一昨日の晩にクラッカが大慌てでタライムにやって来たのだ。
「頼む!妻を助けちくれ、酷い怪我なんじゃ、頼むぅ」
クラッカが妻を連れクライムに逃げてきた時にはクラッカの奥さんは既に息を引き取っていた。
涙を流しながら、麦わら帽子を握り締めていたそうだ。
翌日、タライムの人々が止めるのも聞かずに、妻の亡骸を埋葬する為に村に帰っていたそうだ。
「儂は、クライムの化物に一泡ふかしてやる、妻と兄の仇をとるんじゃ、世話になった、ありがとう皆さん」最後にそう言ったそうだ。
あの時の麦わら帽子は、上流から流れてきた。
「クラッカさん、クライムの湖にいたんだ、クラッカさんが危ない!」
「いきなりどうしたのよ?コウヤ」
直ぐにミーナを連れて、隠れていたワットに跨がったる。
「ごめんワット僕に力を貸して! ハイヤァ!」
「グオォォォォン‼」
ワットはコウヤとミーナを乗せ、凄まじいスピードで来た道を駆け戻った!
「コウヤ説明してよ!」
「クラッカさんは、化物と戦う気なんだ!そしてクラッカさんが戦うとしたら今日の夜だ!急がないとクラッカさんが危ない!」
ミーナはコウヤの説明を聞いて半信半疑だったが、コウヤが行くなら何処までも付いていくと決めていた。
「わかった手綱貸して!」
コウヤは直ぐにミーナと入れ代わった。
「ワット飛ばすわよ! はいやぁぁぁぁ!」
二人は急ぎデーニに向けワットを走らせたのであった。
川原で話を聞いた、コウヤとミーナ、ワットに跨がり、急ぎデーニ村へと逆戻りをしていた。
その頃クラッカは、妻の為、そして亡き兄の為に覚悟を決め、武器を手にしたのであった。
二人は、デーニ村そして、クライムの湖で見るものとは?
読んでいただきありがとうございます。
感想や御指摘、誤字などありましたらお教えいただければ幸いです。
ブックマークなども宜しければお願い致します。




