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真実と現実1

 血塗られた王座に座り、チェルバランが消えたにも関わらず、表情をピクリとも変えぬザリア。


 異常と言う他ないザリアの姿にザハールは悲しみを感じた。


「ザリア……お前までもが、チェルバランの魔の手に堕ちたのか……」


 “ザリア”の名を口にした瞬間だった。

 微動だにしなかったザリアが立ち上がり、ザハールの元へとゆっくりと歩みだす。


 両手を広げ、小さく「ごめんなさい」と呟き、涙を流すザリア。


 その姿に動揺しながらも、正気を取り戻したのだと喜ぶザハール。


 二人が共に歩みより、歩数にして互いに二歩程、進めばその手が届く距離まで近づいていた。


 しかし、ザリアの目には輝きはない、ザハールはその事実を前にするもその歩みを止めることが出来なかった。


 二人の距離が半歩まで縮まり、ゆっくりとザハールへと伸びるザリアの両手。


 伸びてきた娘の腕をザハールは拒めなかった。


「ザリア……テルアを守れず、すまなかった……不甲斐ない父ですまない」


 ザハールを抱き締めるザリア。


「……げて……父さん……逃げて……」


 ザハールの耳に確りとそう語られる言葉。

 優しく頷くザハール。


「私は……もういいんだ。ザリア……」


 そう語るとザリアを強く抱き締めるザハール。


「だめ……だめ……だめェェェ!」


 その瞬間、ザリアの意思に関係なく両手が動き、ザハールの心臓目掛けて、裾に隠していた短刀が襲い掛かる。


「父さん……うわぁぁぁーーぁぁッ!」


 ザハールの体に刃が突き刺さると同時に、ザリアの手から禍々しい輝きを放っていたロストアーツが消滅する。


 残酷にも、ロストアーツが消えた瞬間、ザリアは自身の意思を取り戻した。


 ザハールを抱き抱え、涙を流すザリア。


「何で、なんで逃げなかったのよ……父さん、私が正気じゃないの、わかってたでしょ……どうして」


 目の前の泣き顔にそっと手を伸ばし、指で涙を拭うザハール。


「どうしてか……愛する娘が抱き付いてきたんだ、親として抱きしめてやりたいじゃないか……そんなに泣いて、可愛い顔が台無しじゃないか……ザリアは本当に、泣き虫だ……」


 そう語るとザハールの意識は徐々に薄れていく。


 ザリアは腕が暖かくなる感覚を感じる反面、次第に蒼白くなるザハールを見て、絶望する。


「父さん……私は、もう家族を失う気はないよ……絶対に死なせない」


 ザリアは弱々しく息をするザハールを担ぎ上げると、城を後にしようとする。


 そんなザリアの元に駆け込んでくる数人の足音、ザリアは悩んだ。


 足音が討伐軍であるならば、ザハールを見逃す筈はない。

 もしも、ザハール軍であれば、今のザハールの姿を目の当たりにしてザリア本人を見逃す筈はない。


「二つに一つ、どちらかは確実に葬られる、参ったなぁ……父さん……もう駄目なのかな、諦めたくないよ……」


 強くそう願うザリア。


 しかし、足音は更に速度をあげて近づいてくる。


 そして、ザリアの目の前に姿を現した数人の男女。


「ザリア! よかった、無事だな」


 一人の男性はそう語りかけるとザリアは自身の目を疑うように片手と擦り再度見開いた。


「皆……なんで、此処に?」


 ザリアの元に駆け付けたのは、ザハールの元に向かう前に別れたパーティーのメンバー達であった。


 彼等は、ザリアがザハール討伐軍に参加している事実を知り、離れた位置から様子を窺っていたとザリアに告げた。


 そして、ザハールの行動から異変に気付き、今に至ると告げる。


 ザリアは仲間達にある願いをくちにする。自我を失ってはいたが、見たものや、聞いた言葉は全て覚えていた。


 その際に、チェルバランがアトランティスの存在を語った事があった。


 ザリアはアトランティスを目指すと口にしたのだ。


 其からの日々は、過酷と言う他なかった。


 討伐軍とザハール軍の両方から追われ、日に日に仲間が傷つき倒れていく。


 アトランティスを目指して5日目、ザハールはその生涯に幕を降ろした。


 ザリアと仲間達も散りじりに別れ、全ては夢であって欲しいと願い涙を流しているザリア。


 ザハールと共に朝を迎えた洞窟に吹き込む風はザリアの悲しみを癒すことなく過ぎていく。


 しかし、風はザリア達に語りかけなかったが、風に運ばれた匂いは一人の男の元へと運ばれていた。


「人間か? こんな辺境まで何をしに来たんだ。早く立ち去れ、チェルバランが戻れば、全ては灰になる」


 男の語るチェルバランの名にザリアは拳を握る。


「あんた、チェルバランを知ってるの!」


 そう尋ねたザリアに対して男は静かに頷くと「ついてきなさい」とザリアを洞窟の奥に作られた秘密の扉へと案内したのである。

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