悲しきクレアルバディア共和国1
世界が新たな戦禍がうねり出そうと動き出した時、クレアルバディア共和国に激震が走る。
クレアルバディアの地にとして姿を現した黒い服にフードを被った一団、背格好は皆違えども、統率のとれられた足並みを揃えて進行してきたのである。
見張りが慌てふためき、直ぐに共和国軍が防衛と警告の為に城壁を固めていく。慌ただしい空気に緊張が走るクレアルバディア国内では敵か味方か分からぬ集団が突如として姿を現した事に不安の声が上がり、治安部隊が急ぎ出動する。
黒い服の集団と対峙する共和国軍は余りに無防備に近づく黒服の姿に寧ろ危機感にも似た恐怖を感じていた。
説明出来ない程の圧迫感と底知れぬ威圧感……禍々しい強者の貫禄を目の当たりにしたかのようにして、動きを止める共和国軍に対して黒い服の一人が前にでる。
「今すぐに武器を捨ててくれ、そうすれば命は助ける」
それは有り得ない交渉であり、交渉と呼ぶには余りに露骨で即答することの叶わぬ言い分でもあった。
指揮官は全軍に対して弓を構えるように指示をだし、更に盾部隊と槍部隊を前面に配置させる。
攻防の両方を即座に指示し、混乱させない手際の良さに黒服は溜め息を吐くように頷いた。
「ああ、やっぱり、それが答えなんだね……なら仕方ない」
そう言うとフードを取り素顔を晒す黒服。
フードから現れた正体はコウヤであり、直ぐに後ろに構えをとる黒服達もフードを取り素顔を晒していく。
そこには、ボルト、ギリオン、テルガ、ガザのコウヤ直属部隊となった四人の武将とそれに連なる戦士達の姿があり、共和国軍は亜人の混合軍を前に身を震わせる事になる。
「答えは出たんだ……今からクレアルバディア共和国を敵とする。武力の支配を進める愚かな国ばかりか……皆、今よりボク達が争いの芽を摘み取る。いくぞ!」
掛け声を合図に一斉に動き出す魔王軍、しかし、共和国軍はそれに応戦しようと武器を構え、後方の弓矢部隊が一斉に矢を射ち放ち、その前方に位置する盾部隊が道を作るように突撃して行く。
ここまで共和国軍が魔王軍に対して退かなかったのは簡単に言うならば、傲りである。
共和国軍の誰もが魔王軍の魔族は人を傷つけられないと考えていた。それは共和国軍の自信に繋がり、自らの勝利を信じて疑わない物になっていた。
しかし、共和国軍の誰もが知らなかったのだ、何故アグラクトが魔族に負けたのか、様々な噂が舞い踊るように囁かれ続けた1年の間にアグラクト滅亡は魔王に負けた王が国を吹き飛ばしたと囁かれ、それが定着してた。
実際の事実は誰も知らないのがカラハ大陸の実状であった。
そして共和国軍は魔族の力をその身で知る事になる。抵抗されない一方的な戦いを想像していた共和国兵達は容赦なく槍を震うギリオンと巨大な両手斧を震うテルガに恐怖した。
刹那……目の前にいた仲間が次々に魔族の手に掛かり姿を人から只の塊に変えていく様に絶望していく。
無論、誰も助けには来ない……共和国軍に対して攻撃を開始したのはコウヤ達だけではなかった。
テレパスにより知らせを聞いたミーナ。そしてキャスカ、ディアロッテが左右後方から同時に攻撃を開始していたのである。
最初の警告を軽く考えた事事態が間違いだと気づかされる。
直ぐにクレアルバディア共和国から交渉の為に大臣達が慌てて姿を現す現状にコウヤは怒りと不快感を感じていた。
コウヤは最後まで自身の姿を現さないクレアルバディア共和国の国王に対して最後の選択を迫ることに決めたのである。
戦いだけを見れば突然、ミカソウマの魔王軍が攻めてきたように見えるだろう、しかし事実はそうではない。
コウヤはクレアルバディア共和国に対して武力放棄をするように何度も手紙を送っていた。
しかし、返答が代えさせれる事は無くコウヤは時間切れであると判断し、直接答えを確認しに来たのである。
今の状況を目の当たりにしているであろう事実を前に姿を現さなぬクレアルバディア国王を既にコウヤは王として見ていない。
そしてコウヤは攻撃の手を緩めることは無く、王が居るであろうクレアルバディアの城内に一人、テレパスを使い移動した。
この行動も既に計画に組み込まれている。
コウヤがクレアルバディア王を捜し城内を進んでいくと慌てて逃げる身なりの整った男達が走って行る。
男達の護衛と思われる兵士達が次々に剣をコウヤに向けて襲い掛かる、そんな兵士達を容易く刀で斬り、その刃を男達に向ける。
廊下が血に染まる中、男達が駆け抜けてきた道を辿るように奥に進むコウヤ。
その先に扉があり、コウヤはノブを回し部屋の中へと入っていく。
ゴホッゴホッ……と、咳き込む音がコウヤの耳に響いた。
「誰か居るんだね。出てきてくれないかな?」
そう語るコウヤは刀を直ぐに振れるように指に神経を集中していた。しかし、出てくる様子は無く、コウヤは自らの足で咳のした方に歩みを進めた。
その先にはカーテンの閉じられたベットがあり、その中から咳き込む音と手で押さえるようなシルエットがくっきりと見えている。
コウヤは無言のままにカーテンを開くと幼い少年が一人、口を必死に押さえていた。
「ハァ……ハァ……君は誰……僕に近寄るとよくないんだ……」
小さな声で必死にそう訴える少年。
「僕はコウヤ、コウヤ=トーラスだよ。君はいったい?」
コウヤの問いにゆっくりと息を吸い答える少年。
「僕は……クレアルバディア共和国、第18代国王……アルタラム……クレバディア」
そう語ると更に咳き込むアルタラム。
コウヤは眼を瞑り、刀を鞘に一旦収め、眼を開くと同時に刀を抜き、刃をアルタラムに向けた。




