悪魔は微笑む6
槍を手にした悪魔の大部隊がコウヤに槍を向けると次々に槍の先端が打ち出され、次の部隊が位置を前後させると次々に槍の雨がコウヤ目掛けて襲い掛かって行く。
その更に後方からは重装備の飛行部隊が姿を現すと槍の雨に混じり、巨大な斧を手に強襲を掛ける。
「彼奴だ! 彼奴が敵の頭だッ! 首を取れば俺達の勝利だ」
荒々しく声をあげる悪魔達、誰一人として敗北など有り得ないと考えていたからに過ぎない。
海域に展開していた多くの悪魔が既に海に散っているなど悪魔達は予想すらしていなかったのだ。
悪魔達の脳裏に浮かぶ計画、足止めしているコウヤに対して四方から一斉に大部隊が襲い掛かりミカソウマの兵が無惨に散り、絶望の果てにコウヤ=トーラスと言う最大の亜人の王を討ち取るのだと。
大海原を荒々しく飛沫を上げならが近寄る大部隊の姿に勝利の笑みを浮かべる悪魔達。
次第に近づく大群を前に悪魔達は絶望を露にした。
大群の先頭に座り込むグーラの姿、その護衛をするように武器を構える二人の獣人の姿。
「な、なんなんだよッ! なんで普通に敵の増援が来てやがるんだよ」
「知るか、まずい! このままじゃ抜かれる……いや、俺達が全滅する……」
悪魔達の勝利を確信していた笑みは無くなり、次第に絶望に顔を歪めていく。
その後ろから大きく叫ばれる声。
「静まれッ! 戦わずに敗北を口にすれば、其は現実になる。いいかッ! 敵が前に居るならば爪が剥げようと食らい殺せ! 今居るのは戦場である! 我らは勝つ為に此処に居るのだ! 立ち上がれ戦士達よ、我らは強者である!」
そんな時、大空を埋め尽くす悪魔の大部隊が慌ててコウヤ足止め部隊の元に向けて飛んでくる。
「おぉぉぉ、アハハハ、やっと来やがったか! あの部隊が合流すれば勝機がある! 王一人を討ち取ればいい、これはそう言う戦いだ、いいか! 他の連中に構うな。あくまでも標的は王一人だッ!」
一人の悪魔が大声を上げ、絶望の淵に立たされた悪魔達の闘志を奮いたたせる。
指揮を取る悪魔の名は“バルゼン”
チェルバランの部下であり、多くの部下を束ねる大将の一人である。
巨大な翼竜のような羽が背中にあり、鬼のような2本の長い角と口からはみ出した牙、長身でありながらも引き締まった薄紫の体、腰には刀がぶら下がり、手には既に両手斧が握られている。
その鋭い目付きには似つかわしくない優しく輝く瞳。
コウヤと向き合った瞬間、バルゼンはうっすらと笑みを浮かべる。
指揮が上がる悪魔達は一斉にコウヤ達に向かい襲い掛かる。しかし、合流した悪魔の大部隊を直視した瞬間、バルゼンから笑みが消え去る。直ぐに事態を理解したバルゼンは逃げてきた部隊の一人へと即座に掴み掛かかると部下達に気取られぬように呟くように喋りかける。
「手短でいい、何があった……」
掴まれた腕は震え、顔は恐怖で青ざめている。
近くで見れば息は荒く、全身から流れ出す汗は死に物狂いで逃げてきたであろう事を物語っていた。
バルゼンが“逃げてきた”と気づいたは偶然ではなかった。
悪魔の大部隊は水陸空から作られ、今回の戦闘では空、海の2つから作られており、バルゼンの直接指揮を取る足止め部隊に合流した悪魔達は皆が飛行を可能とする者達であり、それに対して海の部隊が一人も合流していない事に違和感を感じたからであった。
「悪夢です……海中に見たこともない鮫の化け物が現れ、最強の筈だった俺達があっという間に手玉に取られたんです。俺らの隊長は最後の命令を口にして海に消えました。王を討てと……なのに、怖くて堪らないんです。バルゼン大将……俺達が戦ってるのはいったい何なんですか! 奴等はいったい何故に俺達の前に立ちはだかるのです、一人の犠牲で済む筈だった戦いは今や総力戦になってしまった……チェルバラン閣下は何と戦っているのですか……俺達の敵は野蛮な蛮族の王ではなかったのですか……教えてください、バルゼン大将」
「クッ……すまぬ、俺にもわからんのだ。チェルバラン閣下は我等に未来を手に入れよと命令された……我等は進化し、力を手にした。指導者であるチェルバラン閣下の為にその力を振るってきた。此れからも其はかわらぬ、悩むな……戦場で悩めば死ぬぞ。敵の王を討ち取れば終わるとチェルバラン閣下はハッキリと口にされたのだ。敵が強いは必死の証、勝利は俺達に輝く。最後まで生き残れ、そして朝を迎えよ。勝利後の太陽の輝きは格別だぞ」
バルゼンは口にしなかったが、チェルバランに対して疑問を感じていた。
多くの部下を投入し尚も勝てない戦況、更に蛮族であると聞かされた筈のミカソウマの真の姿は紛れもなく統率の取れた大国である事実、多くの疑問が脳裏に浮かぶ最中、バルゼンの予想を遥かにこえる速度で接近してきていたキャスカ達とぶつかった部隊が突破されたのだ。
「バルゼン大将、奴等の進行が止まりません、此のままでは足止め部隊は全滅です! 御命令をッ!」
部下の声に握り拳を作るバルゼン。
「少し話し過ぎたか、全軍、一旦立て直すぞッ! 後方にに移動後、陣形の再確認、殺られた奴等の穴は3班にてカバーしろ! 足りなければ4班、5班で賄え、今より死ぬ事は赦さぬ! 時間は俺が稼ぐ!」
単身前方に移動するバルゼン大将。
そして、再度対峙するコウヤとバルゼン。
「随分と強いんだな、正直、驚いた。その力を何故に悪に染める! 答えよ蛮族の王よ!」
斧を向け声を上げるバルゼン。
「大変に気に食いません、実に不愉快な質問です! 怒りで全身が燃え上がりそうです」と口にしながら、斧に大鎌を掛けるランタン。
ランタンの登場に鋭い目線がコウヤからランタンに移動する。
「なんだ貴様は? いきなりの横槍とは笑えない冗談だ。流石は蛮族の戦士と言うところか」
「ヨホホホ、大鎌が槍に見えるなら、目の治療をお勧め致します。おっと、必用無いんでしたね。貴方が治療を受ける事はないでしょうから、貴方の相手はジャック王ランタン=パンプキンが致しましょう。王の進むべき道は我等が切り開かせてもらいます」
ランタンとバルゼンが睨み合うと悪魔達はどうするべきかわからずに動きを止める。
バルゼンは歯を食い縛るように口を閉じると息をゆっくりと吐き出し、声を口に出す。
「全兵士よ! 此処が正念場だッ! 絶対に此処より先にミカソウマの蛮族を通すな、此れは命令だ、いいな!」
そしてランタンとバルゼンの戦いも同時に開始されるのであった。




