“三本刀”2
ガンドラに向けて投げ放たれる毒針が次第に効果を現し始めていく。
最初は小さな掠り傷だった。
連続で放たれた針の嵐、ガンドラの腕を掠めた一本の針から体内に流れ込んだ毒が体の動きを鈍らせる。
回避しようと動かした足が縺れ、ガンドラの脹ら脛に更に数本の毒針が突き刺さると次第に全身の感覚が無くなるような脱力感に襲われていたのである。
「ふわふわするだろ? 最高に気分がいい筈だ、そんな状態で死ねるのだから感謝してほしいもんだよ」
「相変わらず、耳障りだ、女野郎……」
その言葉に藤四郎は握った脇指をガンドラの肩に突き刺し、肉を抉るように刃を左右に回転させる。
「グワァァァ……アハハ、遣り方が女々しんだよ……」
怒りながら振り上げられる刃、藤四郎が動けないガンドラの心臓目掛けて力一杯に降り下ろそうと構える。
そんなガンドラの表情は死を覚悟した者とは思えない程にギラついた目を藤四郎に向けている。
その表情に気付いた藤四郎の足首に軽い痛みが走ると片足から後ろに向かい倒れ込む藤四郎の姿があった。
訳も分からず、困惑する藤四郎をゆっくりと立ち上がったガンドラが上から覗き込む。
「凄い即効性だな、危ない物使いやがって、俺達、アルバーンじゃなかったら不味かったな」
頭上で平然とそう語るガンドラの姿に藤四郎は目を丸くしながら、声にならない声を出そうと必死に口を動かして手を震わせている。
ガンドラ達、アルバーンはオーガ族と魔族、他にも数多の種族が交わり進化した自然混血種族であった。
生き残る為の本能と適応能力が長い進化の仮定で毒に対する免疫を作りあげていたのだ。
藤四郎の毒針が即効性の致死毒ならば、結果は違っていただろう。しかし、藤四郎の敵を軽んじる性格は致死毒でなく、神経毒を好んでしまっていたのだ。
強者の傲慢、それこそが藤四郎の最大の過ちであった。
そんな藤四郎をただ、見つめるガンドラ。
そして、その時はやって来た。
藤四郎が死をアッサリと受け入れる訳がないと考えたガンドラは解毒剤の存在を考えていた。
死を間近に慌てる指先に握られる解毒針、しかし、ガンドラはその指を全力で踏みつけると解毒剤を取り上げた。
「助かりたいなら。もう邪魔するな、誓えるなら針を渡す」
必死に頷く藤四郎、そして、手渡された針を慌てて体に突き刺した。
次第に体が動くようになっていく藤四郎の姿を確認するとガンドラはその場から移動を開始しようとする。そんな背を向けたガンドラに対して藤四郎は刃を向けたのだ。
「甘いんだよッ! オニガァァァァ!」
凄まじい形相に顔を歪め、怒鳴り声をあげるにガンドラは無言で振り向くと口に銜えていた毒針を勢いよく藤四郎の心臓目掛け吹き付けた。
ガンドラの尋常じゃない肺活量で吹き放たれた毒針は肋骨の隙間を抜け心臓に到達すると静かに停止した。血液と共に全身に送られる毒に藤四郎はガンドラを目の前に絶命したのである。
「素直に退いたなら、死なずに要られたのによ。バカ野郎が……だが、最後の顔は男だったぜ」
ガンドラと薬研藤四郎の一騎討ちはガンドラの勝利で幕を閉じたのである。
そんなガンドラは全ては運であったと感じ自身の未熟を浮き彫りに去れる事となった。
アルバーンだからこその勝利、それは自身の力を絶対としてきたガンドラに更なる高みがある事実を示すことになったのである。
ヴァルハーレン、ガンドラの勝利、そんな事実を知らずに刀を重ねる二人の戦士。
不動国行とコウヤである。
不動の巨大な刀が体に押し当てられ、足にその重みを感じるコウヤは今までのどの斬撃より、強力である事実をその身をもって感じていた。
一撃を防ぐ度に吹き出す汗、心臓の高鳴りが激しさを増し、口から飛び足してきそうな感覚、全てが今までの戦いの数段上を行く真なる死闘。
その切っ先に神経を集中するコウヤの眼が更に紅く染まっていく。
刀の束に触れる指先一本が神経を研ぎ澄まして、一つの生命体のように力の強弱をつけながら、不動の斬撃をギリギリで受け流し、返しの一撃を狙い加速させる。
互いの力量と技量の差を埋めるように発動される“アシスト”、そんなコウヤを嘲笑うように力強く打ち出される不動の斬撃も次第に剣速を上げる。
格上の更に格上と言う印象を受けながらも、必死に食い付くコウヤ。
指先は不動の斬撃を受け流し続けた為に爪が割れ、血が地面に“ポタポタ”と垂れている。
「何故、そうまでして我が前に立ち続ける! 死ぬ方が楽な事もあろう、いや、死が怖いか……」
剣を受け止めるコウヤに対してそう口にした不動。
「死ぬのは確かに嫌だよ、でも、今の僕には、仲間がいるんだ! だから殺される覚悟よりも殺す覚悟があるんだ。ただ死ぬなんて御免だ!」
「ぬかしたな! わっぱが男を語るなど……片腹痛いわッ!」
更に重く力強い一撃にコウヤの全身に痛みが襲い掛かる。
コウヤは強く願った。力が欲しいと負けたくないと、全身の筋肉が悲鳴をあげながらも一撃を反そうと足を踏み込む。
踏み込んだ足の先からの激痛、コウヤのギリギリの精神を繋ぎ止める痛み、限界を超える加速、全ては勝利を掴み取る為の一撃であった。
激しく振動する黒い刃、一振りに込められる思いと覚悟。
その一撃を受けた流そうとした不動の刀を叩き斬り、不動の肩から腕を流れる風の如く切り落とした。
「ぐあァァァッ! ……見事なり、わっぱ」
不動が切り落とされた腕を片手で掴むとそのまま、コウヤ目掛け斬りつける。そんなコウヤの腕に装着されたカルムのロストアーツが斬撃を防ぎ、砕けかけていた不動の刀を完全に砕いたのであった。
「無念……信長殿……先に行っております」
不動の全身が砂になると、コウヤは自身が勝利した事実に身を震わせた。




