島での戦い
アグラクトは文字通り周囲を囲うようにバライム大陸に進行する為の足掛かりを必要としていた。
その為ジュレムの地に一度大部隊を送り、セテヤ周辺の無人の島々を次々に領土として旗を突き立てていった。
その行為を宣戦布告とし、新たな争いの火種がセテヤ大陸に迫る。
しかし、静かに受け入れる程ヴァルハーレンは優しき王ではなかった。
恐怖には恐怖を狂気には狂気を、島々に展開するアグラクト軍に対して戦闘を行うことを決める。
次々と大海原を別れて進むヴァルハーレン達、力で全てを凪ぎ払い前進するのみの退かね戦い。
戦闘開始から三日、それは、まさに刹那、突如テレパスで姿を現したシアンと直属の魔王軍が島を我が物顔で支配し笑う人間達の顔を次々に歪めさせたのである。
同時にマトンの部隊も手つかずの島に到着すると戦闘を開始する。
そんなシアン達、魔界同様に4つの島に対して戦闘を開始したのはミカソウマであった。
コウヤ、ボルト、テルガからなる第1部隊。
ミーナ、ラシャ、カカの第2部隊。
キャスカ、シャーデ、ディアロッテの第3部隊。
ギリオン、ベルミ、キョエルの第4部隊。
各隊にバーバリアン、エルフ、獣人、ガーゴイル達が配備され、バランスと機動性を最大限に発揮する部隊が構成されていた。
ラシャはエルフ達と共に飛魔と呼ばれる鳥の魔物に乗り、移動を開始する。
同時にギリオン隊のガーゴイルとハーピィーの部隊が大空に飛び立ち一気に加速した。
島から悲鳴があがると他の島の部隊に対して救援を知らせる狼煙があがる。
しかし周辺の島々を見張り台から確認した兵士は息を飲んだ。その額から汗がゆっくりと滴り落ちる。
そこから遠くない位置にある島々、全てから同様に煙が上がり、全ての狼煙は救援を意味する物であった。
アグラクト指揮官は知らせを知り、顔をしかめる中、無数の島から急ぎ撤退を開始するアグラクトの艦船の姿もあり、戦況の流れは完全にセテヤとバライム側に傾いていた。
そんな最中、突如敵船から炎があがる。次々と炎上する船が海底に姿を消していく。
その中の1隻に堂々たる姿で甲板に立つ数人の人影。
「たく、人間ってさ、なんで直ぐに危なくなると逃げるかな? 本当に幻滅なんだけど」と、口にする女。
そんな発言を聞き笑う男達。
「さぁ、悪魔退治といこうじゃないか?」
「あれ、鬼退治じゃないの?」
「どっちでもいいんだよ! 早い話、ヴァイキングと魔族を潰せば終わりなんだからよ」
男女合わせて六人しかいない状況、だが、その顔は自信に満ち溢れ一切の敗北を感じさせない。
各々が移動を開始する中、各島の司令官達は自身の死を覚悟していた。
島で暴れるヴァイキング達の前に座り込むアグラクトの司令官は諦めて笑っていた。
ヴァイキング達は諦めたと判断したがそれは彼等に向けられた絶望であった。
「言い残す事はあるか?」と尋ねるヴァイキングに対し、指揮官が口にしたのは「お前達も直ぐに後を追うだろうさ」と呟いた。
指揮官の最後の言葉が意味する者達はその暴力と言うには余りにかけ離れた力で攻撃を開始していく。
彼等にとってはまるで動く的を撃ち抜く遊びに感じたことだろう。
即座に島全体が姿を変える程の激しい攻撃が開始され、最初の島からヴァイキングと人間が姿を消していく。そんな無人島に戻った島を笑いながら魔力を叩きつけて沈めると大声をあげて腹を抱える男。
他の五つの島でも同様に攻撃が開始される、その内の一つで戦うミーナとラシャ、そしてカカの姿があった。
異変に逸早く気付いたカカは即座に戦線を離脱すると言い出し姿を消す。
向かった先で人間相手に笑いながら刃を無数に突き立てる女の姿、カカに気づくと妖艶な目を絡み付かせるように向ける女。
「アハっ、やっぱり居たわね? 私の可愛いNo.1……貴女がNo.2を失って孤独に為るのをずっと待ってたのよ」
その言葉に顔をひきつらせる。カカの瞳は怒りと憎悪で支配される。
「御気に入りの娘達はどうしたの?」
カカの語る御気に入りと呼ばれる女達は、奴隷として廃棄を免れたNo.の事であった。そんなNo.を支配し優越感に浸る事を何よりの楽しみとする女のはNo.27と呼ばれている。
見た目はスラッとした肉体に二重の黒い瞳、それを引き立てる美しい顔と綺麗な肌、しかし性格は残酷にして大胆と問題しかない。女を壊すのが趣味の女である。
「壊れたわ、いっぱい遊んであげたから……肉体と精神すべてがバラバラになっちゃったから棄てたの、でも良かったわ、お陰でNo.1ちゃんといっぱい遊べるもの」
そう語るNo.27は笑いながら息を“ふぅ”と吐き出す。
カカは直ぐにその場から動き見えない吐息を躱す。移動前に居た地面に霜が現れ、後ろの木々が凍り付き崩れさる。
