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亜人と歩む ~瑠璃色王のレクイエム~  作者: 夏カボチャ 悠元
第三部 光の先に見える物
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コウヤの決断 押し寄せる死人2

 レクルアまでの後退に掛かる時間は通常ならば、馬が無くとも4日もあれば辿り着けるだろう、しかし状況はそれを赦さない程に緊迫していた。


 ウルシャインの民とグラナ樹海の民を護衛しながらの移動に加え、ウルシャインとレクルアの境目から少し進んだ辺りに、元ジュネルバの民が暮らす集落があり、この期に復讐を果たさんとする動きが懸念された。

 しかし、現状維持には食糧も兵の数も足りていないのが現状であり、コウヤはガザと話し合う。


 決まったのは、先にガザの部隊を向かわせ、中間をテルガとバーバリアン部隊 、反対をギリオンのガーゴイル部隊が守り、安全を確保してから住民を避難させる事に決まった。


 そして、朝陽が顔を出すまでの数時間を護り抜いたコウヤ達は朝から夕方までを急ぎ移動に費やし、更に夜は死人が迫る暗闇の道を歩いて移動する事も検討された。


 そんな中、計画通り、人間の集落が見えてくる。急ぎ馬を走らせるガザ達は集落が既に襲われている現状に悪寒を走らせた。


「コウヤ王、なるべく日が暮れるまでに距離を稼ぎましょう……」


 ガザは自身が目にした光景をコウヤに伝えたようと馬を更に走らせる。


 その事実にコウヤは直ぐにその場から休むことなく、レクルアを目指し進んでいく。

 死人は日が暮れれば姿を現すが問題は現れるタイミングである。

 コウヤ達は経験から死人は朝陽を浴びて消えた位置から日が暮れると復活すると考えていた。

 即ち、今居る場所から日が暮れた途端に死人が姿を現す可能性が高く、その可能性を無視出来なかった。


 次第に太陽が頂点から徐々に下がっていく。皆の緊張と恐怖が増していくのと裏腹に大気の温度は日暮れとともに下がっていく。


「皆、もうすぐ日が暮れるっ! 警戒用意っ!」


 進めるだけ距離を稼いだコウヤ達は日暮れの一時間前に前日同様のバリケードを作り上げていた。

 ひらけた草原にミーナの植物魔法で大量の大木を造りだし、それを一気に組み上げ、作製魔法(ファクト)を使い確実に防衛戦の用意をしていく。


 そして、静けさが風となり、大地を撫でた瞬間、死人が姿を現した。


 次々に姿を現す死人、しかし、恐れていた事態が起きたのだ。バリケード内の土地に突如として現れた死人の姿に中から混乱が起きるとその声に反応して住民を襲い始める。


「イヤァァァァーー!」

「うわぁぁぁ! 来るな来るな!」


『グァァァアアアァァァ』


 死人に追われる民、声にならない声を叫びながら住民をただ襲う死人、バリケード内は数秒で地獄と化していく。


「止めろォォォォ!」


 コウヤの怒りの声が激しくバリケード内にこだまする。そして即座に死人が声に反応して走り出す。


 ミーナに住民の避難をリンクで指示すると、コウヤはテルガ、ギリオンと共に刀を手にする。


「ガザは住民の誘導を! ミーナが足場に避難させて! それまで僕達が時間を稼ぐッ!! いくよ」


「「オオッ!!」」


 三人と同時にバーバリアンの軍団も動きだし、一気に内戦が激化する。


 ミーナは攻撃を中断し住民を避難させる中、必死に獣人達が死人に弓を放ち続ける。


 コウヤは朝の道中に移動しながら、矢の先端をU字に加工し、内側を鋭い刃物のように成るイメージを膨らませていった。

 矢は速度を失わぬままに、確実に死人の首を目掛けて射ち放たれていく。


 必死の抵抗と言うべきであろう。外からは次から次に姿を現す死人、中からも同様に姿を現した死人、一瞬で挟み撃ちにされる形になったのだ。

 諦めたらその先には死しか存在しない極限の戦い……皆は精神の限界まで弓に集中し、指先から矢を放つまでの瞬間のプレッシャーは、想像を絶するストレスだっただろう。


 ミーナが住民を全員、足場の上に避難させるとコウヤは水魔法と氷冷魔法を同時に発動する。そして、ガザとミーナが火炎魔法でコウヤの体が凍結しないようにサポートを必死に行いバリケード内には分厚い氷の床が出来上がる。


 二日目の夜が明けるまでにコウヤ達は数百の民が犠牲になった事実に心を痛めたのだ。


 それから三日目の移動が始まるも、既に皆の疲労も限界であり、その足取りは重く険しい物になっていた。

 中には生存を諦め歩みを止める者、死んだ家族を置いていけないと泣きながらその場に止まる者も出始めていた。


 全員を助けたいと訴えるコウヤ、しかし、ガザは涙を必死に堪えながら、脱落者をその場に止める事を決めたのである。


「なんで、なんで見捨てるのさ! もう少し……あと1日もあれば、レクルアなんだよ!」


「現実を受け止めてくれっ! 誰が好き好んで自国の民を見捨てたいと思うものか……だが、皆、限界なんだ。この瞬間も刻刻と日暮れは迫っているんだ……コウヤ王……後生だ! 今を諦めた連中の未来をねがってやってくれ……そして、今を諦めてない連中の導き手になってくれ、頼む……」


 涙を流すガザ、その決意にコウヤは拳から血が流れる程“グッ”と強く握り、歩き出した。


「ガザ……行こう。僕達が今いる民を……助けよう」


 ガザの苦渋の決断を受け入れるコウヤは涙を流すも直ぐにそれを拭いさり、ガザの手を引っ張った。


 血だらけのコウヤの手から伝わる温度はガザの心を炎のように照らす真っ赤な太陽のようであり、全てを受け入れた二人の王は民を先導し再度、レクルアへと歩みを進めたのだ。


 そして……三日目の夜が姿を現すと既に疲労困憊の獣人達の弓は次第に外れ始める。バリケード内を先に土石魔法で岩に変えた為、中からの死人の発生は免れたが既に状況は絶望的であり、ミーナも三日間もの間、休まずに魔力をフルに使い過度の限界に達していた。


 コウヤは一人体外魔力を使い応戦しようと魔導銃(リボルバー)を構えるが、既に森は死に絶え、草木は死人に踏み荒らされ、水は腐肉に汚染されジュレムの地に体外魔力を発せられる物など有りはしなかったのだ。


「ハハハ、コウヤ王……逃げて下さい。ジュレムの地に眠るには早すぎます。今なら、まだバーバリアンの方々もテレパスが使えるでしょう」


「ガザ……今更遅いよ……僕達が来たのはガザ達を助ける為なんだ、諦める気は無いんだ」


 互いに意見が割れ、それでも諦めぬコウヤにガザは真の友情を感じていた。


「コウヤ王……意外に頑固ですね……本当に元人間なんですかい? 信じられねえや」


 全てを諦めぬ方向に話が進み、ガザ自身も弓をひたすらに引き、矢を放つ。


 夜が明けるまで13時間……コウヤ達の長い夜が始まった。

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