覚悟の先へ3
悪魔に取り付かれたように押し寄せる三軍の激しい攻撃はコウヤ達の予想を遥かに上回る勢いで強行突破をするように魔法防壁に雪崩れ込む。
次々に討ち取られる仲間を足蹴に荒々しくそして、殺伐とした表情に次第に亜人達にも恐怖が生まれていく。
次第に薄れる防壁、そして薄れた箇所から一斉に降り注ぐ矢の雨に防壁を担当していた亜人達が射ぬかれていく。
「全員、防御魔法を上空に展開しろッ! 次が来るぞ」
マトンの声に慌てていた亜人達が落ち着きを取り戻し、防壁と防御の魔法を再発動する。
マトンは一気に前衛に合流すると豪快に大剣を振るい、敵を弾き飛ばす。
技と言うは荒々しくもシンプル過ぎるその一撃は、無我夢中に突っ込んできていた敵兵の足を止めさせた。
反対側からはキャスカの部隊が一気に駆け上がり、敵の血飛沫が宙を舞う。
大軍勢に対して一切の撤退の素振りを見せぬ亜人達、数の勝負など関係なかった。
将軍を失った時点で気付くべきだったと全ての兵士が感じた瞬間、大空を飛び越えて三軍に降り注ぐ巨大な鉄の砲弾。
大海原を埋め尽くすように現れる巨大船団。
ヴァルハーレン率いるガレオン船団であった。同時に丘を埋め尽くすように現れる第三勢力アルバーンの軍勢が声高らかに雄叫びをあげた。
予想だにしない敵の増援にアグラクト兵達は、次々に撤退を始める。
怒る血鬼の言葉など誰の耳にも響いていなかった。
そんな血鬼の前に姿を現したアルディオは戦場を確認するとニヤリと微笑んだ。
「何が可笑しい! このままじゃ、不味いんだよ!」
焦る血鬼に対して、アルディオは静かに口を開いた。
「ロナ、やってくれ、確実に頼むよ」
アルディオの後方から走り出したロナが血鬼の片足を手にしていた槍で切り落とすと血鬼は悲鳴をあげた。
「ぎゃあぁぁぁぁ、アルディオッ! テメェ……ハァ……ハァ」
血鬼の反応にロナが片腕を、更に片耳を次々に切り離していく。
「お願い……ハァ、ハァ……殺さないで、何でも言う事を聞くから……お願いよ」
命乞いをする血鬼は、既に虫の息であり、戦える状態ではなかった。
「ならば、貴女のロストアーツを頂きたい? そうすれば考えます。どうしますか」
血鬼は言われるがままにロストアーツをアルディオに手渡す。
「ロナ、解放してあげてください」
その瞬間、血鬼の心臓に突き立てられた槍。
「アルディオ……約束が……ちが……」
絶命した血鬼の顔は歪み、妖艶にして淫靡な美しさは微塵も残っていなかった。
「解放されたでしょ? 痛みからね。いくよロナ、アグラクトを終わる」
そう言い戦場から姿を消したアルディオ達、人知れず殺された血鬼の存在に気付く者は居なかった。
その日、六将全てがアグラクトから姿を消した。
既に勝利はないと確信しながらも後にも先にも引けないアグラクト王は、最後の強行策を敢行した。
「カラハの亜人は全て敵だ! 今すぐに処刑しろ、女、子供、誰一人例外はない!」
カラハ亜人大虐殺、完全な絶望がカラハを包み込もうとする最中、コウヤ達は、早馬を捕らえると、その事実に急ぎ各村から町にまでテレパスで移動できる部隊を送り、近隣の村に関してはヴァルハーレン達ヴァイキング部隊を向かわせた。
合流したベルミとキュエルのハーピィー部隊とギリオンのガーゴイル部隊も空から地図に無い農村を捜し、亜人の保護に向かう。
アグラクト王の強行策は結果としてコウヤ達の戦力分担と時間稼ぎを成功させたのだ。
レストも一度送った自身の部下を撤退させ、アグラクト防衛にまわした。
しかし、各地に届いた報せは亜人達の血で次々に大地を染める事になった。
それは新たな怒りを煽り、各地で亜人達による反旗が掲げられる。
各地から上がる火の粉と遠吠えにも似た雄叫び、カラハは完全に人間と亜人で二分され、それは多くの血を血で塗り替える結果となった。
そして、亜人達はコウヤ達の元に集結していく。
全ての村を町を確かめ終わった頃には既にカラハの亜人と人間の比率は逆転していた。
何十万では済まない数の亜人と数億の人間の屍の山がカラハを赤く染めあげていった。
そして、コウヤは最終目的地であるアグラクト王国を目指し大軍勢を率いて進軍していく。
コウヤ達の進軍を阻止しようと次々に襲い来る、人間と悪魔の騎士達。
悪魔騎士と悪魔兵達は突如現れコウヤ達に不意討ちを仕掛ける。
それを合図に人間の部隊が次々に残された戦力で攻撃を開始する。
「アヒャヒャヒャヒャ、亜人だぁ? デトライト様に逆らった事を後悔してろやッ!」
攻撃をしてきたのは、“デトライト”と名乗る悪魔騎士の指揮官であり、顔は骸骨であり、全身を漆黒の鎧で覆い、全身を覆い隠せる程のマントを身に付けている。
そして、マントからは次々に悪魔兵が呼び出されていく。
激しい攻防戦の中、デトライトに対して前に出たのは、キャスカであった。
「あんたさ? モテないでしょ、そんな顔だもんね?」
安い挑発、しかし、安いからこそ、反応を見れば敵を判断できるとキャスカは考えた。
そして、デトライトは挑発に乗ってきたのだ。
「ざけんなよ? 亜人がぁ、挑発のつもりだろうが、後悔して死にやがれッ!」
マントを閉じ、キャスカに向かって走り出していく。その手には赤黒い剣が握られ、激しい斬激を繰り出していく。
キャスカもまるで楽しむように剣を構えると軽く受け流しながらに笑みを浮かべる。
「あんた、甘いんだよ! 剣星に剣で勝つには一万光年速いんだよ!」
キャスカの剣がデトライトの鎧の繋ぎを貫き、一気に踏み込む。完全に貫かれたキャスカの剣、しかし、コウヤは声をあげた。
「キャスカッ! 離れて、まだまだッ!」
咄嗟に後退するキャスカの頭上からギリギリで降り下ろされた剣。
「ズリイなぁ? 1体1なら、勝負アリだろうによ?」
剣が貫かれたままに余裕を見せるデトライト、その骸骨の不適な笑みにキャスカの額から一筋の滴が頬を流れていく。
デトライトとの勝負が振りだしに戻る最中、更なる悪魔部隊がコウヤ達を目指し進行していた。