No.27はNo.2と同等の能力を有した存在であった。威力だけを見ればNo.2より劣る、しかし見えない吐息を使い敵を凍結させるその力は絶大であった。
「No.1諦めなさいよ? 手足が無くなっちゃうわよ?」
「心配ありがとう、No.27……でも私はもう、No.1じゃない。カカだ! 既に主と契りをかわし、肉体も心も捧げた。お前の奴隷になる気はない」
No.27の表情が豹変し憎悪に歪む。
美しい容姿は崩れ、カカを汚物でも見るように蔑んだ目で見つめる。
「汚れてるなんて……私の物になる前に汚されたなんて……ふふふ、いいわ。ゾクゾクする」
一瞬で表情が変わり最初より更に妖艶な目付きが向けられる。
No.27の頭の中では、カカが命乞いをして主を解放するように願う姿が浮かび、目の前で処刑し絶望で壊れるカカの表情までも想像されていた。
カカは無言のまま、No.27の考えを予想し怒りに震えている。その手には既に炎が形成されている。
炎を前面に放つと慌てて避けるNo.27、それからは無言のままの攻防が続いていく。
二人の戦闘の相性は良くも悪くもない。どちらも打ち消し合い更に激しく続く攻防戦。
次第にカカの攻撃は当たらなくなり、辺りに飛び火した炎が燃え上がり黒煙が立ち込めていく。
「なによ、もう疲れたのかしら? それとも燃え上がった炎で私を何とか出来ると考えてるのかしら?」
余裕を見せるNo.27の攻撃の勢いは衰える事はなく、カカを襲い続ける。互いの後ろには炎の壁と氷の壁が出来上がり互いに逃げ場がなくなっていく。
状況は五分と五分に見えるが実際はNo.27が有利な環境に変化していた。
一帯の温度を下げる事でカカの運動能力が低下し、次第に回避速度が鈍くなる。
その光景を確認すると勝利を確信したような笑みを浮かべるNo.27。
それと同様に笑みを浮かべるカカは覚えたばかりのテレパスを使い真横に移動する。そして小さく呟いた。
「もう詰んでるんだよ……おバカさん」
カカの言葉と突如現れた事に動揺したNo.27が大きく息を吸い込んだ瞬間、異変と言う名の激痛が喉を襲い、喋る処か息すら儘ならなくなり、地べたを転げ回るNo.27。
「忘れてるみたいだから一応、教えてあげるわね。アナタ達は私を元に生み出されてるの……私は熱を全て操れるの、聞こえてないわね?」
既に喉が焼き爛れ、息を吸い込んだ肺から内側が焦げる悪臭が漂う。
「アナタも人間と同じね、嫌な香りがする」
カカはそう言うと残りのアグラクト軍を一掃し、ミーナ達と合流した。
合流後にNo.の存在をコウヤに伝えるミーナ。
そんな時、コウヤの前に男が現れる。
「よう、お前は強いのか?」
そう尋ねた途端に襲い掛かる男、直ぐにバーバリアンがコウヤの前に移動し、男に攻撃を開始しようと武器を振り上げる。
「邪魔だ。俺はお前に聞いてるんだ! 獣人ッ!」
男の手から大剣が出現し力任せに振り抜かれた瞬間、コウヤの顔面にバーバリアンの血液が飛び散り、頬を赤い血飛沫が無数の線となり地面に向けて垂れていく。
「邪魔者は居なくなったな! さぁ答えろ! お前は強いのか……あ?」
目の前のコウヤが次第に回り出したかと思うと次の瞬間に地面がその目に写る。男は自身の下半身が立ったままに血飛沫を飛ばす様に自身の体が半分、いや1/3が一瞬で吹き飛ばされた事実を把握した。
「強いかどうかなんて……知らない、でも僕は仲間を傷付ける奴に負ける気はない」
怒りである。コウヤが感じた一番強い感情、それを包むように絶望と憎悪が心を浸食していく。
ボルトとテルガに島から退避するように口にするコウヤ。
「時間が掛かりすぎるよ……なんで! なんで、お前達は争いしか生まないんだよッ!」
コウヤの激しく強大な魔力が両手から放たれた瞬間、アグラクト軍の拠点を蒸発させ、勢いが衰えなぬ、その魔力は海を熱湯のように沸騰させながら消えていく。
それを目の当たりにしたNo.達の残り6人が集まり出す最中、シアン達も同様に移動を開始していた。
一瞬の静けさが包み込む島は嵐の前の静けさのようであった。
コウヤの一撃により出来た焼けた大地に次々と姿を現すNo.達。
反対からはシアン達も駆け付け、互いに睨み合うようにして眼光を鋭く向けると戦闘は瞬く間に開始される。
言葉を話す事も無いままに戦闘を開始したのは、コウヤ、シアン、マトン、テルガ、遅れて現れたキャスカとディアロッテであった。
各々が別れて戦闘を開始する。コウヤの前に立ちはだかるNo.22。幻術を操り精神を崩壊させる事で勝利を掴んできた男であった。
コウヤが斬り掛かる瞬間に幻術を使い更に心に潜り込むNo.22。
戦いが激しくなる最中、苦しみ出すその姿に皆が静まりかえった。




