魔王の1日はアルバーンにて
クレアルバディア共和国での長い時間が瞬く間に過ぎていったその日、カラハ大陸の港には巨大なガレオン船が数隻その堂々たる姿を現していた。
ミカソウマからヴァルハーレンが直々にエデル=ガルデンとその部下達をカラハ大陸からシアン大陸に移動させる為に船を運んできたのである。
エデルは錯乱していた意識が徐々に戻っていたが、アグラクト崩壊からの記憶は無く、自分が何を仕出かしたのかを理解しないままに死の恐怖に震えていた。
そんなエデルと部下達の姿を目の当たりにしたボルトは複雑な面持ちのままに全員を船に案内していく。
「ボルト隊長……俺は死ぬのかな、何したか分からないんだ……思い出せないんだ」
ダークエルフは確かに好戦的な種族であるが理由の無い戦いは行わない。今エデルは自身がどれ程の罪で魔界へと連行されるのかも分からぬままに苦しんでいたのだ。
「エデル……すまなかった。俺が側に居たなら全てを止められただろうに・・・すまない」
ボルトの無念さを肌に感じるエデルはボルトに笑いかけた。
「まるで悪夢のようです……でも、奴隷だからなんですよね。俺の命だけで罪を償えるんでしょうか……出来ればそうであって欲しいと願います」
複雑な感情が交差する中、船に乗り込むエデル、船内に入って直ぐの事である。
集められた船内の広い一室、世に言う食堂である。次々に案内される部下達の姿にうつ向くエデル。
そして、ヴァルハーレン以外の者達が手を胸に当て、下を向くように頭を足れる。
姿を現したコウヤはその場に居た全員に頭をあげるように言うと、ボルトの横で下を向くエデルを自分の前に呼んだ。
「改めて、僕が現魔王のコウヤ=トーラスだよ。自己紹介したのも忘れてるのかな?」
その言葉を耳にしたエデルは額から汗が吹き出して受け答えをしようとするも言葉が喉に詰まり、声は愚か息すらも忘れてしまいそうな心境であった。
「覚えてないなら構わないよ。ただ自分の口でそう言ってくれないかな? 勘違いはしたくないんだ」
その言葉に震える唇を必死に動かし言葉を発するエデル。
「申し訳ありません。魔王陛下……俺、私はここ数日の記憶はおろか、数ヵ月の記憶すら思い出せずにおります」
「なら、今から改めて名乗ろうじゃないか? コウヤ=トーラスだ」
「エデル=ガルデンです……」
ぎこちなくも挨拶を済ませるとコウヤは本題に入る。
コウヤはエデル達の手に嵌められた手枷を外させるとエデル達にある選択肢を与えたのである。
1、ミカソウマの民として移住し暮らす道。
2、カラハにて、生活を新たにスタートさせる道。
この二つをその場に居る者全員にえらばせたのである。
勿論だが、船が港より出港すればカラハ大陸には引き返さない事も確りと伝えている。
コウヤは自らの道を選ばせる為に船の中という空間を選んだのである。出口には人払いをしており、安全は保証すると先に約束まで口にしていた。
そして、選ばれた決断はミカソウマへの移住であった。
皆がざわめく中、エデルはコウヤに膝を着くのでは無く、頭をその場に押し付けるようにして涙を流し礼を口にしたのだ。
「俺は……貴方のような寛大な王が居るなどと知らなかった……全てを捧げ、忠義に生きると誓います」
その瞬間、全ては自然と決まり清流が緩やかな流れを作り出すように次々に頭を下げるエデルの部下達の姿もそこにはあったのである。
誰一人欠ける事なく、決まった決断にコウヤは再度、確認をしてから船を走らせる。
そして、始まる船上の宴。ヴァイキング達が歌い踊り楽器を鳴らす。更に室内に運ばれたテーブルと椅子、そして、食べきれんばかりの料理が次々に並べられていく。
唖然とするエデル達に微笑むコウヤは席に着くようにその場に居た全員に言うとエデル達を歓迎すると語ったのである。
「エデル=ガルデン此れからも皆の助けとなるように、確りと勤めて欲しい。君達は今日からボルトの部隊に配属とする。いいね?」
「はい、我等一同、誠心誠意一切の邪心無き忠誠を魔王陛下に誓います!」
再度、畏まる集団を見て頷くとコウヤはただ一言「なら、暖かいうちにご飯にしよう」と口にし、皆の口に料理が運ばれると皆は長き戦闘が本当の意味で終わったのだと幸せを噛み締めるように泣きながら食事を続けていく。
コウヤ達一行は海に出ると最初に向かったのはシアン大陸ではなく島国連合となったアルバーンの元を訪ねる事に決める。
カラハ大陸同様に今の状況が気になっていたコウヤは自身の目で確認したいと考えている。そして、エデル達にも同様にその目で確認して欲しかったのである。
見えてきアルバーンの本国を前に船を停止させるコウヤは先にテレパスを使い四将(ボルト、テルガ、ギリオン、ガザ)と共にアルバーンの王ガンドラに逢いに行くのであった。
アルバーン上陸直後に向けられる鋭い視線、そして、弓を引くような僅かな木の軋むような音がコウヤの耳に入る。
「コウヤ殿、ここは私が」とボルトが口に出した時、アルバーンに動きがあった。
「テメェェェラ! 武器を下ろしな。魔王に間違っても傷ひとつつけんなよ」
そう声をあげて笑いながら頭に腕を組んで現れた男こそ、ガンドラ本人であり、コウヤ達の顔を見て改めて挨拶が交わされる。
「よう、魔王コウヤ。元気にしてたか? 久々だなぁ。よし! 野郎共ォォォッ! 宴の用意だ。今夜は宴だアアァァァァッ!」
コウヤの話を聞く前から肩を組み、笑いながら豪快なガンドラのペースに巻き込まれた結果、船に乗って居た全ての者がアルバーンに上陸することになり、一晩中ガンドラと騒ぎ続ける事になったのである。
「さあ! コウヤ、ヴァルハーレン、飲み比べと洒落こもうじゃないか! グラスを前に、乾杯ィィィィ!」
楽しそうに酒を飲むガンドラはコウヤとヴァルハーレンとの再会に喜びながら、グラスの酒を飲み干したのであった。




