夜を照らす輝き1
紅眼を本来、危険視する必要は無いほどの力を手にしたチェルバランが何故紅眼を意味嫌い、必要以上に棄権しする訳、それは瑠璃色の王へと繋がる。
瑠璃色の王を使いチェルバランを討ち取ったロストアーツ使いこそ、真っ赤な瞳をした存在であった。
全てが消え去って尚も現れる紅眼の存在を消すことを諦め、受け入れたのだ……世界の恨みの矛先として。
紅眼の魔導師として名をあげたザハールの存在はチェルバランの眼には魅力的に見えた事だろう。
国からの信頼と国民からの信頼、敵国からすれば恐ろしく妬ましい存在であった。
チェルバランは魔術師に姿を変え、ザハールの国に入り込むと瞬く間に王を洗脳し、“リンク”の力を語る。
王は悩む事なく、国中の紅眼を集め、力があるか無いかを魔術師に化けたチェルバランに確かめさせた。
チェルバランは紅眼を全て、牢に繋ぐと笑いながら偽りの尋問を開始する。
見ている兵士が嘔吐する程の尋問は既に拷問に他ならなかった。
チェルバランは、まるで自身の欲望を満たすように紅眼を肉と血溜まり へと変化させていく。
しかし、ザハールだけは、尋問をせずに、ただ牢に縛り付けたのだ。
チェルバランは期待していた。
ザハールが限界を超え、牢を吹き飛ばすであろう姿を……
しかし、ザハールはただ耐え続けたのだ。
多くの紅眼がザハールの前を抜けて尋問室へとつれていかれる。
「ザハール様! どうか、お助けを、ザハール様! ザハール様ァァァ!」
叫び声が“ガタン”と言う重く厚みのある扉の音と共に消えていく。
微かに耳に響く最後の断末魔はザハールを苦しめていく。
そんな時、ザハールの牢に王が足を運んだのである。
窶れた頬と濁った瞳、全身が窶れたと言う印象をザハールに与える程、変わり果てた王の姿に絶句するザハール。
「陛下……何故です、なに故に此のような暴挙に出られたのですか……民は今、無用の涙を流し、苦しみにその身を焦がしております、どうか御考えを……御改めください」
王への進言、それが意味する答えは死罪であった。
王が絶対であると考える世界において、王への進言は反逆行為とされ、宣戦布告の象徴とされていた。
そんな世界でザハールは自身の命を賭ける事で王を正しい道へと引き戻そうと考えたのだ。
しかし、それはザハールにとって死よりも残酷な結末を招く結果となる。
ザハールの考えは現実の物となり、王は怒りのままにその矛先をザハールへと向ける。
しかし、そうなる事はチェルバランも予想していた。
魔術師に化けたチェルバランは王にある提案をする。
「リンク者であるザハール様には、最後にその力を全て、さらけ出して頂きましょう。リンク者の共鳴から解除の瞬間に起きる力を知る絶好のチャンスですよ」
全てを嘲笑うような、うっすらとした笑みは王以外の全ての物の背筋に悪寒を走らせた。
そして、ザハールが拷問室に連れていかれる。
見るものを威嚇するような漆黒の扉、前には門番であろう屈強な男が二人おり、外に掛けられた木の板を扉から外し全身の筋肉を使い扉を開いていく。
何処までも絶望を与える為だけに作られたであろう異様な扉は厚みのある鉄の塊であり、中に入ったが最後、一人で開くことは不可能だろうと誰の心にも一瞬で刻み付けていた。
そして、ザハールも例外ではなかった。
扉が開き、中に通された後に“ガタン”と音を発て閉まる扉、室内は蒸し暑く、至る所に拷問器具が置かれ、その周りには真新しい血を拭き取ったであろう染みが残されている。
血生臭さが鼻から体内に流れ込み、込み上げる吐き気がザハールを襲う。
しかし、ザハールは目の前の光景に言葉を失った。
自身の娘が鎖で縛り上げられまるで晒されるかのように宙吊りにされていたのだ。
微かに動く口元と指先をその眼にしたザハールは怒りに唇を噛み締める。
「此れが……此れが俺への抱腹か! ふざけるな! どれ程の屈辱と拷問を浴びせられようが耐える覚悟とこの身が朽ちても尚も王国が正しき道に進むならと覚悟を決めた……その答えがこれかァァァッ!」
只ならぬ殺気と怒りに震えるザハールを前に後ろに退く拷問官達。
しかし、王とチェルバランは違っていた。
ザハールの幼き娘を指差し王は口を開いた。
「ザハールよ、貴様は良く働いた。王国の力となり、象徴となり、敵国の恐怖となった。しかし、未だ足りぬ……その血も肉体も、精神さえも我が王国の為に捧げよ」
ザハールは汚物を見るような眼で王を見つめる。
王はその眼を見るなり、逆上しザハールを部下に気絶するまで殴打させたのだ。
「はぁはぁ、此の愚か者が……王に対してあんな眼を向けおってッ!」
怒り狂う王に対してチェルバランは耳打ちをする。
その瞬間、王は下卑た笑みを浮かべたのである。




