戦場を染める者2
コウヤの黒刀がロナの槍を弾くようにして距離を次第に縮めていく。
ロナの激しい槍に対して、的確に反応していくコウヤに対して焦りを露にする。
その表情からは不快感が滲み出るようであり、睨みながら向けられる眼光には殺意が窺える。
悲しくもコウヤはその瞳を直視しながら次第に荒くなるロナの槍に寂しさに似た感情すら生まれていた。
「ロナ……何でこんな事になったんだろう……」
「戦いの最中にお喋り? 嘗めるなッ!」
ロナが感情をむき出しにして激怒するとコウヤは其れを只、受け流していく。
闇雲に繰り出される槍は雑と言う他なく、太刀筋が大雑把に為るにつれて回避も容易くなっていく。
互いに力量を把握できるレベルだからこそ、ロナはコウヤに勝てない事を理解していた。
しかし、諦める気など無かったのである。
ロナがアルディオから受けた指示はコウヤの足止めと出来るなら抹殺であった。
アルディオはロナがコウヤに勝てない事を理解していた。
其れを知りながらロナをぶつけた理由、それは優しさを利用する為であった。
コウヤと言う人物がロナを今まで始末できるチャンスがあったにも関わらず生かし続けた事実を踏まえた結果の人選であり、今まさに事実としてコウヤはロナを斬れずにいる。
全てはアルディオの思うままに事が進んでいく。
そんなアルディオ本人は離れた森の中で数人の部下と共に動きが起きるのを只待っていたのである。
ロナはコウヤとの戦いで自身が何故戦っているのかを考え始めていた。
何時からこうなったのかを考えるロナは涙を流しながら、コウヤに対してがむしゃらに槍を振るう。
最強の槍を手にするも勝機の見えぬ戦いは次第に心を蝕み絶望は更なる憎悪に繋がっていく。
「何でよッ! 何で当たらないのよ! 私の努力が無駄になるなんて絶対に嫌ッ!」
その言葉にこの戦いで初めてコウヤが本気の反撃に転じる。
「努力って言ったね……人を殺める為に強くなったって言うの! 母さんはロナにそんな事は望んで無かったのに、残念だよ」
コウヤは槍を弾くとその一瞬で刀を地面に突き立て、ロナの懐に飛び込んでいく。
「血迷ってるの! 武器を手離して勝てると思うな、コウヤ=トーラス、私を嘗めすぎだ!」
槍を両手で力強く振り下ろすロナに対してコウヤは片手につけた手甲を使い刃を滑らせ、槍を回避する。
そのまま懐目掛け、拳を突き出したのである。
拳は溝内にめり込み、コウヤは威力を加減していたが瑠璃色の王と繋がる数多の種族の力は人間の体を体内から破壊するに十分すぎる威力があり、咄嗟に防御に転じたロナであったがそのダメージにより、肋骨を確実に粉砕されていた。
「カハッ……ゲホっゲホっ、私は諦めない、コウヤ……」
腕を前に伸ばしながらコウヤの胸ぐらを掴むようにして意識を失うロナ。
そんなロナを確りと抱き抱えるコウヤ。
「今回は僕の勝ちだロナ。もう引き分けは無しだよ。皆は怒るだろうけどさ、またやり直そう、僕には只一人の幼馴染みなんだからね」
パチパチパチパチ……
二人の戦い……幕引きを見つめながらブラッドマンは手を叩きながら姿を現した。
「実に感動的で退屈な勝負でした。こんなに待った結末が平和的など呆れて物も言えません、実に嘆かわしい」
突如姿を現したブラッドマンを睨みつけるコウヤ。
「お前は誰だ!」
「これは失礼、私とした事がうっかりしていました。私はブラッドマン。戦場を赤き世界に染める者とでも、言っておきましょう」
ブラッドマンは指先にヴァルハーレンから手に入れた戦利品を見せつけるように掴んでいる。
その瞬間、コウヤはヴァルハーレンの身に何かあった事を理解した。
「お前……ヴァルハーレンに何をしたんだ!」
ブラッドマンは笑いながら戦利品を長い舌で舐めると口をニヤリと緩める。
「わかりませんか? 美味しく頂いたのですよ。命を……」




