“レクイエム”
コウヤに笑いながら近づくNo.22は絶望しか知らない。見えね恐怖を周りが理解するまで、力なしとして、処分を待つ日々に震えていた思い出、偶然発覚した能力、それが現れなければ死んでいた事実、そこからNo.22の力は進化した。
相手の苦痛を悦びに変えるように脳が進化すると、そこからは廃人を戦場で造る事に楽しさを覚え始める。
「アハハ、ゴメンねでも、殺さないよ……壊れたままずっと生き続ければいい、死ぬのは嫌だもんね」
No.22はコウヤを知らなかった。どれ程の悲しみをその胸に抱き、心がどれ程砕けそうになりながら生きてきたのかを、背を向けて優越感を全身に感じる最中、チクリと激痛が走り、身体が熱をあげる感覚に襲われる、身体が無造作に横たわり、微かに見える黒光りした刃、全てを断ち切るように振り下ろされる。
鈍い音がNo.22の耳に残ったのを最後に魂の光が消える。
「僕はもう……母さんにもソウマにも別れを告げたんだ。勝手に二人を利用するなッ!」
その言葉に皆が目の前の敵に集中する。
シアンとマトンは相手が人間かを確かめるように軽い攻撃を開始すると反動が来ないことを確認する。
No.と言ってもあくまでも対人戦を前提にされており、本気のシアンとマトンの前に敵う筈はなく、激しい攻撃を繰り返すもその炎はあっという間に掻き消されていった。
そんな中苦戦を強いられたのはディアロッテであった。
ディアロッテの相手は魔導銃とは異なる魔導銃、実弾を火薬で飛ばすタイプの物であり、風魔法によりその速度を加速させる攻撃法を用いていた。
ディアロッテの魔導銃と違い威力は然程強力はない、しかし、森を移動しながら打ち出される弾丸とそれにより発せられる火薬の香りで鼻が利かなくなる、更に銃声はディアロッテの耳の中にこだまし聴覚を麻痺させる。
獣人とのハーフであるディアロッテにとって相性が悪すぎる敵の攻撃は数発間隔で移動され魔導銃の攻撃は回避させ続ける。
無闇に発射すれば敵に居場所を知らせる事になると判断したディアロッテは移動しながら風下に敢えて移動する。
それを察知して移動する敵。互いに一撃が致命傷に繋がる事を理解しながらの探り合いになる。
風下から木を盾に状況を確認し、その間に耳鳴りが無くなった事を確認すると次の一撃が来るまでの間に全神経を耳に集中させる。
僅かな草木の靡く音を除外しして、草木を踏み締める音を探る。
集中することのみが打開策となる戦況、冷静さを欠いた時点で勝利は無くなる事実が更に神経を研ぎ澄ましていく。
そして、聞こえた草木を踏み締めるような鈍い音、ディアロッテは即座に立ち上がり魔導銃を構え一心不乱に引き金を引いた。
次の瞬間、背中から伝わる冷たい鉄の温度、ディアロッテは敵の策に落ちた事実を感じる魔導銃を下に向けた。
「諦めがいいんだね? でも、助けてあげないよ、俺達もお仕事だからさ、あ、でも俺の物になるって言うなら助けてやってもいいなぁ? 亜人ハーフなんて珍しいし、どうよ?」
「御断りします。私は貴方みたいな人が嫌いなので、それにコウヤさんやキャスカ様を裏切るなんて出来ません」
男が銃を力強く押し付ける。
「わかってねぇな、武器捨ててさ、此方向いて命乞いしろって言ってんだよ! 命乞い? じゃないと詰まらないだろ、だから獣は嫌なんだよ」
ディアロッテが魔導銃を地面に置くと静かに振り向きニッコリと笑みを浮かべる。
「人間に命乞いをするなら、舌を噛んで死にます。ですので怒りのままに殺せなかった事を悔しんでください」
