魔王の1日はアルバーンにて2
久々の再会に喜びを露にするガンドラは陽気に飲み明かし、付き合うコウヤとヴァルハーレンも次ぐ次に酒瓶の山を作り出していった。
そんな中、ガンドラが最初に酔い潰れ、静かに三人で始めた飲み比べは終了する。
ガンドラは部下達に介抱され、ヴァルハーレンは部下達と騒ぎ夜を明かしていく。
そして、コウヤは船に用意された自分の部屋に辿り着くと火照った身体から熱を放出するように冷たいベッドの上に倒れ込むと静かに息を吸い込んだ。
室内に緩やかに吐き出される「ハァ~」と言う声。
そんなコウヤの部屋に鳴り響く“トン、トン”と言う静かなノック音。
「あの、コウヤ? 入っていい?」と聞こえるミーナの声。
「構わないよ。入ってきて」
ゆっくりと扉が開かれ、中に姿を現すミーナは少し嬉しそうであり、寂しそうであり、むくれている。
「そんな顔してどうしたんだい?」
何時もと変わらぬ優しい声にミーナは吸い込まれるように部屋の中を歩いてコウヤの元に向かう。
「コウヤ……私は君に必要なのかな」
コウヤの体内の酒が一瞬で蒸発するような感覚に襲わる。
ミーナの表情を見れば誰もが何かあったのかと尋ねる程だろう。
「何で、いきなりそんな事を聞くのさ?」
コウヤの言葉にニッコリ微笑むミーナからは若干の酒の匂いがする。
酔ってはいないが感情が溢れてしまいコウヤに尋ねずには要られなかったのである。
それはある意味では悲痛な叫びであった。
ミーナはいつの間にか増えていくコウヤの妻達と自分を比べてしまっていたのである。
不安がミーナ自身の価値を曖昧な物にしてしまい。不安で仕方なくなったミーナは勇気を出してコウヤに尋ねようと決めた矢先に、室内に戻るコウヤを見かけたのであった。
全てを理解する事は無かったが、訳もわからず目に涙を溜めるミーナの手を引き優しく自分の方に引き寄せる。
そして、ベッドに押し倒すと優しく唇を奪った。
「此れがボクの答えだよ。ミーナ」
そう言うと顔を真っ赤にして笑ながら涙を流したミーナは「コウヤらしくないね」と笑顔を向けた。
二人の笑い声が溢れる室内と裏腹に、部屋の外で様子を窺っていた七人の嫁達は中に飛び込むのを我慢しながらも微笑んでいた。
「キャスカ、ミーナちゃんだけズルい!」
「いいんだよ。シャーデにもいつかわかるさ、さぁ飲み直そう。行くよ皆、ヤボは良くないからね」
キャスカの声に頷くとその場から皆が移動を開始する。キャスカは皆がコウヤを愛し、誰よりも皆を愛しくれるコウヤだからこそ冷静だったのだと、その後の酒の席で皆に笑って聞かせた。
色んな思いが積み上がるアルバーンの夜は賑やかにそして、少し切なく過ぎていく。
その日だけは、皆がミーナにコウヤを譲り、次の日からは、コウヤの妻であり、一番の存在を目指すことになる。
しかし、誰もが家族であると言う事実を大切に思いながら笑っている。
コウヤの知らない所で確りと支えあう妻達の姿がそこにあった。
……朝になると動き出した船の上で苦しみ悶える物達の姿があった。
朝方まで飲み続けていた8人の妻達は完全な二日酔いに襲われていたのだ。
ボルト達が介抱すると率先して動こうとした時だった。
「ボクがやるよ。大切なボクの妻達だから、任せて」
そう語るコウヤはミーナと共に揺れる船内での介抱に力をいれた。
不思議な光景に皆がついつい、覗き込む。
国や大陸すらも制圧する新魔王が七人の妻をもう一人の妻と介抱しているのだから、当然だった。
そんな船内には『強く恐ろしき魔王』という印象から『強くお優しい魔王』と1日で広まり、コウヤを見る皆の眼は以前にもまして暖かい物へと変わっていた。
回復した8人に二日酔いになるほど飲まないように口にするコウヤ、しかし、8人の妻達はコウヤに抱きついた。
「なら、コウヤさんが責任を取って、二日酔いにならないように私達にも構ってください……」
そう語るディアロッテにミーナを含めた七人が頷くと二日酔いに苦しんでいたとは思えない勢いで一斉にコウヤに詰め寄る。
余りに不思議な光景にコウヤから笑みが溢れ出していた。
沢山の別れがあったアグラクト王国戦、その日から苦しみを抱え腹から笑えた日など無かったコウヤはその日、全てを包み込む優しい感覚に全てを許させたように感じていた。
そんなコウヤ達の声を扉越しに聞いた四将達は「心配は無用ですね」と小さく呟きその場を後にした。
コウヤの嬉しそうな笑い声を聞き、内側と外側の両者が笑みを溢した瞬間だった。
そして、大海原を進むガレオン船は徐々にシアン大陸へと加速していく。
コウヤの魔王としての仕事はまだまだ始まったばかりであり、シアン大陸では多くの者達がコウヤの帰りを待ちわびていた。




