新たなる一歩 ミカソウマ
「コウヤとの時間が欲しいーー!」と、朝から騒ぐシャーデ。
それを必死に押さえるキュエルとベルミの姿が城の中にあり、使用人達も『流石に我慢の限界なのだろう』と口にしている。
1日の大半を責務に追われるコウヤを只我慢して見守る日々に痺れを切らしたのはシャーデだけではない。
キャスカとラシャも同様に我慢の限界を越えていたのである。
そんな五人とは対照的に、ミーナ、ディアロッテ、カカの三名は書類整理や作成などに向いており、若干だがコウヤとの時間を確保していた。
「此のままだと不味いねぇ? 私達だけ役立たずになっちまうじゃないか」
「そうなのじゃ! 妾が役立たずなどあってはならぬ。何とかせねば」
「あ、ラシャ様。キャスカ様。御早う御座います」
そんなキャスカとラシャの前を御茶をトレーに乗せたアルカが通り過ぎていく。
ラシャは目を輝かせるとアルカの肩を押さえ、静かに動きを止めさせる。
「へ? あ、あのラシャ様……なにか?」
嫌な予感しかしないと振り向くアルカの目に写るラシャの笑み。
「アルカよ。それは妾が運ぼうではないか。貸すがよいぞ」
ラシャに御茶を持っていく先がボルト達の仕事場だと説明するアルカ。
其を聞いたキャスカはテレパスを使いボルト達の元に移動する。
いきなり現れたキャスカに緊急事態かと慌てるボルトであったが、キャスカの表情を垣間見て即座に理解していた。
「な、何か……」と口にするボルト。
それに対し、キャスカは軽く事情を話すと直ぐにボルト達が室内からコウヤの元に移動を開始する。
キャスカはボルトに対して、コウヤの仕事が余りに過酷すぎると語り「助けてやって欲しい」と、わざと弱々しく語ったのである。
それを聞き直ぐにボルトはエデル達を連れてコウヤの元に急いだ。
そんな事とは知らぬコウヤはいきなり現れたボルト達に首を傾げた。
「あれ、ボルト、それに皆も集まってどうしたの?」とコウヤが口にした時、後ろからラシャが御茶を持って姿を現した。
「皆で茶にしようではないか。シャーデ、キュエル、ベルミ。運ぶのを手伝ってくれ」
そんな四人に混じりながらキャスカも御茶を配り始める。
ボルトに対してキャスカが一言「こうでもしないと、コウヤは休まないからな」と耳打ちをする。
そんな中、慌ただしく廊下からコウヤ達の部屋に向けて響く足音。
「ワンちゃん! 遊びに来たよ。“あーー!”皆だけズルい! アイリも混ぜて」
魔弾義足と義手を使いこなし、明るい表情を浮かべるアイリの姿がそこにあった。
「ワンちゃん? またお仕事増えてるし、島のせいで大変だね?」
そう、コウヤの魔王としての責務は今は亡き魔王シアン=クラフトロから引き継いだ物であり、更に時空島の出現が増え始めたのが原因であった。
時空島の出現時に起こる不思議な魔力の波、普通ならば気付かない程度の物が最初に起きてから、本格的な亀裂が起き始める。
それを元に島人の救出に向かうのだが、コウヤが魔王となってから、数週間の割合で時空島が出現し始め、カラハ大陸で過ごしていた間にも1度、時空島が姿を現していた。
だが、問題になっていたのは時空島の出現だけでなく、出現後にも存在する。
島人が現れず、時空島が直ぐに姿を消したと言う報告が度々届くようになっていたのである。
その為、コウヤは時空島の現れたポイントや時刻などを細かく記録したりと役割分担をしても追い付かない程の負担が一気にのし掛かって来ていたのである。
「コウヤ、そう言えば祭りはどうする、色々あったけど……今年はやるの?」
ミーナからの急な問いに返答に困るコウヤ。
祭りとはミカソウマの港で行われる食の祭りの事であり、コウヤ自身は祭りを行うべきか否かを悩んでいた。
「難しく考えない方がいいよ。早い話が何時までも気にしてたら何も始まらないからね」
そうキャスカに言われた瞬間、心に絡み付く複雑な思いがゆっくりであるが解れるように感じるコウヤ。
「そうだね。僕達もずっと変わらないわけにはいかないんだよね」
コウヤに視線が集まり、暖かい笑みが向けられるとそのままに皆が頷く。
「うん。やろう!」
レクイエム(アグラクト殲滅作戦)以降、初のミカソウマの祭りが開催される事に決まったのである。




