夜を照らす輝き6
夕刻、動きが見えぬ討伐軍本陣へとザハール軍、1600人あまりの大部隊が一斉に駆け抜けていく。
結果は呆気ないものであった。
疲労と睡魔が限界に達していた討伐軍にザハールの魔法に耐えられる精神は残っていなかった。
クレムドルを中心に討伐軍の捕縛を進めるザハール軍、しかし、その中にチェルバランとザリアの姿はなく、ザハールは複雑な心境のままにその日、討伐軍から完全なる勝利を手にしたのである。
しかし、ザハール軍の勝利は長くはもたなかったのだ。
討伐軍から独自の行動に出ていた一団の存在が其れを赦さなかったのである。
チェルバランとザリアを筆頭に、数人の部下達を引き連れ、ザハール軍の本陣へと悩むことなく突き進んでいく。
一団には会話はなく、チェルバランとザリアの指示に対して頷く部下達の動きには自我は感じられない。
只、言われるがままに行動する人形のようにすら見える。
チェルバランは不気味な笑みを浮かべながら、ザリアに喋り掛ける。
「不思議な物ですね? 親子が互いにぶつかり合うと言うのは……実に悲しく、辛い……」
語り出すチェルバランに対して手を前に出し、睨み付ける、“やめろ”と無言で合図をするザリア。
無言で頷くチェルバラン。
目的を除けば相容れぬ存在であるとザリアは理解していた。
ザリアはチェルバランと共にザハールのみを討ち取るべく行動を開始していた。
その結果、ザハール軍の総攻撃から奇跡的に逃れる事に成功していたのである。
ザハール軍の総攻撃をしり、自分達のみが敵地に取り残された事実を知るとザリアは苦悩した。
しかし、チェルバランはザリアに驚くべき事を口にする。
「実に素晴らしい……誰か、じゃなく……ザリアがザハールをその手で討ち取る事が出来るじゃないですか、運命を感じますね」
両手を大きく開き今にも笑い出しそうなチェルバラン。
「黙れ! 状況を考えろ、私達は負けたんだよ……今や、戦況は【数】対【数千】となったんだ……完全な敗北だ」
「おやおや、諦めるのがお早い事で、ですが? 今ザハール軍は討伐軍に対して追い込みを掛けているのでしょう? ならば、城の守りは手薄ですよね?」
チェルバランはそう口にするとザハールの城に向かい進んでいく。
城はチェルバランの予想した通り僅かな戦力のみが残され、奇襲を予想するような防衛陣は存在していなかったのだ。
そして、瞬く間にチェルバランは自身の影から、影の騎士団を召喚するとザハールの城をモノの一時間で制圧したのである。
ザリアと部下達はその光景に憤りすら感じてしまうような、残忍にして、容赦の無い攻撃。
まるで人を人とも思わぬ光景を前に言葉すら消え失せていた。
血塗れのザハールの城、最後まで玉座を守ろうと戦った戦士の血で染められた玉座を前にチェルバランはザリアに対して頭を下げる。
「ここから先は貴女の仕事だ、ザリア。世界を恐怖に陥れし、悪魔ザハール……是非に討伐を……邪魔者は私が排除して差上げます」
チェルバランの言葉に吸い寄せられるように玉座の前に進むザリア。
「なんなんだ、私は……こんな、こんな、形で決着など……」
ザリアの心に迷いが生まれた瞬間だった。
チェルバランの渡したロストアーツが歪な黒い輝きを放ち、ザリアを包み込んだのだ。
「おやおや、誓いを忘れ、迷いましたか? 此だけ御膳立てをして、未だに決意が揺らぐなんて……実に滑稽だ。ですが、この方がより、盛り上がりますね」
チェルバランと闇に飲み込まれたザリア、そんな時、城の異変に気付いたクレムドルが自身の部隊と共に城へと舞い戻る。
只ならぬ、鉄の香りはクレムドルと部下達の怒りを最大限に引き出していく。
城からホールまでに配置した討伐軍の兵士を即座に蹴散らし、王座を目指すクレムドルの部隊、そして、辿り着いた先に待ち構えていたチェルバランとザリアに対して得物を突き出しす。
「貴様らッ! まだ……戦い足りぬと言うのか! 我等、紅眼をどれ程に苦しめれば気が済む……この外道が!」
怒りを露にするクレムドル。
そんなクレムドルの言葉を嘲笑うチェルバランと無反応のザリア。
クレムドルはチェルバランの笑みを目の当たりにした瞬間、駆け出していく。




