夜を照らす輝き4
紅眼の悪魔討伐を理由に集められた各国の兵士、傭兵合わせて7万、更に各国から集められた勇者や魔導師など、総勢1万、合わせて約8万の大軍勢がザハールの元へと進行していく。
それに対してザハールの戦力は僅かであり、その戦力差は火を見るより明らかであった。
“ザハールの創りし国”に集まった多くの民は戦いを望まず、ただ平穏な日々を夢見ていた。
その事実を知るザハールは集められるだけの顔役を集めると「皆に逃げるように伝えよ!」と命令をする。
ザハールは死を予感していた。
本来ならば敵が何万来ようと、全てを塵に変え、戦場を支配してきた存在であった、しかし、ザハールは妙な胸騒ぎを感じていたのだ。
そして、それは現実の物となる。
クラシオンから、ザハールの命令により逃げる事になった紅眼の集団が逃げる際に討伐軍の斥候とであってしまう。
そして、明らかにされたクラシオンに対して進軍を開始する討伐軍。
逃げ道を塞ぐように徐々に範囲を狭める討伐軍、その間、ザハールの命により逃げていた紅眼達は悉く拘束されていく。
多くの者は拘束後、直ぐに殺され、若い女と子供は奴隷にする為に鎖に繋がれる、人の尊厳その物が存在しないと言い切るように泣きわめく紅眼達は蹂躙されていく。
誰もが異常だと口にしない世界に一人首を横に振るザハールの娘。
「これが、これが正義だと言うのか……我が父……ザハールを悪とし、集まった正義だと……私は認めない」
ザハールの娘は討伐軍からの脱退を決めると一人でザハールの元へと向かっていく。
軍を離れ、森を一時間程進んでいく。
単独で移動していたザハールの娘の頭上を一筋の影が物凄い速度で瞬く間に通り抜ける。
数分の間の静けさが過ぎ去そうとしてしたその時、突如として巻き起こる爆風。
熱風が森を通り抜け、灼熱の風が吹き荒れる。
咄嗟に岩の影に飛び込んだザハールの娘は熱風が消え去った瞬間、その眼を疑った。
討伐軍が居たであろう数ヵ所の休憩地点から一斉に黒い煙が上がっていた。
「な、何が起きた……幾らなんでも、デタラメすぎる」
焦げ臭い臭いが充満する森を口に布を巻き駆け抜けるザハールの娘。
自身の居た休憩地点まで全力で駆け抜け、辿り着いた時、目の前の状況にただ絶句する。
数千の討伐軍の兵士達は地面に影だけを残し跡形もなく消え去り、奴隷として捕らえられていた紅眼達が繋がれていた鎖からは解き放たれたであろう、解錠の痕跡が残されていた。
敵が紅眼を助けに来た事実に警戒を強めながら辺りを見渡すザハールの娘。
そんな時、聞き慣れた声がザハールの娘へと向けられる。
「何故、お前が此処にいる……ザリアッ!」
ザハールは自身の娘の姿に身を震わせる。
「父さん……信じたくなかった……私は父さんの名を誰かが語って要ると信じて討伐軍に志願したの……なんて愚かな事を」
ザハールの娘、ザリアはザハールに剣を向ける。
「父さん……私はテルアと違って魔法の才能は無かったわ。でも、母さんと同じように剣でなら、負けない自信があるわ! もう、こんな馬鹿な真似は終わりにして……テルアは何処なの? 居場所を教えて!」
ザハールは表情を曇らせると徐に口を開いた。
「ザリア、お前の妹はもう、居ない……魔力の暴走の際に見たのが最後だ……すまない」
絶望と混乱で顔を歪めるザリア。
「なによ……それ、父さん……言ったじゃない! 私が旅だった日に「テルアは任せろ」って! 魔力の暴走って、ふざけないでよ! あの子は……テルアは、まだ何も、何も知らなかった!」
怒りをむき出しにするザリア。
そんな最中、討伐軍の増援がザハール目掛けて攻撃を開始する。
無数の火炎魔法が撃ち放たれ、矢の雨がザハールとザリアの間に降り注ぐ。
「くっ!」とザハールが視線を討伐軍に向けた瞬間、凄まじい勢いで襲い掛かるザリア。
「うわぁぁぁぁッ! 返せ、返せ、返せ、テルアを返せ! アンタなんか親じゃない! アンタなんかッ!」
激しい斬撃の中、一瞬の隙を見て、その場から姿を消すザハール。
怒りに支配されたザリア、悔しさに声をあらげる。
そんなザリアに近づくチェルバラン。
「私はチェルバラン。貴女とザハールの関係を知る者です」
咄嗟に剣を向けるザリアに微笑みを浮かべるチェルバラン。
「今、騒ぎを起こせば貴女は確実に素性が知れましょう、そうなればザハールと再会は困難になりましょう。ですから話を聞いて頂きたい」
蛇が蛙を睨みつけるようにザリアに迫るとチェルバランは小さな指輪を手渡す。
「それはロストアーツです。貴女が本当に復讐……もしくは、父であるザハールを恨むならば、お付けなさい」
その言葉にザリアは悩むこと無く指輪を付けて見せる。
「私は……ザハールを伐つ。あと、私とザハールの関係を漏らしたならアンタも只じゃおかないから!」
そう言い残しザリアは討伐軍へと復帰したのである。




