海の魔物5
コウヤに群がるように集まり出す巨大魚達、そして聞こえてくる倒した筈のスキュラの笑い声。
「アハハハハ、終わりだねぇ、最後の賭けだったのかい? 息が苦しいのかい? 全身が小刻みに震えて苦しそうじゃないか」
スキュラ……海の怪物の名を持つ理由をコウヤは知ることになる。
「私は自分の作り出した生物ならどんな物でも一体化出来るのさ、海の中で私に勝てる者など存在しないんだよ! 種明かしも済んだんだ……死んで私の一部に為りな、瑠璃色の王ッ!」
コウヤは全てを覚悟しながら「ごめん、ミーナ……ごめん、皆……」と心で呟いた。
スキュラは巨大魚と一体化し、コウヤ目掛けて一気に口を開き襲い掛かっていく。
その瞬間、あろう事かミーナがテレパスでコウヤの目の前に姿を現した。
ミーナはコウヤに口づけをすると空気をコウヤの体内に流し込み、一言「君はまだ死んじゃいけない」と呟いたのだ。
そして、ミーナはコウヤに背を向けると向かってくるスキュラに対して両手を広げ叫ぶ。
「コウヤは殺させないッ!」
苛立ちを露にするスキュラは速度を上げて海中を一気に進みミーナを標的に変える。
「なら、お前から食らい殺すまでだァァァッ!」
スキュラの狂気に満ちた叫び声、コウヤは動かない体で必死にミーナに向けて手を伸ばす。
「ダメだッ……ダメだよ、やめろ! やめろ! ミーナァァァァッ!」
コウヤの叫び、しかし無情にもスキュラは攻撃を中止する事はない。
目の前で繰り広げられようとする最悪のシナリオ、しかし、コウヤには何も出来なかったのだ。
スキュラがミーナにその巨大な牙で迫る。
ミーナの中では遠い幼い日に見た、あの走馬灯が甦っていた。ただ、違っていたのは、コウヤやラシャ、ランタンと言った多くの仲間との日々が加わっていた事であった。
「お別れなんだね……ずっと好きだよ、コウヤ」
ミーナの口許は優しく微笑みを浮かべていた。
そして、スキュラがミーナを食らい殺そうと口を閉じた瞬間であった。
突如、海面から海底にの光の壁が現れる。
海を四角く囲うように現れた壁にスキュラは一瞬、動きを止めた。
次の瞬間、光の壁に囲われていた部分の海水が一瞬でなくなり、海底はまるで地上の陸地のような光景になっていた。
何が起きているのか理解出来ないスキュラに対して、遥か海面から海底に向けて姿を現した一団。
スキュラの口許からミーナの手を掴み、コウヤの方に放り投げる。
同時にコウヤの後ろに数人の人影が移動し、動けなくなったコウヤの体を支えていた。
コウヤとミーナの目の前でスキュラの大きく開いた口に得物を構える男。
「ヨホホホホッ、お久しぶりっと言うべきなのでしょうか? 此方の世界の様子を見れば長き年月が経過したのであろう事は明らか、ですが変わらぬお姿に嬉しく思いますよ。コウヤさん」
コウヤとミーナの目の前にはランタンの姿があり、後ろからコウヤを支えていたのはキャスカとディアロッテの二人であり、ミーナをキャッチしたのはラシャ、シャーデ、キュエル、ベルミの四人であった。
ランタンがスキュラの動きを封じている最中、海水が一気に蒸発し水蒸気が天高くあがる。
「他愛の無い魚どもだった……二人は無事みたいね?」とカカが不敵に笑う。
コウヤは夢でも見ているのではないかと自身の目を疑った。
「なんで、皆……ずっと、ずっと……もう会えないんじゃないかって思ってたのに」そう言い涙を浮かべるコウヤ。
ランタンはニッコリと笑みを浮かべると声をあげる。
「魚の分際で、我等がミカソウマの王に仇成すなど、塵も残さぬ考えですので、覚悟を決めていただきますッ!」
スキュラは海水が無くなり身動きが取れない状況に初めて危機感を感じるとともに怒りを感じていた。
巨大魚から体を分離させ、人の姿を露にする。
「いきなり、ふざけるなッ! 私の戦いなんだ! 瑠璃色の王と深海の女王である私の戦いに口を挟むな!」
スキュラがそう口にした瞬間、ランタンは無言のままに巨大魚の頭部を大鎌で切断する。
「魚に攻撃させる為の隙を作る為の挑発とは古い手です。いえ、貴方達、悪魔は元は人間でしたね……成長しないと言うより、人間らしいと誉めるべきですかね?」
ランタンは微かに目を動かす巨大魚の仕草を見逃さなかった。
そして、巨大魚が絶命した瞬間、スキュラの額から頬にかけて一筋の滴が流れていく。
スキュラは完全に逃げ道を失ったのである。
周囲の海水はカカにより、温度が上昇し、それでも待機していたスキュラの分身達は限界に達し息はない。
加えて、スキュラ本人はランタンとカカ、更にコウヤとミーナを支えるラシャ達を前に策が尽きた状況であった。
ランタンはスキュラを目掛けて大鎌を構えると勝負は一瞬で決まった。
海水も無く、分身もいないスキュラに勝ち目など有りはしなかったのだ。
スキュラを完全に撃破したランタン達はコウヤとミーナを連れて海面へと移動する。
皆が海面まで辿り着くとランタンはポケットから海水を元の海底へと戻していく。
アトランティスの誰もが目を疑うようにその光景に釘付けになっていた。