男が慌てて銃を構えた瞬間、銃が手から消えディアロッテが手の上に移動する、更にそこから飛び上がったディアロッテが大木と入れ替わると男の頭上に大木が落下する。
「グヤァァァ……」
突破に発動させた風魔法しかし、それは虚しく大木に傷を刻むに過ぎず男は動かなくなった。
「貴方が即座に私の頭を撃ち抜いたなら、立場は逆だったでしょう、遊びが過ぎましたね」
ディアロッテの戦った男はNo.21。
試作品の銃に取り付かれた男であった。本来は風魔法の使い手であった。しかし、最後は風魔法すらまともに使えぬままにその障害を閉じた。
この時点でNo.が全滅した。アグラクト兵はその事実に慌てふためき我先に船に乗り海に出るがシャーデとギリオン、ベルミとキュエル達により無惨に海の藻屑へと姿を変えた。
殲滅戦とかした各島の戦いはコウヤ達の勝利となり、アグラクトは大きく戦力を失う事となった。
しかし、その事実をアグラクト王の元に持ち帰る者は既に居ない。
戦闘終了後にセテヤ大陸のユウインダルスにて一晩の休息を取る面々。
次の日、城の前に集まった王達は、コウヤとシアンに頭を下げると王位をヴァルハーレンに譲る事を決めたと口にした。
それにより、セテヤ大陸が一晩で統一される。
王達は自分達の力で全ての人間を相手取ることは無理だと話し合い、セテヤの統一こそが生き残る道であると言う結論に達したのだ。
王位を譲る事で忠義を捧げ、ヴァルハーレンに民の運命を託したのだ。
そして、2つの大陸は1つになる。
海底から地上に向けて土石魔法が発動すると瞬く間にセテヤ大陸とバライム大陸両方から大地が姿を現していく。セテヤからは獣人とドワーフ達がバライムからはコウヤ達がユウインダルスを海と繋げたままになるようにして数日かけて完全な一つの大陸となる。
世界最大の大陸が出来上がるとコウヤはシアンにある提案をする。
コウヤの口から出た言葉はアグラクト殲滅戦、しかし、シアンは魔族はまだ人間とは戦えないと口にした。
事実を考えれば、魔族の大半は魔界で生をうける。今魔界から動けるのは島人と紅眼に亜人ハーフのみであり、ミカソウマに属する魔族もまた、直接的な攻撃は出来ない状態であった。
島での戦闘もギリオン達は船や建物を狙い攻撃するが直接的な攻撃は出来なかった事実を踏まえれば、今すぐにアグラクトへの進行は得策で無いことは言うまでもなかった。
結論が出ようとする最中、集まり出す者達はミカソウマの者達であった。
「妾は賛成じゃ、悪いがシアンよ。我らエレはコウヤと行く」
ラシャの言葉に頷くミーナ達獣人も武器を天に掲げその決意を示す。
ギリオンとテルガも動揺に命を燃やす覚悟を決めると事態は更に加速する。
セテヤの戦士達も動揺に立ち上がったのだ。
頭を悩ますシアン、コウヤ達と意見が割れた事実は先の未来に暗雲を立ち込めさせる事に他ならない。
「珍しく悩んでますねシアン。ですが悩む必要が無くなりましたので安心してください」
テレパスで現れたのはランタンであった。
そして、ランタンは「次の月がない日に魔族は念願を果たす事になります」と口にした。
シアンはそれを聞くと直ぐにコウヤ達に「任せるよ」と言い残し魔界に急ぎ帰還した。
“任せる”それはアグラクトへの進行を許すと言う意味に他ならない。
直ぐに移動しようとするコウヤ達にヴァルハーレンも同行すると口にした。
最初の目的地は元ジュレム大陸、そこに巣食うアグラクト兵の殲滅を最優先として一斉にヴァイキング船とガレオン船団が海を突き進んでいく。
その日、アグラクト殲滅作戦“レクイエム”が開始された。




