ブラッドマン3
ブラッドマンは診療所の帰りに何時も立ち寄る食堂がある。
食堂は夜は飲み屋にもなり、客が絶える事はない。
仕事終わりの夕食を楽しむのが日課であり、その日も何時ものようにカウンターの端に座り、軽い食事を済ます。
夜になれば流れてきた荒くれ達が一晩の酒を楽しみ大いに騒ぐのが日常だ。
そんなブラッドマンの日常が非日常に変わる瞬間がやってくる。
乱暴に開かれる食堂の扉、ゴツい男達の集団がテーブルを陣取り、大声を店員の女性に怒鳴り声のような声をあげる。
「くそ、酒だ! 酒! 早く持ってこい」
慌てる店員が酒を運ぶと其をがぶ飲みしては次々に酒を追加する男達。
誰もが不快感を露にしながらも何も言えずに店を後にする。
ブラッドマンも同様に揉め事を避けるようにソルティーとベルモに言われていたので代金を払い店を後にしようとしていた。
“ガシャン”と言うジョッキの割れる音が店内に響き、「このヤロウ俺に酒を掛けやがったな!」と大声を男が発した。
騒然となる店内……男の一人が女性店員の腕を掴み無理矢理テーブルに押し付けるように叩きつけると女性店員が悲鳴をあげ店内に緊張が走る。
その瞬間、ブラッドマンは只、がむしゃらに走り出していた。
気づけば男達に体当りし女性店員が自由になった瞬間、店の裏に走り出して身を隠す。
「テメェ! よくもやりやがったな、今日は、むしゃくしゃしてんだ!」
男が徐に取り出した小刀を見てブラッドマンは息を飲み、辺りを見渡す。
周りに居た客は全員店外に飛び出し、裏に籠った店主と女性店員は姿を消し完全に息を潜めている。
ブラッドマンの行動は間違っていない。寧ろ正しき行動と言えるだろう。
しかしブラッドマンに突きつけられた現実、其は余りに悲しく残酷であった。
助けた存在から身を隠され、共に過ごしてきた村人達はブラッドマンを見捨てて逃げ出している事実、全ての状況はブラッドマンの心に闇を作り出し始めていた。
数人の男に押さえ付けられ女性店員のようにテーブルに押し付けられるブラッドマン。
「クソッ! やめろ、誰か助けてくれ、頼むから誰か!」
「残念だなガキ! 誰も来てくれないらしいぜ? さて、お仕置きと行こうじゃないか。大人に嘗めた事する悪ガキはこうなるんだよ!」
「うわぁぁぁぁっ! やめろっ! ギャアアア……」
背中を滑らせるように小刀で刻まれる切り傷、更に男の一人が煙草を吸いだすと、其をブラッドマンの背中の傷に押し付けたのである。
肉を切られ、煙草を押し付けられての絶叫、断末魔のような叫び声が店の中にこだまする。
その時、後ろの扉が開き女性店員が姿を現す。
「やめてください! もういいでしょ!」
ブラッドマンを助けようと口にされる希望の言葉。
「はい、そこまでだ。お嬢ちゃん」
開いた扉に走り込み、女性店員を取り押さえる男達。
「なら、お前がガキの代わりにその身を捧げるって事だな?」
男達の言葉に怯える姿を目の当たりにし、ブラッドマンが声をあげようとした瞬間、耳を疑う言葉が飛び出した。
「いや、何で私が、私はただ……お店でこれ以上暴れないで欲しいの……だから」
恐怖に震えながらそう語る女性店員、其を笑いながら見ている男達はある提案をするのであった。
「ならよ? お嬢ちゃんが俺達の代わりにお仕置きをしてくれよ。分かるな?」
そう言い吸いかけの煙草を手渡す。
逃げられない状況、手に渡された煙草の煙とヤニの香り、震えながらの決断。
ゆっくりとブラッドマンに近づく女性店員、その顔は涙でぐじゃぐじゃでありながら、狂気を漂わしている。
「私には……出来ない出来ないの……」と呟く女性店員。
その言葉にブラッドマンが一瞬の希望を見いだした。
“ジュッ”
「うわぁぁぁぁっ!」
「私には逆らう事が出来ないの……ごめんなさい」




