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亜人と歩む ~瑠璃色王のレクイエム~  作者: 夏カボチャ 悠元
第三部 光の先に見える物
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覚悟の先へ2

 三日目の朝日が要塞都市を照す。三将軍の軍勢が押し寄せる中で迎える朝に皆が勝利を掴み取らんと表情を引き締め、武器を磨く。


 見張り役のミーナからの連絡がコウヤに入ると直ぐに戦闘準備を完了した者から馬に乗る。


 敵は三将軍総勢12万の敵兵と副将と各隊長を考えるならば更に戦力は上がるだろう。

 それに対してコウヤ達、亜人部隊は総勢1万4千弱であり、戦力差は約10倍であり、数字だけ見たならば絶望的であろう。


 しかし、バライムの誰もがコウヤの勝利は揺るがないと信じていた。


 キリシマとガストンの心配を他所に皆の顔は生き生きと輝き、敵の接近に対して直ぐに開門されと凛と構えた亜人部隊が次々に防衛陣をとる。


 マトンとキャスカを中間に配備し更に後方にミーナが構える。


 前線にラシャとコウヤが構え、左にランタンが右にキリシマが指揮官として配備される。


 その数に三将軍は驚かされていた。最初の報告では2万の知将軍を破り生き残り1200程度と聞いていたからであった。


「さて、どうする? 私達、冷将隊は先陣なんて御免だからね?」


 そう語る冷将の女。名は無く通称“血鬼”(けっき)と呼ばれ、その妖艶な目は全てを飲み込むように、その唇は全てを吸い込むように、全てを嘲笑うその性格と美貌は貪欲な薔薇と言うべきであろう。

 六将軍、唯一の女性であり、本来の仕事はアグラクト軍部の拷問室長である。


「もとより、先陣を譲る気なんてねぇよ!


 そう言い鼻息を荒くする男は猛将を名乗る“バァッハル”であり、巨大な肉体と筋肉を武器とし、巨大な斧を軽々と使いながら先陣を駆け抜ける事を生き甲斐としている。

 “アグラクトの暴れ牛”とされた山賊の王であったが新たな戦場を求めて六将の道に進んだ男である。


 そんな二人を眺めならが、一人コウヤへの殺意を燃やす男が一人、魔将と呼ばれる男であり、その全身は漆黒のフードとローブで覆われており、顔には不気味な仮面を被り、素顔は六将の誰も知らない。呼ばれている名は……No.666、アグラクトの研究機関の実験体である。


