ブラッドマン5
ブラッドマンの微かな呟きは悲しく、それでいて凍り付くような悪寒を男達に感じさせていた。
絶望を通り越し、笑いが止まらないと言わんばかりのブラッドマンの表情は既に常軌を逸して要ることは誰が見ても明らかであり、男達もそれを鼻で笑うように指を指し、次第に大声で笑い出すと騒ぎを聞いた他の荒くれ達も次第に集まり出す。
食堂の前の広場は、砂糖を見つけた蟻の大群が群がるように四方八方の道を塞ぎ、逃げ道を覆い隠すように棍棒を手にした男達がニヤついている。
村に住む誰もが家に閉じ籠り、今起きている惨劇が少しでも早く終わるように願っていた。
言い方を変えるならば、ブラッドマン命1つで丸く収まるように願っていたのである。
そんな男達の一人が気まぐれに大声で叫びだした。
「村の中でこの男を助けたい奴は居ないのか? 今なら助けられるぞ! 身代わりを許してやる」
…………静まり返るように微動だにしない村人の行動を見て男達から上がる歓声。
「アハハ、そりゃそうだよ! 誰が他人の身代わりなんかになるんだよ」
「ギャハハ、違いないな、残念だがもう一回死んでこい! この死に損ないがッ!」
男が剣を手に素手のブラッドマンに斬り掛かる。
激しい血飛沫が広場に飛び散ったその光景に男達は目を疑った。
斬り掛かった筈の男の剣はブラッドマンの体に突き刺さってるように見えるが根元まで刺さって要るであろう剣の先端はブラッドマンの背中から飛び出す様子はなく、斬り掛かった男の方はブラッドマンに首を掴まれた瞬間に首が次第に無くなっていき、次の瞬間、まるでポンプから水が噴き出すように血液が凄まじい勢いで頭が吹き飛ばされる。
落下の際に鈍い“ボシャン”と言う音が広場に響くと同時に落下した頭が地面にぶつかり砕け散る。
男達は何が起きたのか理解できず、動けずにいた。
そんな中、咄嗟にブラッドマンに対して走り出す男、その姿に他の男達も一斉にブラッドマンを目掛けて襲い掛かる。
しかし、ブラッドマンは避けようとせず、只、攻撃を無抵抗に受ける。
襲い掛かった筈の男達は手から突如消える重さに自身の手を確認する。
剣は刃が無くなり、棍棒もまるで砂だったかのように中心から先が無くなっている事に気付かされる。
男達は一振りした剣や棍棒が軽くなる感覚に恐怖すると同時に無くなった部分が何処に行ったのかを咄嗟に足元を見て確認する。
ブラッドマンは全身に水魔法で膜を二重に作り出していた。内側は単なら水の衣、外側はロストアーツを使い水を硫酸に変えて全身を包み込んでいた。
触れる全てを一瞬で溶かし、ブラッドマンが触れたならば、体内の血液を一瞬で何十倍にも増やし、中から爆発させる。
最初の男はあえて、噴水のように破裂させたが、そこからのブラッドマンは襲い来る者達を次々に破裂させていく。
広場が血で池に変わるのではないかと思う程に赤く染まり、ブラッドマンの顔から靴の爪先までが真っ赤に彩られていく。
更にブラッドマンは広場の出口を無くすために広場の周りを水魔法で覆いドームのようにするとその場の全ての水を酸へと変える。
ドームの天井から次々に落下する酸が雨のように降り注ぎ、その場にいた男達は骨すら残らずに煙を出しながら姿を消していく。
ブラッドマンの人生初の殺戮であり、次にブラッドマンが向かったのは食堂であった。
広場の酸のドームを津波のように食堂の中に流し込むと建物と周辺一帯が煙をあげて消え去っていく。
一瞬の出来事であり、店の中に誰が居ようと助かる事はないだろう。
「此で俺を殺そうとした事は水に流してやるよ……俺はアンタに惚れてたから不味い飯を毎日食いに来てたんだ……」
女性店員に対しての言葉、名前すら聞けぬままに終わった事実、しかし、ブラッドマンは名を知らなくて良かったと感じていた。
名を知っていたならば、此処までアッサリと終わらせる事は叶わなかっただろうと考えていたからである。
ブラッドマンはその日、カラハ大陸の小さな村を地図から消したのである。
そして、ブラッドマンはその身を次第に闇の世界へと落とし、赤から黒に染まった体を更に赤く染めるように生きていく事になる。
そして、ブラッドマンは次第に狂いだし、自分を殺せる強者を捜すようになっていく。
ブラッドマンの最後の理性が死に場所を強く求めた結果であった。
そんなブラッドマンは今、コウヤ=トーラスを最大の敵であると認識し、向き合っている。
期待はずれのコウヤを見るブラッドマンの目、そんなブラッドマンは、まだコウヤが何か奥の手がある筈だと期待するかのように笑みを再度浮かべるのであった。




