闇を従えし王1
バルゼンはランタンに対して斧を改めて構えると羽を前後に大きく動かし始める。
突風が渦のように巻き起こした。
人為的に作られた其れは海を巻き上げ、両者の退路を塞いだのである。
「此れで邪魔は入らんだろう、渦の中での会話も姿も外には漏れぬ、俺は貴様らに聞きたい、何故我等に敵対する!」
予想だにしないバルゼンからの問い掛けにランタンは大鎌を肩に乗せると呆れたように返答をする。
「今更な質問ですが、時間稼ぎでしょうか? 私達は貴方達を悪魔と呼び、敵対する理由は1つです。
あなた方の王が我等が王の人生から多くを奪った事に他なりません。
優しきコウヤ王の幼き心を踏みにじり、全てを狂わせたあなた方の王、チェルバランを赦す事は出来ないのですよ」
困惑するバルゼン。その顔は何を言われているか理解できないと言わんばかりであった。
「どういう意味だ、チェルバラン閣下がいったい何をしたと言うのだ、ならば怨恨の為に1国の王が兵を動かし戦争を始めたと言うのか」
バルゼンの更なる問にランタンは大鎌を持った手を小刻みに震わせる。
「王は……コウヤさんは我等に怨恨を理由に戦えなどと口にしないですよ。今戦っているのは我らが国“ミカソウマ”に攻撃を仕掛けた報いを受けて貰う為に他なりません、先に戦争を仕掛けたならば死ぬ覚悟が出来ているのでしょうが、我が国の多くはいきなりの奇襲に何度となく仲間達を友を失いました……其れを、何故敵対する? ふざけた事をッ! 口にするなァァァッ!」
ランタンの怒りが口にされた瞬間、ランタンは風魔法を使いバルゼンの作り出した渦に凄まじい突風をぶつけると渦その物を破壊する。
「ファハハハ、其れでこそ最前線に出向いたかいがある! 我が名はバルゼン、チェルバラン閣下の為、その首を討ち取らせて貰うぞ」
バルゼンが両手でカウンターの構えに入った瞬間、ランタンは悩む事なく特攻を掛ける。
「早ければ勝てると踏んだか、甘いぞ! ぬおおぉぉぉッ!」
バルゼンは巨大な斧を横に豪快に振り抜くとランタンはテレパスを使いバルゼンの真後ろに移動したのである。
振り向こうとするバルゼンの首から胴体に対して斜めに当てられる刃、誰の目にも勝負が決したように写っていた。
しかし、バルゼンの眼は死んではいなかったのである。
「命を賭けた戦いで……其れを貴様ッ! 刃を止めるとは俺をバカにしているのかッ! カボチャ頭」
ランタンは刃に力を入れながらもバルゼンを沈黙を護っていた。
バルゼンは拳を握り、その手は怒りに震えていた。
圧倒的な実力差を見せつけられる結果に為りながらもバルゼンに“諦める”と言う言葉は無かったのだ。
呟くように「今すぐに斬らねば後悔するぞカボチャ頭よ」と口にするバルゼン。
「後悔をするのはどちらでしょうか……周りを見てください、我等の王はアトランティス内部に向かい、ミカソウマの強者や切れ者達がその後ろから支援に向かっています。既にこの勢いは止まらないでしょう。更に言うならば、貴方の身動きを封じられた事実は敵悪魔達の戦意喪失に繋がります。殺すより生かして威力を発揮する物がある事実を知って頂きたい」
バルゼンは愕然とした、そして落胆したのだ。
自身が情けを掛けられたと錯覚した事実に、周りの兵士達が絶望に顔をしかめ、諦めたように目を背ける姿が其処には広がっていた。
数で勝っていた筈のバルゼンの部隊、そして合流した別部隊が一斉に戦闘に持ち込めば勝機はあったであろう。
しかし、追い討ちを掛けるように姿を現す源朴とマトンの部隊。
逃がした別部隊を追い、結果として最前線へと辿り着いていたのである。
数で勝てず、戦意で勝てず、更に個々の能力ですら劣る事実に怯えきるバルゼン軍に勝利を切り開く術は無かった。
バルゼンは戦場を真っ直ぐに見つめると不敵に笑みを浮かべた。
「強者と敗者か……」
ランタンはバルゼンの言葉に対して「勝者と敗者ですよ、もしも未だに戦意が互いにあったなら、多くの命が戦場に散ったでしょう」と口にした。
「無念だ……多くの民の命を救う戦いに敗北したのだな」
バルゼンの瞳から一筋の涙が流れる。
ランタンは無言で頷く。
互いに見つめる戦場には勇ましい戦士達と絶望に握った武器を下に向ける戦士達の姿があった。
「ジャック王と言ったな……俺の命1つで幾つの戦士達の命を救えるか教えてくれないか、俺は下級戦士から将軍にあがった身でな、部隊の殆どが一緒に歩んできた家族のような存在なんだ。頼む……捕虜で構わん、コイツらの命だけは見逃してくれ」
バルゼンの必死な訴えに対してランタンは微動だにしない。
数秒の沈黙、そんな時、痺れを切らしたミカソウマの戦士達は行動に出ようとする。
「ウオォォォォッ!」と戦場に掛け声が鳴り響くと悪魔達は後退りをしながらもその場から完全に撤退しようとはしなかった。
しかし、合流した別部隊は違っていた。
バルゼンの部隊が逃げないのを良いことに撤退を開始したのである。
別部隊が後退すると残された一握りのバルゼンの部隊に一斉に向かっていくミカソウマの大部隊。
涙を流しながら歯を食い縛るバルゼンの部隊、しかし、ミカソウマの大部隊はバルゼンの部隊を無視するように掻き分けながら通り抜けると逃げた別部隊に強襲を掛けたのだ。
状況が理解できないバルゼンとバルゼンの部隊。
「な、何が……」とバルゼンが言葉を漏らす。
「ヨホホホホ、我等が王は先程の条件を許したのです。バルゼンさん、貴方が悪魔らしく無いからこその結果です。貴方の命に対して逃げない者は生かすようにとの事です。貴方の処分は後にします、しばし御別れとしましょう」
ランタンはバルゼンをポケットに吸い込むと海面で混乱するバルゼンの部隊を一気にポケットへと吸い込んでいく。
「まったく、コウヤさんには驚かされます。悪魔にすら慈悲を向けられるとは、この先も悩まされそうですね……」
ランタン達は逃げた悪魔達と敵対する悪魔達を次々と切り裂きコウヤとの合流を果たす。
既にコウヤ、キャスカ、ディアロッテシャーデの部隊とラシャ、カカ、ミーナの部隊により切り開かれたアトランティス迄の道。
コウヤがアトランティスへと辿り着くとチェルバランが姿を現す。
「コウヤ、何故だ? 多くの犠牲の先に私を倒す必要が本当にあると思うのかね?」笑みを浮かべたチェルバランは涼やかにそう語る。
「僕達はお前のせいで平和も多くの仲間や民も失ったんだ……他の悪魔はともかく、お前だけは絶対に息の根を止める」
コウヤの紅い瞳がチェルバランを睨み付けるとチェルバランは呆れたように首を左右に動かす。
「平和? 多くの者を失った? その為にどれ程の犠牲を強いた! 偽善が正義に成り代わるなど有り得ないんだよッ! 瑠璃色の王よ、戦いが好きだろう……敵に勝利することはどんな美酒よりも酔えるだろう? 瑠璃色の王とは全てを犠牲にし、強くなり得る強者の証、今更、犠牲だと? 笑わせるな、さぁ殺し合おうじゃないか。我が名はチェルバラン、闇を従えし王なり!」