 三軍が一斉に陣形を作りだし、要塞都市を三方向から包囲した。

 コウヤ達との距離を考えれば戦闘は時間の問題であった。


「今より、我等は亜人を排除し力を示す! 死ぬ事は赦さん。殺されるならば自ら自害するか、頭一つになっても相手に食らい付け。いくぞォォォォッ!」


「「「ウオォーーォォオオオオッ!!」」」


 要塞都市に対して宣戦布告を大声で口にする“バァッハル”は猛将の名に恥じぬ勢いで戦場を大将首を求めて駆け抜けていく。


 そして、正面の防壁魔法を力付くで抉じ開けると其処から一気に防壁の中に侵入する。


 しかし、バァッハルが防壁内に入ると即座に新たな防壁が展開され、部下を数名のみ連れて孤立する。


「見ていて感じたぞ! 己の力に自惚れ単身乗り込むとは、蛮勇にも程があるわ!」


「なんだ? ガキが偉そうに……俺様に喋り掛けテンじゃねぇぞォォォォォッ!」


 バァッハルの前に堂々たる姿を現したラシャ。


 それ以降の言葉は不要と言わんばかりに構える得物は太陽の光を反射しながら互いに向けられる。


 一筋の風が互いの肌を掠めた瞬間、同時に走り出す。


 豪快に斧振りかざすバァッハルに対して速攻の剣術を披露するラシャ。


 大地を割る程の攻撃を紙一重で躱し、逆に手傷を負わせていく。

 斬ってから移動までを一瞬で行うラシャに次第に苛立ちを露にするバァッハルは斧に風魔法を掛けると全力で振り抜いた。


「ぬわぁァァァっ。く、見た目より賢いようじゃな、流石に焦ったぞ」


「俺に魔法を使わせたんだ、簡単に死んでくれるなよ!」


 ラシャは剣をもう一本取り出すと、即座に構えを変える。


「良かろう、“黒い剣(くろいつるぎ)”ラシャ=ノラールと呼ばれていた頃のように存分にその身に刻んでくれようでわないか!」


 生き生きとした表情が次第に刃のように研ぎ澄まされ、両手に握られた歪なまでに禍々しい黒刀は風の如く斬激の嵐を巻き起こす。


 次第に受けきれなくなるバァッハルを再度、魔法を使おうとチャンスを窺った瞬間だった。


「妾から、隙など窺う余裕は無かろうてッ! その腕を頂く!」


 咄嗟にバァッハルは腕を切り落とされまいと斧を盾のように構える。


 しかし……脇腹が焼けるように痛みだし、即座に自身の体を確めるバァッハルは血を吐き、体の脇から腹部にかけて、削ぎ落とされていた。


「テメェ……汚ねぇぞ、戦士の勝負に……ガハッ……」


「妾は戦士ではない。最後に言っておくが、妾の夫はもっと強い。寧ろ今殺られた事を感謝するがよい!」


 本来ならば、真っ向からでも十分に勝てる戦いであったが、ラシャからすれば相手に合わす義理など無かった、ただ其だけである。


 先陣のバァッハルが呆気なく討死にしたと同時に防壁を突き破り部隊を進行させる男がいた。魔将のNo.666である。



「全員、ミナゴロシだッ! 掛かれい」


 次々に防衛拠点として作った城を破壊していく。

 魔法を手から打ち出す速度はコウヤよりも遥かに早く、圧倒的な威力の魔法を次々に連射していく。


 そんな敵を前にコウヤは堂々と構え、テレパスで移動する。

 そんなNo.666はテレパスを使い、コウヤの背後に回り込む。咄嗟に回避した一撃、それは殺意以外の何物でもなかった。


「アハハ……嬉しいぞ、コウヤ=トーラス! お前に復讐する為に力を手にいれたのだからな」


「お前は誰だ! 何で僕に復讐したい。答えろ!」


 静かにフードを外すと其処には顔半分がまるで怪物のようになったロサ=マドックの姿があった。


「覚えているだろう! オマエのせいで全てを失ったんだからな」


 マドックはアグラクト亡命後、全てを失っていた。

 復讐の為に全財産をつぎ込むも、コウヤ達により、ナンバーズは全滅そんなマドックの行き着いた先はアグラクトの研究機関であり、今の姿は自身を改造する代わりに地位を手に入れた成れの果ての姿であった。


「コウヤ=トーラス! 貴様だけはオレガこの手で!」


 話の最中に構えられた魔導銃(リボルバー)が無言のままに発射される。


 マドックの上半身に命中した魔弾がローブを焼き、上半身が露になるとコウヤは怒りに震えた。


 マドックの両肩と背中に無数に埋め込まれた硝子のケースの中に液体と共に管に繋がれた小さな脳が装着され、心臓部には、それと同じ数の心臓が脈打っている。


 そして、マドックはコウヤに魔法を連続で発動していく、その度に硝子ケースが輝き、点滅するように次々に光が移動していく。


「それが……お前の魔法連射の仕掛けなんだね……」


「ああそうさ! オマエを八つ裂きにする為に手にした力だ!」


「そうなんだね……」そう語るとコウヤは再度テレパスで移動を開始する。それに対して次々にテレパスで後ろを取りに掛かるマドック。


 コウヤは更に速度を上げていく。


 マドックの動きが若干にぶった瞬間、テレパスで目の前に移動し斬り掛かる素振りをしてから直ぐにテレパスで後方に移動する。


 動きの詠めないマドックは焦り距離を取ろうとテレパスで移動した時、背中から突き立てられた刀。


「グアァァァァ!」


 マドックは驚きを露にし後ろを振り向く、既にコウヤの姿は無く、次の瞬間には肩に激しい痛みが流れ、マドックは急ぎテレパスを使用しようとする。


 しかし、マドックはその場から移動する事が出来なかったのだ。


「気づいたよね? テレパスは膨大な魔力を使い発動する魔法なんだ」


 コウヤはテレパスを連続で使用する最中、次第に輝かなくなる硝子ケースに気づいた。

 魔力の限界を越え、脳が機能しなくなった物と心臓が負担により鼓動を停止している事を魔眼を通して即座に理解したのである。


 最後に残った同時に点滅していた硝子ケースを刀の振動で貫き更に切り落とす事で完全にマドックを追い込んだのだ。


 そして、最後の瞬間……マドックの絶望に歪む顔が地べたに落下した。


 コウヤ達は二人の将軍を討ち取る事に成功したのだ。


 そんな事実を知り、戦場で欲情する血鬼の姿があった。


 普段ならば戦闘に興味を示さない血鬼であったが、コウヤとラシャの戦いを見て体が火照りだしていた。


「いいわねぇ、あの子達、きっと素敵な表情で鳴くんだろうなぁ?」


 血鬼が将軍を失った猛将軍と魔将軍に対して号令をかける。


「気が変わったわ」

「全軍今すぐに雪崩れ込みなさい。逆らえば反逆罪で死罪! 生き残りたいなら食らいつくしなさいッ!」


 その言葉を偽りと思う者は一人としていない。


 “拷問の血鬼”が遣ると言うならば、街一つ、年寄りから女、子供に至るまで全てを食らいつくす。


 全軍を支配する恐怖が武器を再度強く握らせた。

 生きる為に殺す。自身の為に他者を殺める事に躊躇いなど既に無くなっていた。

 戦場を新たな風が吹き荒れる。

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