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亜人と歩む ~瑠璃色王のレクイエム~  作者: 夏カボチャ 悠元
第三部 光の先に見える物
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戦場を掻き乱す者2

「第一班は、直ぐに塹壕の位置を、できるだけ正確に調べてくれ、第二から第五は儂に付いてこい!」


「「「ハイっ!」」」


 源朴は急ぎ塹壕の位置を部下へ調べるように指示を出し、自身は今まで忘れていた遠い過去の経験と身に付いた勘を頼りに戦場を駆け抜けていく。


「急ぎ合流せねば、今回の戦いは正しく(いくさ)、経験が無ければコウヤ坊とて、命に掛かる」


 顔を強張らせる源朴の面持ちに部下達にも緊張が走る。


 戦場を走る一団の前方から突如姿を現した一人の男。その手に握られた刀が黒雲から漏れ出した稲光に照される。


 源朴の背筋を悪寒が突き抜ける。

 悪寒は背中を(やいば)で、なぞるように圧倒的な威圧感を放ち全身を喰らい尽くさんと突き抜けた矢先に這い上がって来るような嫌な感覚を源朴に感じさせた。


 それは瞬く間に起きた、眼を放した訳では無かった。只、男が剣を一振りしただけのことであった。


 源朴を中心に左右に広がり移動していた端の第五、第四班が血飛沫と共にその場に倒れていく。

 源朴自身、迫る刃が見えたわけではない。

 只一言……「全員、地べたに(うず)まれ死ぬぞ!」と発した。


 余りの速度に更に数人の犠牲者を出すも全滅を避けた源朴達。


 敵の力が人間以上であると悟ると源朴は刀を抜き、鞘を地に置いたのだ。


「お前達は先に()け! 生きていれば追い付く。急ぎコウヤ坊と合流せい」


「源朴師範、我等も!」


 そう言い刀を構えようとする部下達、しかし……源朴はそれを赦さなかった。


「儂に加勢が必要だと言うことか、ふふ、ならばお前達に此を預ける」


 地面に置いた鞘を掴むと部下の一人に手渡した。


「必ず取りに行く。無くすなよ」


 鞘を受け取った部下の手が震える。


「お預りしました……御武運を!」


 部下達が移動を開始するのを待って居た化のように歩みを進め始めた男。


 源朴が何者かを尋ねると男は口を開き、声を出し名乗った。


「我……へし切長谷部(へしきりはせべ)なり」


九十九神(つくもがみ)妖怪(あやかし)の類いか、此方に来たことを後悔するがよい!」


 ーーへし切長谷部。


 源朴の元の時代にある武将が愛した愛刀である。

 へし切り長谷部の切れ味は鋭く人を力入れずとも紙のように切り捨てる。


 ーーーー


 源朴の脳裏に浮かぶ最悪の相手の姿、願わくば、そうでないことを願う源朴。


 しかし、コウヤとその瞬間に対峙している男こそ、源朴の考える最悪の相手であった。


 名を織田(おだ) 信長(のぶなが)尾張国(おわりのくに)勝幡城(しょうばたじょう)の生まれ。尾張の大名、織田家に生まれる。乱世にその名を轟かせ、戦国の覇者にして大六天魔王の名を欲しいままにした、別世界の魔王である。



「我は織田信長。貴殿の首を貰いに馳せ参じた。大人しくその首を差し出すがよい!」


 睨み付ける瞳は透き通った黒であり、全てを飲み込む漆黒の夜空に輝く月のような圧倒的な存在感をコウヤに与える。


「僕はお前にあげられる首なんてない」


 互いの目付きが刃の切っ先のように研ぎ澄まされる最中、ノブナガが口元を緩めた。


「確かに首は一つだからな、だが戦を終わらすに、これ程合理的な方法もあるまい」


 即座に鞘に手を掛け、抜きの体勢に入るコウヤ。


 鞘を握った筈の手から指先迄が痺れるような感覚に襲われる。


「どうやら、本当の戦を知らぬと見える。どれ程に戦ってきたか知らぬが、その様な無様な姿を戦場(いくさば)で晒す未熟者と知れッ!」


 刀を構えるノブナガ。


 真っ直ぐにコウヤに向けられた切っ先には、微塵の迷いも存在しなかった。


「我が覇道の前に立ち塞がる者は斬る!」


 ガギンッ! ギギギギギッッッ!


「良いねぇ? 実に興味深いじゃないかぁね!」


 コウヤに襲い掛かる刃を止めたのはシアンであった。


「シ、シアン様……」


 動けないコウヤを見て即座に神経毒と気付いたシアンがノブナガを直視する。


「格好いいねぇ、さっきのセリフ、でもねぇ……横槍がと言うよりねぇ、横針が入ってたみたいだぁねぇ」


 シアンは首切り刀(ハルパー)を手にノブナガに片方の手の指を立て挑発するように動かし、ノブナガもそれに対して笑みを浮かべた。


「横槍か……くだらぬ物を! まぁよい。横槍はそちらも同じ、蒼き肌の者よ、少しは腕に自信があると見える、が、自惚れが身を滅ぼす事になると知れ!」


 シアンの挑発にあえて乗るノブナガ、互いに繰り出す一撃、一撃は容赦のない神速の如き凄まじさの中で確実に互いの急所を狙っていく。


 精神毒を解毒したコウヤはその凄まじい二人の切り合いを目の当たりにする最中、自身に刺された毒針と同じ薬品の香りを感じた。


 そして、シアンに向けられた毒針を叩き落とした。

 無言で走り出すコウヤの先に居た男の手には長い吹き矢が握られていた。


「おやおや、気付かれましたか? 参りましたね」


 そう口にした男。落ち着いた雰囲気に黒髪に眼鏡、髪は結っておらず、細い切れ目を開きながら首を傾げている。


「貴方が毒針を飛ばしてたんですね」


 コウヤの言葉に頷いて見せる男。


「簡単な仕事でしたよ。場所さえ分かれば誰でもこなせる。しかし予想外です、まさか敵の将に会うなんて」


 喋り続ける男は、最後に名を口にした。


「いけない、名を名乗らずに失礼しましたね、私は薬研=藤四郎(やげんとうしろう)本来は毒より、斬激戦が好きなんですよ、名乗りは終わりにして、始めましょう」


 そんな時、貝役が“ボオォォォーーーーぉぉン”と、大きな法螺貝の音を戦場に響かせた。


 そして、ノブナガの声がコウヤ達の耳に響いてくる。


「全軍退けいッ!」


 その声を聞き、薬研は残念そうに身を退いた。


「おや、時間ですね、また会いましょう」


 コウヤは薬研の後を追おうと考えたが、シアンの存在が頭を過った。


 急ぎ合流したコウヤとシアンは皆を一旦引かせた。そんな最中、源朴の部下達が、源朴の鞘を手にコウヤの前に姿を現した。


 全てを聞く前に源朴の元にテレパスで移動するコウヤ。


 目の前には、血だらけの源朴が無惨に横たわっていた。かろうじで息がある事を確認すると回復魔法(リペルト)を掛けて必死に命を繋ぐ。


 無意識の中で源朴が口にした「織田の大うつけ……」と言う言葉、コウヤは源朴が何かを知っていると確信したもとより死なせる気は無かった。更に力を込めて源朴の命を繋いでいく。


 その後、医療班が合流し源朴の命を救った。


 アグラクト王国を前に突如姿を現した異世界の第六天魔王、織田信長。

 今までの常識を覆す策略と強大の力をその身に宿した化物であった。

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